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3. 欧州

3.4 ドイツ

 ドイツ政府は1996年2月に、ドイツが情報社会への転換により競争的立場を維持していくための計画Info2000を発表した。1998年のシュレーダー首相に変わり、新たなIT国家戦略とアクションプランが検討され、その後、現在まで情報社会に向けてのアクションプログラムが展開されている。

(1) 「21世紀の情報社会におけるイノベーションと仕事」とInternet for All

 1999年9月に情報社会の総合的な戦略として「21世紀の情報社会におけるイノベーションと仕事」というアクションプランが発表された。この中には、2005年までの主要な7分野における具体的な目標が定められていた。具体的には、電子商取引などのインターネットの利用促進とそのための法制度の整備、ITイノベーションの促進、国民へのインターネットの普及、教育の情報化、人材育成、行政の情報化、ITインフラ整備等の計画が掲げられた。目標の多くは既に達成されつつある。
 「21世紀の情報社会におけるイノベーションと仕事」が良好に進展している点については、2000年9月に発表されたモInternet for Allモの「情報社会に向けての10ステッププログラム」の中で各アクションプログラムが統合されたこと、連邦政府とD21イニシアティブとの連携が大きく貢献している。10ステッププログラムは、「21世紀の情報社会におけるイノベーションと仕事」のアクションプランの重要な目的を要約し、連邦政府のIT政策を目に見える形に表記したものであり、インターネット技術教育の組み入れ、学校・教育機関へのパソコンの提供、失業者へのインターネット教育、通信料金低下のための電気通信事業者間競争の促進、インターネット利用促進のための非課税措置、電子政府「連邦オンライン2005」、電子商取引の促進、インターネット・セキュリティ環境整備、産業界の責任強化(自主規制)、.de(deutschland erneuern; ドイツを刷新する)キャンペーンからなる。
 アクションプランの目的を実現するために、政府と民間の連携も進められた。D21イニシアティブ(Initiative Deutschland 21)(www.initiative21.de)は、アクションプランが採用されたと同時に設定された産官連携の最も大きなプログラムであり、インターネットの信頼とセキュリティの強化、ICTの受け入れの促進、学校と電子学習の設備の改善が含まれている。
 連邦政府は国内のアクションプログラムを実施することと同時に、欧州全体の「eEurope 2002」(2000年夏発表)アクションプランにも協力している。

(2) アクションプログラムの進捗状況

 連邦政府が2002年2月に発表した「21世紀の情報社会におけるイノベーションと仕事」の進捗評価レポートには、次のような各領域の情報社会の現状が報告されている。

ブロードバンドへの接続
 女性のインターネット利用者は1998年の30%から2001年半ばには43%に増加した。女性のインターネット利用機会の平等という目標に近づいた。このようなインターネット利用の著しい成長は、ドイツの優れたインフラと消費者指向の料金設定によるものである。

教育におけるマルチメディア
 全ての学校はインターネットを利用でき、アクションプログラムが定めた目標を早期に実現できた。職業訓練学校でのハードウェアも大幅に改善された。連邦政府の「教育におけるニューメディア」というプログラムは、学校の教育と学習ソフトの開発を目標にしている。さらに、中小企業と公的機関の生涯学習とナレッジマネジメントのネットワークベースソリューションの開発と試行も行われている。
 「公認IT技術者の需要を満たすための短期アクションプログラム」として、総合的な教育イニシアティブが開始された。2001年時点で、7万以上のITとメディアの研修施設があり、1万人以上が“グリーンカード“を保有している。“グリーンカードイニシアティブ”は、外国の上級IT有資格者に迅速に就労許可を与えるための施策であり、重要な役割を果している。

セキュリティと信頼性
 インターネット商取引に信頼たるフレームワークを構築するために、連邦政府は電子商取引法と電子署名法により主要な政策を実施した。また、連邦政府は、企業と協力して、ITセキュリティとセキュリティインフラの整備に成功した。CERT(Computer Emergency Response Team; コンピュータ緊急対応チーム)の基盤が、企業と公的機関がITハザードに対応するために、重要な役割を果し、重要社会インフラの保護を維持している。

革新的な仕事−新たな雇用創出
 連邦政府は、中小企業がe-ビジネスを進めるための支援を行ってきた。ICT分野の新たな起業により、技術開発と雇用が刺激された。マルチメディアにおいで今までに1,150社が起業し、約1万人の雇用機会が創出された。医療、環境、物流の分野では、効率向上、コスト削減、品質向上を図るための新たな情報通信関連関連雇用が伸びている。

技術とインフラ
現在、ISDNとDSL回線インフラが整備されている。また、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)ネットワークの構築が進行中である。ケーブルネットワークによってブロードバンドアプリケーションが拡大されつつある。
 ドイツのブロードバンドケーブルインフラは、先進的かつ利用可能なネットワークであり、2,200万以上の家庭で利用されている。しかし、今までのブロードバンドケーブルネットワークは画像と音声を転送するためのものであり、将来の大容量サービスの需要に適用するためには莫大な投資が必要である。UMTSは第三世代のモバイル通信であり、今後数年間での最も大きな投資プロジェクトとなる。UMTSに関心を持ったネットワーク事業者は、約500億ユーロを6つのライセンスに投資した。加えて、ネットワークの拡大とアップグレードのため、およそ150億ユーロを投入する見込みである。UMTS事業者は、「セキュリティの改善、消費者の増加、環境・健康保護、情報提供とモバイル通信の信頼構築」という自主的公約の中で、通信の改善を保証した。
 連邦政府はラジオとテレビのディジタル化の転換プロセスを支援し「ディジタル放送イニシアティブ」を発表し、2010年までにアナログテレビからディジタルテレビに替え、2010~2015年間にディジタルラジオにリプレースする計画である。
1998~2001年の間、連邦政府はIT分野への公的融資を3分の1増加し、構造改革とイノベーション政策研究に資金を提供した。

