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付属資料3

米国のハイパフォーマンスコンピューティング技術動向調査報告

 HECCワーキンググループ活動の一環として、米国におけるハイパフォーマンスコンピューティングの技術動向調査を目的に実施した海外調査について報告する。

【日程】   2001年2月25日(日)から3月11日(日)
【調査員】古市昌一委員、小林茂主任研究員
【調査の目的】
 米国において大規模並列マシン上のソフトウェアを実際に研究開発している機関を訪問し、言語/開発実行環境/パフォーマンス解析・チューニングツール/ソフトウェア生産性向上法等、大規模並列ソフトウェア開発上の課題が現場ではどのように解決されているかを、研究所見学と研究者へのインタビューにより調査する。また、並列マシンの応用分野の一つとして、米国防総省を中心に活発に研究が行われている、知的エージェントの研究場所も訪問する。

【主な調査先】
    1. インテル社Microcomputer Software ラボ(サンタクララ)
    2. イリノイ大学 NCSA(アーバナ・シャンペン)
    3. ジョージア工科大学 M&Sセンタ(アトランタ)
    4. ミシガン大学 AIラボ(アンナーバ)
    5. 南カリフォルニア大学 ISIとICT(ロスアンジェルス)

1. インテル社 Microcomputer Software Laboratory(サンタクララ)
                     http://www.intel.com/
<訪問目的>
 インテル社におけるソフトウェア研究開発の現状と将来戦略
<面会者>
 Mr. Hideki Saito, Senior Software Engineer

 インテル社における研究開発組織はTRL(Technology and Research Labs)と呼ばれる。サンタクララの本社敷地内のSC12(Santa Clara Campus第12ビル)にあるMSL(Microcomputer Software Lab.)やMRL(Microprocessor Research Lab.)をはじめ、オレゴン州、イリノイ州、アリゾナ州等の米国内だけではなく、中国、イスラエル、ロシア等、世界中に点在する研究所群から構成されている。
(http://www.intel.com/labs/map.htm)
 今回訪問したMSLは、主としてIA-64アーキテクチャ向けのコンパイラやツールの研究開発を行っている研究所で、オレゴン州の研究所のメンバも加えると、100名を越える研究者から構成されている。プロセッサ専業メーカにおけるソフトウェアの研究所は、小規模な研究グループに違いないと訪問前には想像していたが、実際には、日本の主要なコンピュータメーカの研究所の各研究部よりも大規模であるのに驚いた。
 インテルの総社員数は2000年現在約65,000人で、近年ソフトウェア技術者の採用に力を入れているらしい。なぜ今インテルがソフトウェアの研究開発に力を注いでいるのか、その答えは、SC12建物内の至るところに貼ってあるポスターに書かれたスローガン(Our Mission 2001)に託されていると感じた。

「Preeminent building block supplier to the world-wide Internet economy」

すなわち、インテルはCPUの専業メーカであるが、インターネットエコノミーを支えるキラーアプリを考案/開発することを企業目標として掲げている。高性能CPUの開発は、そのための部品開発であるという位置付けであろう。昨年頃から日本のパソコンショップでは、インテル製のPC接続型の顕微鏡、デジカメやインターネットTV電話用のカメラ等が目に付くが、これらの製品群も、インターネットエコノミーのキラーアプリを生むための部品群の一つなのであろう。

 では、そのキラーアプリとはどのようなものとなるのであろうか?単純に想像すると、デジタルビデオの編集や個人レベルの動画のストリーミング配信(いわゆるTV電話またはインターネット動画放送)のように、従来は高価な機材や高度な技術を必要とされてきた分野を、誰もが安価で簡単に使いこなせるようにするためのもの、ということになる。短期的には、このようなソフトがインターネットエコノミーを支える一つの分野を構成することは間違いないであろう。しかし、キラーアプリがどのような分野のものとなるかは全く想像がつかないのが面白いところであり、数年後の世界のインターネットエコノミーがどのようになっているか、大変楽しみである。
 筆者は常日頃より「高性能計算機の研究開発を続けるためには、まずアプリケーションを開発せよ」と感じているが、インテル社の訪問を通して、研究開発における需要と供給の法則の重要性を再認識することができた。

