平成8年度 委託研究ソフトウェアの中間報告

(26) KL1による並列仮説推論システム


平成8年度委託研究中間報告

1 研究テーマ、研究代表者:
 (1)研究テーマ
        KL1による並列仮説推論システムの開発研究

 (2)研究代表者(氏名、所属、役職)
        伊藤 英則 名古屋工業大学  知能情報システム学科教授

2 記述項目:
 (1)研究進捗状況

  本研究では,UNIX計算機ネットワーク上で動作する並列仮説推論システムを
製作することを目的として研究を進めている.プロセス間通信ライブラリPVM 
(Parallel Virtual Machine)を用いた分散メモリ並列実装のKLICを用いてシス
テムを設計・試作している.現在,比較的小規模な仮説推論の例題を用いてシステ
ムの動作チェック,並列実行性能の調査・改良を行っている.本システムでは仮説
推論の探索空間を複数のプロセッサへ分散し推論処理を並列化している.以下にプ
ロセッサの構成の概略を簡単に示す.
  a)KL1による局所的な仮説推論
    ゴール節の評価値に基づいた最良優先のSLD反駁および,生成されたサブゴール
    に対する無矛盾性の検査を行う.一定粒度の局所推論を終えると,生成された
    ゴール節の一部はソケットを介してb)に渡される. 
  b)PVMプロセッサ間通信
    PVMライブラリを用いてゴール節を全プロセッサに分配する.負荷分散スケジュー
    リング,同期制御等も行われる.
  c)ソケットを用いたプロセス間通信
    a),b)の2つのプロセス間ではソケットを介してデータが送受される.これに
    より,局所推論実行部と負荷分散・メッセージ通信部分は並行に処理されマル
    チタスクで実行される.


 (2)現在までの主な成果

  本研究で提案する並列仮説推論システムはその試作システムが既に分散メモリ並
列計算機上で動作している.関連する論文のリストを以下に示す.

   加藤,世木,伊藤:「コストに基づく仮説推論における最適解探索の一方法」
   情報処理学会論文誌, 第36巻10号, 2380-2390頁 (1995年10月)

   加藤,世木,伊藤:「PARCAR: コストに基づく並列仮説推論システム」
   並列処理シンポジウム JSPP'96, 169-176頁 (1996年6月)

   Kato S., Seki H. and Itoh H. "Parallel Cost-based Abductive Reasoning
   for Distributed Memory Systems" Fourth Pacific Rim Intl. Conf. on
   Artificial Intelligence (PRICAI'96), (Aug.1996)


 (3)今後の研究概要

  現在までに試作されたシステムの動作テスト・改良を通じて並列実行性能を向上
させて,実用規模の知識ベースに対応できる並列仮説推論システムのソフトウェア
化をおこなう.
  本並列仮説推論システムはUNIX計算機ネットワーク上で動作する.したがってそ
の動作環境は,従来の並列計算機のように全プロセッサが同一のメモリ効率,計算
性能を持つようなものではない.個々のプロセッサ(UNIX計算機)の持つ性能は不均
一になり,更にOSのマルチタスク・マルチユーザ環境によりプロセッサの負荷状況
はシステムが必要とする計算量とは異なる.そこで,個々のプロセッサの計算性能
の不均一,負荷状況の変化を考慮に入れた動的な負荷分散方式について検討し,本
システムに実装する予定である.


 (4)今年度目標成果ソフトウェアイメージ

  記号論理による強力な知識表現能力,その並列処理による高速な推論速度をユー
ザに提供するシステムの製作を目標とする.成果ソフトウェアを利用することによ
り,ユーザの研究開発環境内に現存する計算機ネットワーク資源を有効に活用して,
並列推論処理を手軽に実現することが可能となる.

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