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付録資料2

SC2000参加報告(その2)

報告者 若杉 康仁

1.はじめに
 

コンファレンス開始前日(11/6)にRegistration後、午後6時半よりアルコール類を含む飲み物、食べ物がBuffetスタイルで用意され、出展者が事前にお披露目を行った。これはなかなかいいスタイルである。飲みながら会場を回り、気軽に質問できてうれしい。
 今回の展示は企業95社、研究所60。会場のネットワークScinetは9.6Gbit/secで接続されている。展示マシンは汎用のチップを活用したクラスタシステムが目に付く。既に研究開発分野のOSはLinuxが主流になりつつある。
 最近は日本ではスーパーコンピュータに対する取り組みがその市場の狭さ、企業の余裕の無さからかあまり積極的になされていない。メインフレームを米国で販売しないと決定した企業にスーパーコンピュータの開発の余力は感じられないのは残念である。
 翻って、米国では好調な(だった?)経済に支えられて、国の予算を元に超並列を主体とするHigh End Computingの研究開発が積極的であると感じた。

 今回の11/7の開会式には本年(2000年度)ノーベル賞受賞者のキルビー博士が招かれ、ご高齢(77歳)のため“ようこそおいで下さいました。・・・”の簡単な挨拶ですまされたが会場は大変盛り上がった。博士は地元ダラスのTexas Instrument社でICを1958年に発明され、これによりノーベル物理学賞を他の2名と共同で受賞された。その縁の地での開催。
 次回のSC2001は11/10/2001よりコロラド州デンバー市で開催予定である。SC Globalといってインターネット、Access Gridを活用した展示になる予定である。

 

2.講演
2.1 “Petaflops in the Year 2000”(基調講演)

   Steven J Wallach  (11/7 8:30 – 10:00)
 ペタフロップスマシンを実現するには電力消費量が問題になっており、すべての接続をファイバーで実現したAON(All Optical Network)になるだろう。
 そのころのOSはLINUXが99%でNTは1%ぐらいではないかとも予測。
 構成としては4CPU/die, 128die/box これを64個40Ghzの光ケーブルでつなぎ1ペタフロップスを実現する。1CPU=30Gflops, 1die=120Gflops 総計8192dieで約1Petaとなる。
 印象としては算術計算のみの性能計算でソフトウエアを含めた実行性能では大いに疑問が残るがその当たりはあまり触れられなかった。
 たとえば地球シミュレータが40TFlopsであり、これを25個つなげば実現するか?

2.2 “COTS Cluster for HPC”
   Dr. Thomas Stirling of NASA (11/8 8:30 – 9:15)
 今回の展示でも既に20のクラスターがあり、今後のHigh Performance Computerの主流になると予測。流れはSingle -> SMP -> MPP -> Clusterである。既にTOP500の31番Compaq Alpha Server SCは0.5Tflopsの性能で動いている。これはNASAのBeowulfプロジェクトの成果でもある。PCIインターフェースは重要な標準。Myrinet, Giganet 等、高速ネットワークは重要。Open Source Softwareが主流である

2.3 “A Small Dose of Infosec”
   Dr. Eugene Spafford (11/8 9:15 – 10:00)
 I love you ウィルスをはじめ最近の被害の増大を訴え、2004年には15分に1回ウィルスが発生すると予測。更にCOTSを使うことが多くなりSecurityに対する不安はます一方である。

2.4 “Numbers, Lots of Numbers, And Insight, too: Scientific Computing 2000”
   Dr. Margaret Wright (11/9 8:30 – 9:15)
 手書きのOHPを用いたのが印象的。理学系の風習であろうか? 内容はいまいち。

2.5 “Parallel / Distributed Programming: Research Success – Application Failure”

  Dr. J. C. Browne  (11/9 9:15 – 10:30)
 並列計算は自然であるが、Von Neumain流(現在のコンピュータ)Sequentialである。性能を上げるには並列は必須である。これを効率よく記述するにはコンポーネントモデルによるデザインパターンが必要。会場で現在どんな言語で記述しているかの即席挙手のアンケートを採っていたが、MPIとOpenMPではMPIが圧倒的に多かったのが印象に残った。MPIをFortran, C, C++で利用。

