平成8年度 委託研究ソフトウェアの提案 |
(研究項目1)
公開したフリーソフトウエアに添付した例題は、法的類推を考えるための典型 的かつ著名なものであり、十分な一般性があると考えている。
しかしなが ら、その反面、特定の国の特定の法分野に限定されていない法規範であり、例 題としては一般的すぎるきらいがある。本GDA方式を、より強力かつ魅力的 なものにするためには、個別的な国家の個別的な条文、そして、個別的なケー ス記述に対し本システムがいかに振る舞いそしてどの程度の興味深い類似性を 検出するかを批判的に吟味しなければならない。
こうした観点から、本年
度においては、実際の法廷で行われた類推判断を本GDAアルゴリズムで模倣
的に導出できるかのハンドシュミレーションおよび実装プログラムによる実験
を行う。
その際、下記の項目研究を遂行するさいの要求仕様と問題点を同
時に明らかにする。
(研究項目2)
領域知識の批判的吟味アルゴリズムの設計と実装:
1年目の成果報告書において既に述べたように、GDAは法益に関する十分な 領域知識が与えられたときに、法益に関する類似性と非類似性を区別し、その 分析結果を仮想的な階層知識として抽出する方式であった。一方、領域知識は 常に不完全であり、GDAの出す出力階層が、ユーザの直観と会わない下記の ような事態が起こりえる。
(研究項目3)
高度知識表現言語に対するGDAの設計と実装:
1年目に設計したGDAアルゴリズムは、知識表現言語としては、順序ソート
論理を仮定していた。これは理論的な表現力においては十分であるが、伝統的
な語彙的知識表現研究(例えば Brachman の KL/ONE)で採用されているロール
フィラー制約等を組み込んでおらず、現実の複雑な法律関係を自然に表現する
観点からはまだまだ非力である。
そこで本年度では、順序ソート論理にロー
ルフィラー制約を組み込んだ、いわゆる「記述論理(description logic)」に
対し、GDA方式を拡張し、表記項目(研究項目1)に対処可能なソフトウエ
アに進化させる。
(タスクグループ活動イメージ)
タスクグループは研究サイトが分離しているためにネットワークをベースにし
た討論を基本として運営する。これらの討論結果をまとめるため、北大もしく
は北陸先端で計1回の小規模な研究会を開く。
また東京にて、少数の法律
専門家を交えた研究集会を開催し、より広い立場からの法的推論システムに関
する集中討議を行う。
こうした活動をとうして、本研究を深化させると同
時にICOT法的推論タスクグループの活動を継承し、本邦における法的推論
研究の一翼を担う。
まず、階層知識に加え、多くの語彙的知識表現言語や電子化辞書で採用されて いるロールフィラー関係制約を組み込んだ記述言語で書かれた法的領域知識に 対し、ゴールに依存し動的な類似性を切り出すソフトウエアである。
本方式においては、基本GDAプログラムが算出した同値類から適当な複数の
写像を抽出し、法律家が行う吟味の対象となる仮想的ケースを自動的に生成し、
ユーザに提示する機能を持つ(研究項目 \ref{kennkyuu2}を参照)。
さらに、法律家が想定している論証と対立する論証を持つ先例を検索するこ
とにより、法律家自身に先例引用と論証構築の再検討を促し、これと同時に、
new HELIC-II が持つ論争モジュールの実験・改良のための題材を提供する点
は、平成7年度研究提案書で述べたとうりである。
本プログラムの特徴とは、類似性の切り出しを動的に行うGDAのアイデアを new HELIC-II を含む高度な法的知識表現言語に適用し、法律判断における類 似性そのものを検証する計算機実験環境を専門家に提供することである。
既存のソフトウエアとしては new HELIC-II や記述論理の処理系(外国研究機
関からフリーソフトウエアとして入手予定)を仮定し、機能をつけ加える形態
である。以下、基本システムと呼ぶ。
機能追加は、基本システムを完全に独立したモジュールとして呼び出すことに
より実現し、それらの内部構造には一切手を入れない。
追加機能は下記の2点である。
上記 (3) で述べたように IFS である new HELIC-II の基本構成をほとんど損 なわない形で、新機能の追加・提供を行う。
基本的には new HELIC-II の動作条件と同じである。すなわち、ハードウェア・ ソフトウェアは以下のようにする。(ただし、記述論理処理系に関しては現在 検討中であり、下記の要求環境は変更の可能性あり。
ユーザとしては、作文上は「法律専門家」と言ったが、実質的には「法律の素
人」が試用することも考えている。その場合、論証における論点がどのように
働くかを観察することができるだろう。
実際、法的論証パスにおいて必要な概念述語や型が全て陽に与えられてい
る場合は、ゴールとその論証パスに関連した類似性が切り出される。結局、判
例とその論証に依存して、論点に関わる類似性が動的に変わる様子をモニター
上で確認することができる。そうした類似性の分析から、逆に、判例適用にお
いて何が重用な類似性で、何が法的な安定性を損なう「表層的」な類似性であ
るかを理解できるのではないかと期待している。
また、後者の側面こそ、専門家が自ら行う類似性判断を、計算機環境の下で顕
在化させ、専門家のセンスに照らして、よりよい論証構築を可能にするのでは
ないかと考えている。
実際、仮想的類似ケースの自動生成機能は専門家といえども気づかない、
あるいは、うっかり見落とした類似性判断のための必要な要件を、再認させる
効果があると考えている。
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