電子政府による先進的行政運営
 “Bund Online 2005”において、欧州最大の電子政府プロクラムための戦略を広げた。2000年1月「電子入札」、「電子税金申告」(2000年1月)など、数多くのモデルプロジェクトが発足された。MEDIA@Kommプロジェクトにおいて電子商取引と参入プロセスの結合を試行した。このプロジェクトは公的機関のサービスの標準化を目標としており、“Bund Online 2005”の一部になっている。

より深い欧州と国際的な協力
 連邦政府は、欧州各国および国際機関と協力し、電子商取引、電子署名、eEurope 2002等の推進に大きな役割を果してきた。ドイツ政府の協力で、OECD(経済協力開発機構)のOnlineショッピングにおける消費者保護のガイドラインを作った。また、G8先進国の“Digital Opportunity Task Force”において、ドイツはグローバルなディジタルデバイドを克服することにも貢献した。

(3) 将来へ向けての方針

 連邦政府は、現在進行している産業と社会のネットワークキングの潜在能力を引き出すとともに、新たな技術動向の利用により将来の経済・雇用・文化と民主化の発展を促進する考えである。そのため、アクションプランの中、長期目標を断行し、必要であれば、より大きな新しい目標を設定するとしている。以下の点の推進が指摘されている。

女性の参加を確保する
 連邦政府のすべてのプロジェクトに参加する事で、女性と男性のIT社会への参加権の平等を確保する。

高度アプリケーションのためのブロードバンド接続を広げる
 マルチメディア・アプリケーションの発展傾向からブロードバンドインフラへの需要が急激に高まっている。連邦政府は市場化された通信と競争政策を用いて、ブロードバンドケーブル、UMTS、DSLのようなブロードバンドインフラの拡大とインフラ間の競争を促進する。技術間の競争は顧客指向の供給を可能にする。2005年まではブロードバンドインターネット接続が主要なアクセス方法となり、14歳以上のインターネット利用者が70%に達することを期待する。

モバイルとマルチメディアベースのe-ビジネス
 中小企業のe-ビジネス潜在力はまだ大いに存在している。連邦政府は中小企業がe-ビジネス戦略への適用を促進し、電子商取引プラットフォームの基準の共同開発も含まれている。2005年まで総合的なe-ビジネス戦略を採用している中小企業の比率を20%まで上昇させる。モバイル広帯域通信システムは新たなサポートプログラム「IT Research 2006」の優先事項となっている。

情報社会の重要課題−継続的な教育促進
 ニューメディアは独学や生涯学習などの教育目標を支援している。ハードウェア供給の改善によりマルチメディアベース教育のコンテンツの利用は拡大される。目標としては、2005年まで、国際的に教育ソフトウェア開発の競争ポジションを高めることである。高度なe-LearningのコンポーネントはICT教育と総合的な職業訓練に広範に利用され、ドイツの高等教育機関の競争力を向上させる。
 政治参加と電子政府の拡大 連邦政府が協力した最初のパイロットプロジェクト−電子選挙は大きな成果をあげた。政府は情報技術の利用を通して、より透明で効率的に作業ができた。「BundOnline 2005」においては、2005年までに連邦政府はインターネット上で提供可能な行政サービスを全部オンラインで提供する。連邦政府は既に政府の350以上のオンライン行政サービスに関する主要な技術基準と組織要求を規定した実行プランを採用した。申し込み用紙の提供、オンライン決済と電子署名が可能になることは個人や企業がより迅速で、簡単な行政サービスを利用できることを示している。

ITを目標とした研究促進
 連邦政府は、新政策IT Research 2006を立ち上げ、ICT分野の将来に適応した研究と競争力革新のためのプログラムを提供する。長期的視野で競争力向上とビジネス革新を考えた場合、方向づけられた研究開発活動が重要となる。そのため、ナノテクノロジー、通信技術、ソフトウェアシステム、インターネットの領域に関して、重点分野を設定する。優れた研究リソースのネットワーク化と、地域における優先分野の体系化により、企業や研究機関の関係者を連携させ、研究からの事業創造を促進させる。ITサポートプログラムは、優れた研究開発政策により知識基盤経済・社会を構築していくというLisbon European Council(2000年3月23-24日)の決議を受けたものであり、EUを世界で最も競争力のある知識基盤経済・社会にするという戦略的目標の実現に貢献していく。
 IT Research 2006では、ナノテクノロジー、通信技術、ソフトウェアシステム、インターネットの重点領域に関してプロジェクトに1,500百万ユーロを投入する計画である(2002-2006年)。

ネットワークセキュリティの強化
 ITセキュリティに関しては、電子署名の導入、重要社会インフラの保護、オープンソースソフトウェアソリューションの普及促進、進行中のCERTインフラ開発が重要な構成要素となる。IT Research 2006において、ITセキュリティは分野横断的な共通課題である。

医療・物流・環境の革新的アプリケーションによる生活品質向上
 連邦政府は次期の立法において、全国民向けの電子健康手帳を含め全国規模でディジタル通信を導入する。物流セクターにおいては、テレマティックアプリケーションの利用と開発を官民の協力を通じて推進する。

欧州と国際的な協力への深い貢献
 eEurope 2002に次いで新たな欧州全体のIT優先事項が提起されている。e-ビジネス・広帯域通信、国際的なITセキュリティ協力の強化などが主要課題となっている。国際的には国境を越えた電子商取引に加えて、先進国と発展途上国間のディジタルデバイドを克服する事が重要である。連邦政府は引き続きG8と連合国の活動に参加し、2003年と2005年の情報社会サミットの準備をサポートしている。

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