第1章 まえがき
1.1 活動方針と調査の考え方本報告書は、先端情報技術研究所(AITEC)内に設置された「ハイエンド・コンピューティング技術調査ワーキンググループ」、略してHECC(High End Computing and Computation)WGの議論に基づき、各委員の報告をまとめたものである。このワーキンググループは、先端的なコンピュータ技術の調査をより広範囲な視点で行うことを目的として設置されており、その委員は大学、メーカ等の若手研究者でアーキテクチャ、ソフトウェア、アプリケーションの各分野において実際に研究や開発に携わっている方々13名から構成されている。このワーキンググループでは、ハイエンドアーキテクチャ、ハイエンドハードウエアコンポーネント、アルゴリズム研究を含む基礎研究、ソフトウエアおよびハイエンドアプリケーションなどを対象として、調査や議論を行うこととしている。
本年度は、HECCワーキンググループとしては2年目の調査となる。昨年度は、議論の手がかりとして、ハイエンド・コンピューティングの分野で先頭を走っている米国の研究開発計画を参考にして、議論をすすめた。そして、そのための具体的な材料として、米国連邦政府のコンピューティング・情報・通信委員会(CIC)がまとめた通称Blue Bookと呼ばれているドキュメントを参考資料とした(平成11年度の報告書を参照)。昨年度の報告書では、このBlue Bookで指摘されている技術項目について、市場動向などを視野に入れて見たときに市場にインパクトを与えそうな分野やテーマについて、それらの技術的内容および成果の調査・評価と我が国の技術との格差などについて各委員を中心に議論し、各委員のHECCに関する見解をまとめた。
今年度の調査において、本ワーキンググループでは、従来同様にHECC領域の開発動向を重要な中心課題と認識しつつも、これのみにとらわれず対象を拡大し、コンテンツやユーザインタフェースの実現基盤としてのプラットフォーム技術全般を視野に入れて、調査・検討した。そのために、各分野の専門家の最新知識を集積して研究開発のリーディングエッジを浮かび上がらせるとともに、今後注力すべき技術分野の検討に必要な元データとしての利用を可能にするように努めた。特に、各委員の専門およびその周辺分野において、今後、研究的に急速に発展したり、あるいは市場にインパクトを与えそうな分野やテーマの抽出と、それらの技術に関する、(米国をはじめとする)先端研究とわが国との格差の調査・評価を行うことを主眼にした。したがって、昨年度の調査や報告で目指した、網羅的なマップの完成よりも、今後重要になると思われる領域にはどのようなものがあるかを抽出するという点に力点を置くことにした。たとえば、プラットフォーム技術研究の代表的なものは、計算性能の追求である。計算速度や記憶容量等の劇的な向上は、単に処理速度を速めるにとどまらず、コンテンツやユーザインタフェースに質的な変化をもたらし、情報技術の社会的・経済的な影響力が強い。しかし、それ以外にもコンパイラ技術、並列処理技術やグローバルコンピューティング技術など、新たな基盤技術が含む可能性という意味で、いずれも同様の重要性を備えており、次時代をなす情報技術の一次近似予測のためには、これらの動向を広く把握する必要がある。
本ワーキンググループの各委員は、情報処理の分野において最先端の研究や開発に従事している方々であり、情報処理分野において調査が必要な分野についてかなりの部分を網羅しているが、専門的な分野において、把握しきれない部分があるため、これを外部の講師を招いてヒアリングを行うことにした。今年度は、次世代のI/Oアーキテクチャとして注目されているInfiniBandに関して、富士通研究所の岸本光弘氏に、またグローバルコンピューティングにおけるセキュリティ技術に関して、奈良先端大の門林雄基助教授に、講演をお願いした。この講演を基に、岸本氏と門林先生には講演の概要を、本報告書内にまとめていただいた。ここで、あらためて感謝したい。
情報処理の分野の研究開発は、ハードウェアからソフトウェアおよびアプリケーションまで、その最先端技術をすばやく取り入れ、新しいシステムの開発や規格の提案に生かすことがますます重要になってきている。そのためには、より幅広く最先端の情報処理技術や情報処理に関連した技術を的確に捉えることも必要である。本ワーキンググループの委員は、情報処理の各分野において実際に最先端の研究開発に従事している方々であるので、この点は各委員の経験に基づきながら、委員個人の感性に基づいてどのような題材を選択するかについて判断していただいた。本報告書が、わが国の情報処理研究開発に向けた技術開発や政策の一助になれば幸いである。
(山口喜教主査)