図形描画を効率よく行おうとする場合、図形上に含まれる数多くの類似部分をいかに効率よく描画できるかが問題となる。従来の描画エディタにおいては、「複製」コマンドを使用して必要な部分を複製し、移動することで同一な形状をもつ構成要素を得ることができる。対話的整形においては、手書き図形の整形過程で類似部分と同一の図形を生成することにより、複製操作が自動的に実現される。 予測描画機構は、対話的整形に見られる暗黙的な複製支援機構を発展させ、より積極的に類似部分の生成過程を支援するものである。対話的整形によってユーザが描いた図形が既に描かれている図形要素と同一であった場合、システムは「新しく描いた図形の周囲にも、以前に描いた同一図形の周囲にあるものと同様な図形を描くに違いない」と予測し、自動的に予測描画候補を生成し提示する。 具体的には、現在実装されている予測描画機構は以下のようにして動作する (図3a)。
1. 対話的整形の結果として新しい線分 (起動セグメント) が確定すると、システムは画面中を走査して起動セグメントと同一形状の (傾きおよび長さが等しい) 線分 (参照セグメント) を探し出す。
2. システムは参照セグメントの周囲を調べて、参照セグメントと直接接している線分 (周辺セグメント) を選び出し、参照セグメントとの位置関係を記録する。
3. 最後に、起動セグメントの周囲に予測結果である予測セグメントが生成される。この時、起動セグメントと予測セグメントの間の位置関係が、参照セグメントと周辺セグメントの間の位置関係に対応するように生成が行われる。
参照セグメントとして、起動セグメントを90度回転させたものや、左右上下に反転させたものを加えることにより、90度回転図形や左右上下反転図形の生成が予測される(図3b)。 もし、提示された予測候補中に気に入ったものがあれば、それをタップすることでその線分が選択され、確定される。さらに、システムはそのようにして確定された線分を新たな起動セグメントとして次の予測を行い予測描画候補を提示するため、予測が成功しつづけている限りにおいては、欲しい線分を次々にタップしていくだけで、複雑な図形を描くことが可能となる。予測が外れた場合には、タップする代わりに希望する線分の概形を手書きで描くだけで対話的整形プロセスへ自然に移行することが可能であり、余分なオーバーヘッドは最小限に押さえれらている。