2. イリノイ大学 NCSA(アーバナ・シャンペン)
   http://www.ncsa.uiuc.edu/
   http://charm.cs.uiuc.edu/
   * NCSA:  National Center for Supercomputing Application

<訪問目的>
 米国におけるスーパーコンピュータアプリケーションとハイパフォーマンスコンピュータの現状と今後の動向。
<面会者>
Dr. Daniel Reed, Director of the NCSA,
     Professor and Head of Dpartment of Computer Science
Dr. L.V. Kale, Director of Parallel Programming Lab.,
     Professor, Department of Computer Science
Dr. Saburo Muroga, Professor, Department of Computer Science

NCSA TelnetやNCSA Mosaic等、現在我々が使っているソフトを多数生み出したことで有名なNCSAであるが、本来の業務は、大規模な演算を必要とするアプリケーションの開発支援と実行環境の提供である。長年Dr. Larry SmarrがNCSAの所長を務めてきたが、2000年の秋にDr. Smarr はUCSD(Univ.of California San Diego校)に移籍した。その後任として、イリノイ大学のDCS(Department of Computer Science)の学部長であるDr. Daniel ReedがNCSAの所長を兼任している。2001年5月1日付けでDr. Daniel ReedはDCSのヘッドを退き、NCSAの専任所長となる予定である。
 NCSAの業務は、1)並列アプリケーションの開発支援と2)HPC(High Performance Computer)の調達、開発と運用である。

 NCSAに並列アプリの開発支援を依託しているのは、NIH(保健省)、DOE(エネルギー省)をはじめとする国の機関や、大手自動車メーカ、大手小売業、大手製薬メーカ、大手石油メーカ、大手化学メーカなど多数の民間企業である。かつては数値演算系のアプリケーションが多く、ベクタースパコンが大活躍していたが、現在ではデータマイニングに代表される非定型アプリケーションが多く、最も活躍しているのはSGI社のOrigin 2000である。何式かはベクタースパコンもあるだろうと予想していたが、現在NCSAでは現在ベクタースパコンを1台も保有していないとのことである。
 NCSAが所有する多数のOrigin 2000の中で、最大構成のものは512プロセッサのシステムが一式で、他に256プロセッサのシステム約10式が24時間体制で稼動している。Dr. Daniel Reedによると、運用中の実アプリケーションの動特性を解析したところ、粗粒度のプロセスがメッセージパッシングによりデータ通信と同期を行うタイプのものが多く、「将来は全てLinuxクラスタへ移行可能である」という大胆な意見をもらった。この意見はDr. Daniel Reedの個人的なものではなく、今後NCSAが計画している調達品は全てLinuxベースのクラスタであるとのことである。

Dr. Daniel Reedのインタビューを終えた後、テクニカルマネージャのブライアン氏の案内で、NCSAの計算機室とオペレーションルームを見学させてもらった。計算機室は3階建ての建物の2階と3階で、各フロア50m x 50m程度の通常の空調の部屋にOrigin 2000がぎっしりと設置されていた。
 計算機室には、他にも多数の手作りLinuxクラスタが並んでいた。更に奥には2月に搬入されたばかりで現在調整中のIBMのLinuxクラスタが置かれ、IBM社の技術者によって最終調整が行われていた。このIBMのクラスタは、1GHzのペンティアムIIIを2基搭載するeServer 330を1ノードとし、ミリネット社のネットワークスイッチで256ノードから構成される。総プロセッサ数は512個で、ピーク性能は1テラFLOPS、OSはRed Hat Linuxである。
 更に奥には、インテル社のItanium搭載パソコンをラックに多数積み上げてLinuxクラスタを構成していた。このクラスタは本年夏に稼動予定の800MHz Itaniumを2基搭載するボードを1ノードとし、最大160ノードから構成するとのこと。ピーク性能は1テラFLOPSで、OSはTurbo Linuxである.
 これらのクラスタに関する報道記事は以下に詳しく解説されている。

  http://www.hotwired.co.jp/news/news/20010117301.html
  http://biztech.nikkeibp.co.jp/wcs/show/leaf?CID=onair/biztech/comp/121213

