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1.2 調査報告の概要

 各委員及び講師による調査報告の概要を以下に示す(本文は第3章に記載)。

 1.2.1 ハードウェア/アーキテクチャ関連

 (1)実用化が進むリコンフィギャブルコンピューティング(天野委員)
 アルゴリズムを書き換え可能なIC(FPGA,CPLD)上で直接ハードウェア化して実行するリコンフィギャブルコンピューティングは、高速性と柔軟性を併せ持つシステムとして、90年代の初めから研究が続けられてきた。しかし、数値演算、データアクセスの高速性、規模の限界、プログラミング環境など様々な面で問題があり、商用システムとして一般的に使われることは少なかった。しかし、最近CPUとFPGAとの混載が可能になり、通信処理というキラーアプリケーションを開拓したことにより、一気に実用化が進んでいる。日本でも新しい構成のチップやシステムが次々に提案され注目されつつある。本稿では、最近の情勢を分析すると共に、日本で現在やるべき研究、開発の方向性を探る。

 (2)次世代I/Oアーキテクチャ(InfiniBand)の概要(岸本講師)
 InfiniBandは新しいI/Oアーキテクチャとして、1999年夏から検討が始まり、2000年10月に第1版が公開になっている。本稿では、次世代のI/OアーキテクチャであるInfiniBandの概要と狙いを説明する。
 サーバコンピュータに要求されるI/O性能は、年々着実に上昇している。そして、I/Oをコンピュータにつなぎ込むところは、I/Oバスが受け持っている。これまでISA、PCI等がサーバで使われているが、I/Oに要求されるバンド幅は年代と共に急速に増大しており、66MHz x 64bitのPCIをもってしても不足し始めている。それを越える仕様として、InfiniBandが提案されている。
 InfiniBandは1本の線の周波数が2.5GHzで、その線が1本のものの他に、4本、12本束ねたもの(バンド幅にして500MB、2GB、6GB)が今回の仕様に入っている。
 InfiniBandの主要な特徴は、ムーアの法則以上のバンド幅向上、応答時間の短縮と割り込み回数の削減、コモディティ化による低価格化、各種ネットワークの一本化、数千ノードを接続できるスケーラビリティ、高機能(メッセージベース)通信機能、高信頼/高可用性の実現である。

1.2.2 グローバルコンピューティング関連

 (1)Gridによる世界戦略とブロードバンドコンピューティング技術(関口委員)
 
高速なネットワークの発展はこれまでWebというHTML文書へのアクセス手段を提供してきたが、どちらかというと静的に与えられたデータに対するアクセス技術であった。これに対して、Gridはネットワーク上の情報資源に対する高性能かつ柔軟なアクセスを目指し、分散した情報資源を統一的に扱うための手段である。
 Gridは世界的に大きな技術潮流となっており、我が国も現時点での先進性とこれまでのポテンシャルを活かして大いに貢献することで、世界標準構築への参画を積極的に推進する必要がある。現時点で我々が持ちうるハイエンドコンピューティングの技術シーズとしてはGridとクラスタであることは疑いもない。また、こうした技術において先行してきた強みを活かし、国内のコンピュータベンダーを巻き込んだプロジェクトとして欧米に対抗する道筋を見つけだしていくことが必要である。
 本稿では、Global Grid Forumを通じたGrid技術に関する世界戦略と、次のGridとその応用技術であるブロードバンドコンピューティングによるData Farming について概略を述べる。

 (2)Gridおけるセキュリティ技術(門林講師)
 ここではGridという大きな概念の一実現であるGlobusについて、そのセキュリティアーキテクチャを概観し、その利点と欠点について考察する。むろん、ここでの考察は断片的なものでしかない。包括的なセキュリティアーキテクチャに関する考察や、ソフトウェアの実装にまで踏み込んだセキュリティ検査といったことは近い将来において取り組むべき課題として残されているということに注意されたい。
 つぎに、Grid技術の標準化団体であるGrid ForumにおけるGridのセキュリティアーキテクチャ標準化について、潜在的な問題点の有無を点検する。最後に、Gridにおけるセキュリティ研究の方向性について議論をおこなう。

 1.2.3 プログラミング/コンパイラ関連

(1)変貌するプログラム言語の位置づけ(近山委員)
 
高性能計算・通信の実現には、ハードウェアとソフトウェアの両面が重要であることは言うまでもない。ソフトウェアの記述には通常なんらかのプログラム言語を用いるわけだが、解くべき問題とハードウェアアーキテクチャの両者の複雑化や、コンパイル技術の進展に伴い、プログラム言語の表面上の記述と、その記述内容の計算機による実現との間の乖離が拡大してきている。このため、従来常識とされてきた、手続き型言語は計算機による計算手順を記述し、宣言型言語は計算機とは独立に問題仕様を記述する、といった言語族についての認識は適切性を失いつつある。
 本稿では近年のプログラム言語技術と計算機アーキテクチャ技術により、プログラム言語の位置づけがどのように変化してきたか、今後さらにどのような変化が予測されるかについて述べる。

 (2)ハードウェアとソフトウェアの協調(笠原委員)
 
ここでは、実効性能、価格性能比及び使いやすさに優れた次世代マイクロプロセッサ(例えばシングルチップ・マルチプロセッサ)からHPC(High Performance Computer)に至るマルチプロセッサシステムの開発では、マルチグレイン並列化コンパイラのようなソフトウェアによる先端並列化技術の性能を有効に引き出すアーキテクチャ開発が重要であることを述べる。

