社長対談SO-
「日本における情報産業の構造的課題」 →
 
国民的なコンセンサス

鶴保●さらに、米国と比較してわが国の情報産業が立ち遅れている原因のひとつとして、1993年にクリントン政権のアルバート・ゴア副大統領が打ち出した「情報スーパーハイウェイ構想」のように、強化すべき特定分野への国家主導型ビジョンが日本では不明確で、それが国民にうまく浸透していないからではないかという気がします。

内田■おっしゃる通りで、日本では、国民的なコンセンサスをつくるプロセスがうまく機能していません。
インターネットに代表される情報技術は21世紀社会の新しい中枢神経網になり、それは情報産業だけでなく、全産業を結ぶ神経網となります。明治維新の例でいえば、電信・電話、鉄道、放送、新聞と、新しい情報インフラが導入され、日本はそれをうまく使いこなしました。神経網が新しくなれば、産業活動全体がスピードアップします。それに匹敵するような情報インフラの大改革が今、起りつつあります。

ハードウェア産業の場合は、個別の製品が出来上がると、それが独立して社会に広がっていくことでビジネスが成り立ちました。ところがこれからのソフトウェア産業は、全産業を結ぶ神経網とその上に乗る機能、これの多くは社会システムや企業システムとなりますが、これらを作ることが使命となります。

ですから、そのようなソフトウェアシステムにおいては、業種の壁や生産者や消費者などの人間集団の壁を越えて、そのソフトウェアシステムを利用する国民一般や企業、行政機関などが技術開発やシステム開発に関係し、その国家投資も巨大となります。したがって、国民的コンセンサスに裏打ちされた国家的ビジョンの有無が情報技術開発や産業や社会の情報化を速やかに進め得るか否か左右します。21世紀の社会システムとして何が必用か、その機能はどうあるべきか、また、基盤となる情報インフラはどうあるべきか、といった国民的議論を活発化しなければなりません。

既存の業種の壁や省庁間の縦割り行政の壁などを取り払った新しいビジネスモデルや社会モデルを描き、国家的ビジョンを策定し、それを実現する明確な技術開発政策を作り、試行錯誤を繰り返しながらそれを実施する。そして新しい情報技術を駆使した社会を実現して行く努力を国が行わねばならないと思います。米国は日本の数歩先を行っていますから、その技術開発戦略やプロジェクトを分析し、学ぶべきものは学び、日本に適した方法を見いだして行きたいものです。

鶴保●インターネットの高速化・高機能化がピークに達する時点が、ある意味で情報技術革命のゴールだとしたら、そこまでの距離は加速度的に短くなりつつあります。通信インフラがストレスのない社会インフラとして整備されれば、その上に乗ったサービスも劇的な変化を遂げるだけでなく、これまでにないまったく新しいサービスが生まれてくる可能性もあります。残されている時間は、もうそんなに多くありません。

内田■確かにそうです。まさにドッグイヤーと言われている通りです。そして、新技術開発も、もはや10年計画などと言っている場合ではなく、3年計画でも遅すぎるくらいだ、という話もよく耳にします。しかし、この点についてはよく見極めないと、判断を誤りかねません。
 

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