 

今回、ブライアン氏の案内で、Itaniumクラスタのために新築中のビルの工事現場の中に入れてもらうことができた。ビルは3階建ての体育館程の大きさであるが、中は2階建てとなっている。1階には特注の空調システムが入っており、Itaniumクラスタを設置する2階へ冷風を送る仕組みとなっている。320個のItaniumの発熱を冷却するためには、これだけの施設が必要なのかと、正直言ってびっくりした。
 NCSAのオペレーションルームでは、約5人のオペレータが24時間体制でシステムの稼働状況をモニタリングしている。今後システムが全てLinuxクラスタとなった後、オペレーションルームの風景がどのように変化するか、楽しみである。オペレータのボスであるブライアンは、「Stable if boring、安定したシステム(Origin 2000)はつまらないよ」と言ったが、1年後にブライアンは何と言うだろう?

 

3. ジョージア工科大学 M&Sセンタ(アトランタ)

http://www.cc.gatech.edu/computing/pads/

<訪問目的>
 並列分散シミュレーションの研究開発の現状と、ハイパフォーマンスコンピューテンングへのHLA適用の現状と将来に関してする調査。
<面会者>
Dr. Richard M. Fujimoto, Director of Modeling and Simulation Center,
                         Professor, College of Computing
Mr. Thom McLean, PhD candidate

 Dr. FujimotoはPDES(Parallel Distributed Simulation)研究の世界的第一人者で、ACM学会のTransaction on Modeling and Computer Simulationの編集を務めている他、1990年からはIEEEとACM共催で毎年開催される国際会議PADS(Parallel and Distributed Simulation)のステアリングコミッティを務めている。Dr. Fujimotoを更に有名にしているのは、DoD(米国防総省)が1995年に提案したHLA(High Level Architecture)の仕様検討委員会であるAMG(Architecture Management Group)のメンバとして、HLA仕様の中核を設計したことである。HLAのアカデミック側からの最も強力なシンパとして、DoD及びHLAコミュニティメンバから高い信頼を集めている。
 2000年9月にHLAはIEEE 1515としての標準化が完了し、今後分散シミュレータの接続仕様として広く利用されていくことになると予想される。しかし、HLAは元来異機種シミュレータをネットワークを介して統合するために出てきた標準仕様であり、ハイパフォーマンスコンピューティングのためのプログラム開発実行環境としての適用を考えている研究者は少ない。Dr. Fujimotoはそのような研究者の一人であり、HLA分散シミュレーションの実行時に必須となるソフトウェアRTI(Run-Time Infrastructure)と、

その上のアプリケーションの研究開発を行っている。最近の研究成果であるPDNS(Parallel and Distributed Network Simulator)は、コンピュータネットワークのシミュレータとして広く普及している逐次型のNS2(Network Simulator)をベースに、HLA仕様で拡張することにより分散並列化したシミュレータである。このPDNSはネットワークシミュレーションにおけるキラーアプリとなり得る可能性を秘めており、HLAの実用化に大きく貢献していると考えられている。
 これまでHLAは仕様の標準化が最も大きな課題であった。しかし、標準化を完了した後の課題は、HLAをベースとした多くのアプリケーションを開発し、多くのユーザに提供することであり、Dr. FujimotoはNS2を題材としてこれを実現しようとしている。今後HLAが更に普及し、ネットワークシミュレータ以外にも同様のアプリケーションが多数出てくることをDr. Fujimotoは願っているとのことである。筆者は、そのようなアプリの一つが分散協調型のエージェント技術であると確信しており、そこでミシガン大学のAIラボと南カリフォルニア大学を訪問した。

 

4. ミシガン大学 AIラボ(アンナーバ) http://ai.eecs.umich.edu/

<訪問目的>
ルールベースの知的エージェント開発実行環境Soarの研究開発動向と、官学民共同プロジェクトの成功例の調査。

<面会者>
Dr. Mike van Lent, Post-doctor research assistant
Mr. Scott Wallace, Ph.D. Candidate

