述語の型階層による推論は, 例えば, 命題「殴る(太郎)」と階
層関係(殴る暴行)から, その上位述語を持つ「暴行(太郎)」
という結論を導くことができる. そのとき述語間の階層関係の定
義は, それぞれの引数構成を明示しないで構成(引数の数
など)の違いに関係なくすべての述語を1つの階層構造として構築するべきで
ある. また, 暴行
違法行為から, さらに引数構成が異な
る述語を含んだ結論「違法行為(太郎, 人)」を推論する. つまり, 包含関係
では導けない述語の引数構成を越えた階層関係を持っている.
これらの推論を実現するために型表現として述語を扱い, それぞれの述
語に階層関係を与える. Ψ項がソートによって項に型階層を持
たせるように, 述語にも別の型階層を持たせる. しかし,
概念構造である型階層を,項だけでなく述語にも導入すると新たな
問題が発生する.その問題は, 型階層上の述語間の関係に対して, それぞれの
引数をどのように扱うかである. 述語の階層において上位と下位の関係は, 論理記号の包含
関係によって表されてきたが, その方法では述語ごとの引数構成の違いによ
る階層表現の難しさがある. このような引数構成のずれを解消する
ために単一化で引数の補充・削除という操作を行なう. 引数の操作は, そ
の述語が持つ引数の構成, 引数の役割と述語の二面性(事象的述語と属性的
述語)を頼りに行なわれる.
特に補充の操作では, 操作前の述語は補充した述語の省略形とみなして, 述語の二面性
から補充する値の限量子を決定する. 事象的述語の場合, その命題は一つの
事象であるから省略された引数もある一つの対象である. 属性的述語の場合,
その命題は一つの事象に限定されない属性であるから省略された引数も広域
的である. 知識表現において, これらの解釈は特殊な例外を除いて成り立つ
性質と考えられる. 従って, 事象的述語では補充引数を存在限定の表現にするのが適当であり,属性的述語では全称限定の表現にするのが適当である.
イベントとプロパティの区別は, 命題を構成する述語の2つの解釈, つまり述語の二面性という問題 である. 二面性を持つ推論は, 命題「飛ぶ(鳥)」に対して, 述語「飛ぶ」 を事象として解釈することで「飛ぶ(動物)」を導いたり, 性質として解釈す ることで, 鳥からカラスへの性質継承の結果「飛ぶ(カラス)」を導いたりす ることである. これは, 命題「飛ぶ(鳥)」に対して, その意味が2通り存在 することである. 述語の二面 性への拡張では, 述語解釈の違いによって単一化の結果に意味的な不具合をも たらす. 「飛ぶ(鳥)」の例のように, 述語と項の型階層上での推論における方向性の違いに影響 されることによる. 従って, イベントとプロパティの実現のために, まず項を構成するソートに存在限定 と全称限定の表記を許す. Ψ項に基づいた項の表記を採用す ることで「鳥」の表現を, birdとx:birdのように「す べての鳥」と「ある一羽の鳥」とに区別する. さらに, 同じ述語に2通りの表記と単一化処理を導 入している. 通常の述語表現pを事象的述語といい, 述 語記号に識別記号#を付けた#pを属性的述語という. 同一の 述語を持つ2つの命題の項の単一化は, 図1のように項の型変換によって行なわれる. 加えて, 単一化の前処理として引数の操作も行なわれる. そのとき, 述語の二面性 による区別が, 述語引数の補充の操作にも人間の直観に合った推論を導く役 割を与える.
本研究では, これらの拡張と状況表現とを統合させる. 状況表現は, 前年に導入 した状況の保存性・非保存性に対応している. 状況表現は, 時間を 表現するために有用である. 時間的推移における情報の変 化を記述することは, 法律の事例を記述するのに必要である. 状況の保存性・ 非保存性によって, 時間を状況として扱う時に, 情報が 時点・時区間において成り立つことを考慮して記述できる. 時点を示す状況下の情報 はより大きい状況でも保存され, 時区間を示す状況下の情報はより大きい状 況で保存されない代わりに, より小さい状況下でその情報が成り立つ.