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第1章 国が支援する情報技術研究開発のあり方

第1章 国が支援する情報技術開発のあり方

1.1 本調査開始の動機と従来経緯

1.1.1 調査目的と方針

 当初の調査目的は、平易に言えば、次のようなものであった。すなわち、「わが国のソフトウェア技術の研究開発やソフトウェア産業育成のための投資は、通産省関連だけで毎年200億円近くある。それにも拘わらず、十分な成果が挙がっていないように見える。これは研究開発や産業育成の仕組みに何か問題があるのではないか。その問題の究明と改革提言を実施せよ」ということであった。また、「調査は、国や通産省に遠慮せず、悪い点ははっきり悪いと書くタブー無しの方針で実施せよ」との条件もついていた。
 このような要請に基づき、当研究所は次のような方針を立てて調査を実施することとした。

1)ソフトウェアやIT分野において先頭を走っているのは米国である。従って、まず、米国の連邦政府の実施するIT研究開発計画(R&D Initiative)について、その実施の仕組み、法制度を調査し、わが国のそれと比較する。この日米比較により、わが国の仕組み、法制度の問題点、改革すべき点を明確化する。

2)わが国の国のプロジェクト(ナショプロ)を実施した経験や、国の支援を受けて研究開 発を実施した経験のあるメーカやソフトウェア企業の担当者を集め、彼らの意見を求め、国の仕組み、法制度の問題点、および改善策を調査する。また、ナショプロや国の支援の仕組みなどの領域を越え、わが国の大学、国研のあり方、省庁縦割りの弊害などについても、同様に調査することとした。要するに、Customer Satisfaction (CS)の調査を行うこととした。

 その後、「国が投資すべきIT関連の重点分野」についての調査が追加された。ソフトウェアに関して、将来予測を伴う重点分野の調査は難しい。半導体のようなハードウェアやいわゆる箱物と呼ばれるものは、アイデアのみでは製品は出来ず、周辺技術や製造技術も合わせ持たなければならない。これらをすべてそろえるには、一定以上の時間や資金を必要とする。このため、LSIの集積密度の進歩の類は、従来の進歩のスピードを延長したロードマップ上に乗ってくる。

 これに対して、ソフトウェアや特許のようなアイデアがすぐ製品となるものは、いつどのようなものが現れるかの予想が困難である。また、今後、発展方向の予測も難しい。将来に向けての重点分野の予測は、広く薄く投資し、どのような芽がでるかを観察し、大きく成長しそうな芽がでたら、それに投資を集中するのが次善の策である。これは、米国において、NSFやNIHが多数の研究者にグラントという小額の投資を行い論文を発表させる手法と同様のものである。

 わが国のIT研究開発の仕組み、法制度は、大きなソフトウェア市場に発展するような新概念や新応用を産み出すのに適したものには進化しておらず、いわゆる箱物(固いハードウェア)開発を前提としたものとなっている。従って、世界の誰かの網に魚がかかったかどうかをいち早く知ってこれを追いかけて投資をするキャッチアップ型がよいと考え、重点分野の調査を実施した。

 従って、この調査に関しては、世界の先端IT分野の動向を第一線の研究者を集めて随時フォローしてゆくほか、米国のNITRD計画(当初のHPCC計画)の進捗をフォローし、これをもとに重点分野を選択した。

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