 日本で80年代にブームとなったAI(人工知能)の研究は、米国のいくつかの大学ではかつて以上に活発に研究が行われている。人工知能の研究分野でも、工学よりの知的エージェントや分散協調エージェントの分野の研究開発が最も盛んである。
 ミシガン大学アンナーバ校のAIラボは、米国防総省からの研究開発資金を獲得して最も成功している大学であり、エージェント開発実行環境であるSoar(the basic cycle of taking a State applying an Operator, And generating Resultの頭文字を取ったものであるらしい)の開発元である。米軍が保有する訓練用のシミュレーションシステムの多くでは、現実の人間に近い意思決定を行うための仕組みとしてSoarを用いた知的エージェントを利用している。AIラボの運営はほとんど軍からの研究依頼でまかなっているようである。
 知的エージェントの開発上で最も重要なのは、現場の専門家の知識をいかにしてルール化するか、という部分で、このための手法を知識獲得という。AIラボでは様々な知識獲得手法の研究をしているが、検証のためには学生が直接米空軍のパイロットにインタビューしてルール化し、その結果をパイロットに評価してもらうところまで、大学が実際に行ったとのことである。
 このように、現在軍向けの研究が最も比重が重いようであるが、大学院の学生の間で最も人気があるのは、エンタテイメント用のゲームのインテリジェント化らしい。例えば、Quakeというゲームの敵側の登場人物をSoarにより自動化したデモを見せてもらったが、人間同士で対戦するよりも断然強い敵が実際に実現できていた。近いうちにユーザがSoarを用いてユーザが独自に拡張可能なゲームが出現するのではないかと予想される。また、学部の学生に最も人気のある授業はゲームプログラミングという授業らしく、AIラボはミシガン大学でも最も人気のある研究室の1つらしい。
 AIラボ訪問の後、Soarの考案者らが中心となって1998年に設立したベンチャー企業Soar Technology Inc. のオフィスを訪問した。社長のDr. Jim Rosbe氏によると、設立した当時の社員は数名だったらしいが、軍からの知的エージェント開発のプロジェクトは繁盛していて、今日現在社員は17人。まだまだ増やしたいと語っていた。
 ミシガン訪問は、AIの研究は軍用のシミュレーション技術とエンタテイメント技術の両面から近い将来ブレイクするのではないか、と予感させた。続いて訪問した南カリフォルニア大学では、更にこの予感を実感することとなった。

5. 南カリフォルニア大学 ISIとICT(ロスアンジェルス)
    http://www.isi.edu/
    http://www.ict.usc.edu/
 *ISI:   Information Sciences Institute
 *ICT:  Institute for Creative Technologies

<訪問目的>
 ルールベースの知的エージェント開発実行環境Soarを応用したシステムの研究開発動向の調査。特に、米陸軍とハリウッド映画業界の共同研究施設における分散協調エージェントの研究方法の調査
<面会者>
Dr. Paul S. Rosenbloom, Director of New Directions,
Deputy Director of Intelligent Systems Div.
Dr. Lewis Johnson, Director of CARTE, Professor, ISI
Dr. Milind Tambe, Research Associate Professor, ISI
Dr. Johathan Gratch, Project Leader, ICT

ISIは約30年前に米RAND社のメンバ3人が中心となって南カリフォルニア大学(USC)のCollege of Engineeringの組織の1つとして設立された研究所である。USCの本体はロスアンジェルスのダウンタウンのど真ん中に位置するが、ISIはベニスビーチのすぐ隣にあるマリナ・デル・レイでもひときわ眺望の良い場所に位置する。なぜキャンパスに作らなかったのかと問うと、軍の予算で設立した研究所のため、物理的に異なる場所に作ったとの答えだった。
 Dr. Paul Rosenbloomは、カーネギーメロン大学時代に現ミシガン大学のDr. John E. Lairdらと一緒にSoarを考案した人物である。Dr. Paul Rosenbloomによると、Soarがここまで発展してきたのは全て米国防総省の長期的な研究資金サポートがあってのことだという。そして近年、その技術をゲーム業界やハリウッドの映画業界が活用しようとしている動きに、大変満足しているとのことだ。ただ、Dr. Paul Rosenbloom自身は数年前から人工知能の第1線の研究からは退かれたそうで、現在はDirector of New Directionsの職務で忙しい。New Directionsの中では、Virtual Human、Virtual Organization、Rapid Prototypingの応用に関するプロジェクトの立ち上げが検討されているとのことであった。