 (3)分散共有メモリ向け並列プログラミングインタフェースの動向(妹尾委員)
 分散共有メモリは、物理的には分散メモリの構成を採用しつつ、この上で共有メモリのインタフェースを論理的に提供するシステムであり、ハードウェアとしてはスケーラブルな実装が可能でかつOpenMPなどの使いやすい共有メモリ並列化インタフェースが提供できる点で注目されている。しかしながら高い性能を達成するためには、データアクセスのローカリティーを抽出する必要があり、データマッピングと計算マッピングをどのように制御するかが課題となっている。本稿では、これらの課題および、現在の商用システム上でどのような解決策が提供されているかについてプログラミングインタフェースを中心に説明する。また、今後さらに高性能を得るための方法について、最近の研究事例を紹介する。

 (4)科学計算におけるC++の状況(田中委員)
 C++には、科学計算に魅力的な機能がいくつもある。テンプレートを使った汎化プログラミング、記述性の高い演算子の多重定義、コード再利用のためのオブジェクト指向的機能である。しかし、これらの魅力的機能にもかかわらず性能に大きな問題があるため、科学計算の一般ユーザは、C++を本格的には使用していないように思われる。実際に、C++を使用してプログラムを書くと、 FORTRANに比べ何十倍も遅くなることはよくあることである。この状況は、命令レベル並列方式によって性能をあげるハイエンドプロセッサでは特にひどくなってきている。
 本稿では、大きな抽象化ギャップに対するコンパイラによる最適化の困難さと、これを打破するためのアクティブライブラリ構築の試みを、具体的な例に基づいて紹介する。

 (5)GCC (GNUコンパイラコレクション)とフリー(自由)ソフトウェア(新部委員)
 
フリーソフトウェアのコンパイラ開発プロジェクトとして、GNUコンパイラコレクションについて述べる。最近の状況について、技術的な進展と公共のソフトウェアとしての社会的な側面の両方の点から論じる。
 技術的な進展としては、新しい言語のサポート、新しいプロセッサのサポートなどの新機能、およびスケジューラの改善、レジスタアロケーションの改善などの効率の向上について述べる。
 社会的な側面としては、開発体制の変容、組織を越えた分散協調の開発体制、自由にアクセス可能なソフトウェアの配布と、書き込み権限の制限とパッチの査読の仕組み、および Steering Committeeによる意志決定の仕組みについて述べる。また、GCCを含むフリー(自由)ソフトウェアの広がりについても述べる。

 1.2.4 シミュレーション関連

 (1)並列分散シミュレーション技術とエージェント技術(古市委員)
 異機種分散シミュレータの統合を可能とするため、米国防総省が1995年に提案していたHLA(High Level Architecture)が、2000年9月にIEEEにより標準仕様IEEE Std. 1516となった。これにより、訓練用のシミュレータ同士をネットワークで連接してのチーム訓練が容易になるばかりでなく、大規模な演算が必要となるような高機能で高精度なシミュレーションシステムを、従来と比べて効率良く実現することが可能となる。しかし、ハイパフォーマンスコンピューティングの分野にHLAがどのように関わることができ、またどのような応用分野に適用可能かは未知数である。そこで、この分野におけるHLAの応用の研究例を2例調査したので報告する。

 (2)ハイエンド・コンピュータ研究のためのシミュレーション技術(中島委員)
 ハイエンド・コンピュータのアーキテクチャは進化途上にあり、様々なアイデアが次々と提案されている。このようなアイデアを特に性能面で評価するためには、アーキテクチャレベル(または命令セットレベル)のシミュレータは不可欠のツールである。一方、並列マシンのPE数増加などシステムの大規模化や、マルチスレッド・プロセッサなどプロセッサの複雑化により、シミュレーションに要する時間は増加の一途をたどっている。したがってシミュレータの高速化技術は緊急の課題であり、様々な提案がなされている。今回の報告では並列マシンをターゲットとするシミュレータを中心に、MINTなどの代表的なシミュレータの高速化技術や、最近の研究動向について概観する。

 1.2.5 並列処理/アプリケーション関連

 (1)最適化と並列計算機(福井委員)
 将来の高性能計算機(HECC)では並列計算が必須である。並列計算のやり方には、1つの問題を複数の演算要素で計算を実行する正統な方法と、パラメトック・スタディのように個々の計算では並列化は行わず、異なるパラメータに対する計算を並列(併行?)に行わせる「自明な並列化」がある。
 ここでは「自明な並列化」よりは、簡単ではないが、ある目的関数を最大化(最小化)するための最適化問題に並列計算を利用することについて考える。最適化を行う手法として、シンプレックス法のような素朴な方法を用いると並列計算の効果は期待できないが、並列計算の効果が期待できる方法について述べる。

 (2)高性能計算(機)雑感(横川委員)
 本稿では、大規模科学技術計算のための高性能計算、あるいは高性能計算機について、以下の観点から思うことを述べる。

・ベクトル計算機
・コストパフォーマンス
・計算機科学者と計算科学者とのギャップ
・高性能計算機の開発資金

1.3 その他活動

 本WGは定例の5回の活動と、米国主体の海外調査も行っているのでその報告を付属資料に添付した。

・付属資料1は福井委員のSC2000参加報告,今回が3回目の参加である。
ASCIのアプリケーションについて、なかなか得られない情報を聞いてきた。

・付属資料2は若杉幹事のSC2000参加報告、今回が初参加。
全体的参加報告。個人的な印象、主観が強いので、一つには纏めず個別に報告した。

・付属資料3古市委員、小林幹事の米国ハイパフォーマンスコンピューティング技術動向海外調査報告。これは合同で一つに纏めてある。
米国の主要な研究所5カ所を訪問し、最新動向を纏めてある。

・付属資料5には定例会議の実績を纏めてある。
平成12年10月から平成13年2月にかけて5回実施した。

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