3.テクニカルセッション
 テクニカルセッションは4つの会場で同時進行するので興味のある物を選択して聞くことになる。タイトルのみが頼りなので期待して行っても外れもあったりするので慌てて会場を移動も多々。注目としては、どんな事例が実際に行われているか期待したが以外と少ない印象を持った。研究から外れるのだろう。分類はPanel(質疑), Paper(登録論文)が2本、Masterworks(招待)の計4本のセッションである。
 展示会場でも展示者によるセッションが30分単位で開かれていたが、時間がとれないため参加は出来なかった。会議の合間に会場を見るため立ち止まっていると展示が見られない羽目になる。
 受講した物は、題名と講演者の羅列になるが参考までに次に記す。

3.1 Computational Biosciences: Genomic (11/7 10:30 – 12:00)
- From First Assembly Towards a New Cyber-Pharmaceutical Computing Paradigm
 (Celera Genomic社のSorin Istrail氏)
- Unveiling the Human Genome 
 (Whitehead社/MIT  Jill Mesirov氏)

3.2 MPI / OpenMP (11/7 1:30 – 3:00)
- Performance of Hybrid Message-Passing and Shared-Memory Parallelism for
 Discrete-Element Modeling
- A Comparison of Three Programming Models for Adaptive Application on Origin2000
- MPI versus MPI+OpenMP on the IBM SP for the NAS Benchmarks

3.3 Cluster Infrastructure (11/7 15:30 – 17:00)
- PM2: High Performance Communication Middleware for Heterogeneous Network
 Environments(これはRWCPからの発表である。)
- Performance and Interoperability Issues in Incorporating Cluster Management
 Systems Within a Wide-Area Network-Computing Environment
- Architectural and Performance Evaluation of GigaNet and Myrinet Interconnect on Cluster of Small-Scale SMP  Server

3.4 IEEE Award Winners (11/8 10:30 – 12:00)
- Seymour Cray Computer Engineering Award
 Dr. Glen J Cullerが受賞
- Sidney Fernbach Award
 Dr. Steve Attawayが受賞
 “Parallel Computing”として講演があった。
   5年前はSimulationにパラレルは使用しなかった。
   ASCI Redで2D/3Dをやるようになった。(これは意外な気がした。)

3.5 Masterworks (11/9 15:30 – 17:00)
- Moving a Large Commercial Application from SMP to DMP
- Application Driven Strategy of High Performance Company

3.6 Panel“Computational Grid” (11/10 8:30 – 10:00)
 
パネル討論会。何故かIan Fosterが目立っていた。次のパネルもかけ持ちで。
- Dr. Ian Foster  (Argonne National Lab.)
 Global Grid Future
 Commercial SectorへIETFを介して
- Dr.Snir (IBM)
 科学からビジネスへ。(本音はうまくいかないとかの発言も)。
- Dr. Fox ( Syracuse Univ.)
- Dr. Pancake (Oregon State Univ.)
 No economical Model

3.7 Panel “Mega Computer”  (11/10 10:30 – 12:00)
- Dr. Ian Foster
 MegaはGridの特殊ケースであり、Secured Controlled Resource Sharingと定義づけていた。
- Mr. Chien  (Entropia社)
 Entropia社の宣伝。1997年設立。Entropia is Gridと豪語。時期を得た会社でGrid環境をビジネス
 につないでいる気がした。100,000台のマシンを80カ国にわたりつないでいる。
- Andrew Grimshaw (Virginia Univ.)
 Legionを開発しているグループからの発言。

4. BOF (Birds of a Feather)
 
正式会議が終了後に、やや非公式な感じのセッションが開かれる。並行してかなりの数が開かれる。仲間内の会合のような感じで新しい情報が聞けそうなので以下に出席した。

4.1 The ASCI Simulation and Computer Science Technology Prospectus Organizer
   (11/7 15:30 – 19:00)
- Road Map Toward 2005(LLNLより Marry)
 1000CPUまでのテストは終了した。これは約半分のCPUに当たる。言語はHPC Java
- Software Interoperability(LANL よりJohn)
 2002年までに標準インタフェースを作りたい。Classライブラリを使うコンポーネントモデル。
 これはOMGスタイルのWGを作って推進したい。
2005年にプロトタイプができる予定。
 - Linear Solver / Non Linear Solver
 特になし
- Storage & File System
 500TBまでのテストは完了。
- Scale, Complexity, remoteness exploit data
- Data mining, date Processing, Query & Pattern Recognition
- Visualization(SALより)
 特になし
- ASCI Gridについて
 Distributed collection of xxxx Hardware resourceの構築。
 2002年にサービスをスタートする。Kerberos Secured Webを利用、2005年にGridのアクセスが完了する計画。
- ASCI Network Architecture
LLNL、LANL、SNL研究所間のネットワーク説明。