 ISIで続けて訪問したDr. Milind Tambe氏は、ロボカップサッカーの世界大会で毎回上位入賞を果たしているチームのリーダである。ロボカップはあくまでも研究の成果をアピールする場の一つでしかなく、氏の研究の主要テーマは、マルチセンサによるマルチムービングターゲットの認識と追尾であり、研究依頼元は米国防総省である。ここでも、軍用技術とエンタテイメント技術との奇妙な融合に大変驚かされた。
 続いて訪問したICTは、米陸軍が4430万ドルを投じて1999年末に南カリフォルニア大学に設立した研究所で、先に訪問したISIとは道を隔てた向かいのビルに位置する。ICTは南カリフォルニア大学の映画・テレビ学部(フランシスコッポラ監督が卒業したことでも有名)を中心に、複数の学部のメンバから構成される研究組織であり、所長はハリウッドのパラマウントテレビジョンのDick Rindheim氏である。2000年度の研究予算は2200万ドルで、全て米陸軍から出ている。

 ICTの目標は、陸軍の兵士に対してリアルな訓練環境を提供するための技術開発であり、最新のエージェント技術とVR(仮想現実)技術を融合することにより、どこまでリアルな訓練環境を実現できるかを試すことである。Dr. Jonathan GratchはICTの中のエージェント技術開発プロジェクトのリーダで、Soarを用いて人間の感情表現の研究を中心に現在行っている。氏に対するインタビューの後、陸軍によるユーゴスラビア平和維持活動をシナリオとしたミッションリハーサルのデモを見せてもらった。

ミッションリハーサル室には円筒型の300インチの巨大スクリーンがあり、その中ではリアルなユーゴスラビアの街路が表現されている。ミッションのプロローグで、交差点で乗用車が少年をはねるという交通事故が発生する。はねられた少年は路上に倒れ、一緒に居た母親は呆然とする。そこへPKO活動中の兵士が続々と集まるところから訓練は始まる。
 このミッションリハーサルの中では、観客のうち一人はコマンダ役となって、兵士達に自然言語(英語)で命令を発する。すると、スクリーン上の兵士(Soarで記述されたエージェント)は命令を理解してそれぞれの行動をとる。
 1回目のリハーサルでは、事故処理のために兵士を2人残し、他の隊員を他の現場へと派遣する。すると、はねられた少年の母親は正気を失って兵士に反抗し、事故処理をスムーズに行うことができない。

そこで、事故が発生した時点までシミュレーションを一度ロールバックさせ、2回目のリハーサルを行った。今度は事故処理のために兵士を多数配置することにより母親を安心させることができ、その結果スムーズに事故処理を行うことができた。

このような訓練は、従来はテキストやマニュアルを読むことによって行ってきたわけだが、実際に現場の各人間の感情や行動を画像を見て体験することにより臨場感を高めることができ、より訓練の効果が増すことを実体験することができた。

ハリウッドでは、将来この技術を映画製作に利用するだろうが、それよりも大きな市場は、やはりゲームであろう。既にゲームメーカがICTへの投資を開始している。AIとハイパフォーマンスコンピューティング技術は、現在軍用の技術としての実用化が促進されている。それととともに、更には我々の身近なゲームやハリウッド映画に適用される時がすぐそこまでやってきているようである。

 

まとめ
 
今回の海外調査を通して得られた結論を2つにまとめると、以下の通りとなる。
 今後のハイパフォーマンスコンピュータの主流はLinuxクラスタとなる。
 米国では80年代の人工知能ブーム以降も着実に人工知能の研究が続けられて来た。90年代に入って分散協調型エージェント技術として人工知能技術の一部は実用化し、2000年代には軍用技術とエンタテイメント技術が融合する勢いで研究が加速している。
Soarプロジェクトは、米国における官学民共同プロジェクトの中で大変うまくいった例の一つとして参考になる。

 

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