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第1章 国が支援する情報技術研究開発のあり方

1.1.3 調査結果、および改革提言の広報と実現に向けた活動

 本調査活動においては、単に、報告書を発注者(スポンサー)である通産省やメーカ6社に提出するのみならず、調査結果や改革提言の広報と実現に向けた活動が求められた。このため、当初から実施していた、当研究所のホームページへの報告書やスライド資料などの掲載に加えて、平成11年度より、次のような広報活動を実施した。

1)調査報告書の配布(約300部)
  −通産省、文部省、内閣府などのIT研究開発計画や予算を扱う部局
  −NEDOやIPAなどのファンディングを実施している政府機関
  −大学において情報やソフトウェアなどを専門とする研究者(教授)
  −技術マスコミ(新聞記者など)
  −IT関連メーカ、ソフトウェアハウスなどの代表者、技術開発担当者

2)口頭発表、説明会の実施
  −AITECセミナーの開催(毎年実施、通常150名程度が参加)
  −通産省の関係部局での説明会
  −学術会議(50周年記念講演会や関連小委員会)
  −情報処理学会全国大会 e-Japan講演会など
  −規制改革会議ヒヤリング
  −そのほか、各種の招待講演

3)学会誌、新聞、雑誌などへの発表
  −情報処理学会本誌解説論文
  「国の資金によるIT研究開発における仕組みや法制度に起因する研究環境の日米格差について」2000年10月号
  −新聞記事掲載(日経新聞、経済産業新報など)
  −情報関係雑誌など

 このような広報活動により、米国の連邦政府が実施する研究開発計画の仕組み、法制度と比べ、わが国のプロジェクトの仕組み、法制度がいかに制約が多く、かつ研究開発の現場への権限委譲が不充分であることが、関係者にかなり広く知られるようになった。

 特に、米国ではファンディングする省庁側にプログラムマネジャー(PM)と呼ばれる研究者がおり、このPMに、研究目的、実施方法や予算の使途変更、人の雇用、研究開発成果の処分方法、プロジェクトの評価などの権限が委譲されており、ファンドを得て研究する研究者は、このPMと電子メイルや電話で交渉し了解を得ることで、分厚い書類などを作成することなく各種の変更ができることや、費目の流用や予算の繰越しが容易に行えることが、大学や国研の研究者に知られるようになった。

 また、会計制度に関しても、複数年度会計であり、繰越などが、PMの了解で容易にできること、間接費が国の費用に算入できること、ソフトウェア開発において企業が所有していたソフトウェアを組み込んだ時、その費用が算入できることなども知られるようになった。

 このような米国の制度の合理性は、独立行政法人化を控えていた国研や大学、文部省関係者、さらには、内閣府の総合科学技術会議事務局の関係者などには、タイムリーな情報として使ってもらえたと思われる。実際、一部機関でのPM制度の採用、科研費への間接費(最大30%)の導入、競争的資金による人の雇用の自由化、日本版バイドール法の適用などがかなりの大学や研究機関で実現した。

 しかし、残念ながら、複数年度会計、国の研究費についての間接費の導入、民間会計の導入など、財務省の権限に属するものは全く手付かずである。わが国の公会計は特殊であり、人件費について間接費を認めていない。国のプロジェクトが箱物作り主体で人件費の割合が少ない時代にはあまり大きな問題ではなかったかもしれないが、現在のようにソフトウェア開発がプロジェクトの大半を占め、費用のほとんどが人件費となっている状況では、間接費持ち出しの「裸の人件費」は、中小、ベンチャー企業の国のプロジェクトへの参加を阻害する大きな要因となっている。

 このようなわが国の時代遅れの仕組み、法制度のために生じる研究環境の格差は、わが国の研究投資の効率を悪化させ、研究者のオーバヘッドを増やす結果となっている。

 以上のようなわが国の仕組み、法制度の問題点が、多くの関係者の知るところとなり、改善への動きが活発化することとなった。

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