4.2 “Global Grid Forum”(11/8 17:30 – 19:00)
 Global Grid Forumの2001年度の開催予定はは3月にアムステルダム、7月ワシントンDC、10月ヨーロッパ(場所未定)。
色々なWGがありそれぞれから発表があった。
- Security WG
 PKI for Grid Identification, GSI Road Map, Global Security API等
- Performance WG
 標準化, シナリオの使用, Event, ディレクトリサービスのフォーマット,Time stamp, Communication protocol等
- Remote Data Access WG
 Convergent architecture, File base access, Object base access, Collection base access,
 Information Base Grid, Knowledge base Gridについて
- Grid Information Service WG
 Definition of Meta model, Task force(JNI, RDB, GXD)について
- Advanced Programming Model WG
 Active Middleware Model等
- Distributed Accounting WG
- Grid Computing Environment WG
 Gridリソースにアクセスするツール
- Application and Tool WG
 色々なWGがあるのでGrid Application WGにマージを検討。
- その他SC Globalより
 次回のSC2001は最初の真のグローバルなtechnical Conferenceになる予定であると宣伝があった。

5.展示
 目に付いた展示を記す。

5.1 米国メーカ
(1)IBM
 
会場の一番良いところで展示していた。Powerチップを使ったクラスタシステムが中心。現状はPower3(333MHZ)だが新しいPower4(1.1GHZ-1.4GHZ)チップのみがが展示されていた。(福井氏の報告の写真参照)
 1枚のボードにPower4チップを2個のせる2Wayから64Wayまでのバリエーションを考えている。出荷は2001年以降になる。
(2)SGI
 
新ServerではLinuxがメインOSになる。クラスタも2004年には2048個までのプロセッサをつなぐことを考えている。
(3)Compaq
 
ASCIで採用されたAlphaチップによる超並列マシンが縮小モックアップで展示されていた。世界一の性能(予定)とうたっていたが。同じモックアップはLosAlamos研究所にもあった。
(4)SUN
 Sun Ray Applianceのしゃれたクライアントが目をひいた。サーバは目新しさ無し。
(5)Cray
 
CraySV1シリーズ。特に目立つ展示無く商談中心?

5.2 日本メーカ
(1)日立
 
SR8000のモックアップを展示。基本的に米国での販売が関税のため出来ないので、対象のお客は日本と欧州とのこと。
(2)Fujitsu
 VPP5000シリーズ
(3)NEC
 SX-5/8シリーズ

5.3 研究所(日本)
(1)地球シミュレータ
 
40Tflopsで世界最速を目指す日の丸地球シミュレータがモックアップを展示。科技庁関連がブースを構える中にあったがこのコーナは人だかりは少ない気がした。パネル展示プラスアルファであり予算面からして仕方のないところか。
(2)Real World Computer Partnership
 
ワークステーションクラスタの実機を展示動作させていて迫力があった。なかなか意欲的に展示をしていた。

5.4 米国研究所関連
(1)ASCI関連
 
ASCIのブースを出していた。会場ではショーコーナーもあり興味深い展示をしていたがコンファレンスと重なりみられなかった。別途入手したCD-ROMで内容はもう少し詳細にわかったが、昨年も参加した人は同じものだとおっしゃっていた。毎年更新は大変であろう。
 COMPAQ社のブースではASCIを展示していた。

ASCI“Q”

(2) Access Grid関連
 Argonne国立研究所はじめ会場内で数カ所見かけた。デモ効果は大きい。

5.5 Linux Cluster関連
 ハードウエアの展示ではこれが目に付く、既存のチップを使いラック型にマウントするのがほとんど、まだニッチ産業的だが内容的にはPCの技術でできるので標準化が進めばさらに値段は低下する。スケーラブルな構成が得意なので、低価格な分野からの参入が可能。見知らぬメーカが一発を狙ってと活気を感じる。

6.雑感
 
ハイエンドコンピューティング自体のマーケットの少なさからか、専用マシンによる
 スーパーコンピュータと言う雰囲気はなく、汎用チップを利用したマシンへ移行する速度が加速している気がした。ただそのしわ寄せはソフトウエアにきており性能を効率よく出すのは非常に難しくなっていると思う。日本も内容的にかなり頑張っているという気がしたがプレゼンスは低いと感じる。

 

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