米国2000会計年度Blue Book(参考http://www.hpcc.gov/)の内容から、現在、米国が推進しているハイエンドコンピューティング分野に関する研究開発を紹介する。以下では、アーキテクチャ・ハードウェアコンポーネント・アルゴリズム・ソフトウェア・アプリケーションに分類し、それぞれ、スポンサーの省庁別にまとめてみた。
1 アーキテクチャ
1.1 DARPA、NASA、NSA
(1)Hybrid Technology Multi-Threaded(HTMT)アーキテクチャ
DARPA、NASA、NSAによって資金提供を受けている研究者たちは、毎秒1015の浮動小数点演算(1ペタフロップ)が可能なコンピュータシステムを構築する可能性を評価している。HTMTアーキテクチャは、改良された半導体技術と、要件を満たす最先端ハイブリッド技術(超伝導技術、光インターコネクト、高速VLSI、磁気記憶技術)を組み合わせる。
(http://htmt.jpl.nasa.gov/)
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1.2 NSA
(1)量子コンピューティング(Quantum computing)
小型化しているコンピュータコンポーネントの現在のトレンドは、2020年までに量子スケールに到達するだろうと示唆している。NSAのサポートにより、9以上の大学と企業が量子コンピュータ(QC)の研究を行なっている。
1.3 DOE
(1)量子テレポーテーション(Quantum teleportation)
オークリッジ国立研究所(ORNL)は、量子コンピューティングと通信分野の1研究領域である量子テレポーテーションを研究する最先端の研究所を設立した。ORNLは、シグナル発信機と発信されたシグナルが量子力学的にもつれ合った状態での実験をしている。実験には高出力の1,000兆分の1秒レーザーが使用される。
(2)ハイエンドアーキテクチャの評価
ORNLは、新しいハイエンドアーキテクチャ(例えばSRC-6など)がDOEや政府の他のアプリケーションに対して適用性があるかを評価している。SRC-6は商用のマイクロプロセッサ技術を新しい高性能なメモリアルゴリズムプロセッサ(MAP)サブシステム(特定のアプリケーション用に柔軟にハードウェアをカスタマイズできるようなプログラム可能なハードウェアコンポーネント)と結合する。ORNLはMAPプロトタイプサブシステムを評価しており、また、SRC-6の受取りを計画している。
また、サンディエゴスーパーコンピュータセンター(SDSC)にある国立先端コンピュータ基盤パートナーシップ(NPACI)は、DOEの国立エネルギー研究所スーパーコンピュータセンター(NERSC)、カリフォルニア工科大、ボーイングコンピュータサービスと一緒に、テラマルチスレッドアーキテクチャ(MTA)を評価している。このシステムは、プログラムを数百の実行スレッドに分割し、高度な並行処理を達成しようとしている。
1.4 NFS
(1)コモディティクラスタ(Commodity clusters)
NSFのサポートする高性能バーチャルマシン(HPVM)のソフトウェアプロジェクトは、商用デスクトップコンピュータを高性能クラスタとして使用できるようにする。NSFが基金を供給している国立コンピュータ科学同盟(NCSA)とNPACIで研究している研究者たちは、ワークステーション100台規模のWindows NTのスーパークラスタ(Intel Pentium U)を構築し、複雑な天体物理学の流体力学のコードZEUS-Mを数ギガフロップのスピードで実行させた。HPVMはユーザーが簡単にメッセージパッシングインターフェイス(MPI)コードをNTクラスタ環境に移植できるようにする。
(http://access.ncsa.uiuc.edu/Features/HPVM/HPVM.html)
2 ハードウェアコンポーネント
2.1 NSA
(1)ダイヤモンドをベースにしたマルチチップモジュール(MCMs: Multi-Chip Modules)
NSAのMARQUISE/SOLITAIREプログラムはダイヤモンドをベースにしたMCMと薄いフィルムスプレー冷却を使っている高性能コンピュータを再パッケージする。SOLITAIRE プロトタイプは、ダイラスト(die-last)MCMs 、ダイヤモンドの基板(substrates)、スプレー冷却を合体させる完成度の高い高密度パッケージ技術を実証する。
(2)マイクロスプレー冷却(Micro spray cooling)
NSAのスプレー冷却パワーコンバータ研究プログラムは高密度、高効率パワーコンバータを開発している。これにはスプレー冷却と平面的にラミネートされたトランスを使用している。現在の研究は、ダイヤモンドの基板上でのシリコンまたはガリウム砒素(GaAs)のデバイスのハイブリッド集積化で起こる基本的な熱膨張係数の不一致を克服するために、等温スプレー冷却を適用することに焦点が当てられている。
(3)超伝導クロスバースイッチ(Superconductive crossbar switch)
NSAはポートごとに毎秒2.5ギガビット(Gbps)で動作する128×128超伝導クロスバースイッチを作成している。それは自動ルーティング(self-routing)で、32×32から1024×1024を超えるサイズまでスケーラブルで、レーテンシーが4ナノ秒より短い。
クロスバーエレクトロニクスは絶対4度で動作し、その入出力ポートは室温にあり、低温装置が冷却器で冷やされているが、標準的な室温の環境で使用することができる。もっと高速でサイズが拡張されたならば、このスイッチはHTMTアーキテクチャで使用するためのエレメントになるだろう。
(4)光電子(Optoelectronic)の研究
NSAは、光学技術に関する研究をサポートしている。その技術はデータのルーティング処理を促進する論理関数を提供することによって理論的に将来の通信とコンピューティングシステムに対し数百Gbpsのデータレートをサポートすることができる。NSAはまたチップや半導体の光学増幅器に関する高性能な分光計の研究を指揮している。
2.3 DOE
(1)高性能ストレージシステム(HPSS: High Performance Storage System)
DOE国立研究所コンソーシアムは、IBMと協力してHPSSを開発してきた。おおよそ20サイトで2年を超える活動と展開によって、HPSSは高性能コンピューティングの世界でストレージシステムの標準となった。HPSS4.1は分散ファイルシステム、file families、MPI-IO、スケーラブル計算、パフォーマンス改善などのサポートのような新しい特徴を持っている。サンマイクロシステムズ社とストレージテクノロジー社が、1999会計年度にHPSSコミュニティに参加した。
3 基礎/アルゴリズム研究
3.1 NSF
(1)コンピューティングの理論
NSFは以下に示す領域のコンピューティング理論の基礎的な研究をサポートしている。
(a) アプリケーション固有の理論は、分子生物学、通信ネットワーク、コンピュータ言語学のような科学や工学の問題解決のためのモデル開発やテクニック開発をサポートする。
(b) 核となる理論は、計算の複雑さ、暗号法、インタラクティブな計算、計算の学習、並列/分散処理、ランダムデータの計算、オンライン処理、知識に関する推論をカバーする。
(c) 基礎的なアルゴリズムは、組合せ、近似、並行処理、オンライン、数値計算、幾何学、グラフ理論のアルゴリズムを含み、複数のアプリケーションの領域にまたがっている。
(2)数値、シンボリック、幾何学の計算
NSFは計算とグラフィックスに関する基礎研究をサポートしている。その中にはコンピュータ代数、物理的なプロセスの数値計算とモデリング、数学的な最適化、計算幾何学、画像処理、計算論理学における推論の演繹的手法、自動推論を含んでいる。NSFはまた、計算科学と計算工学をサポートするために研究成果を問題解決環境に統合するサポートをしている。たとえば製造設計、検査支援システム、プロトタイプ作成、設計検証のような科学的工学的システムにおける最新の計算やグラフィック技術の革新的なアプリケーションがある。
(3)並列処理と分散処理コンピューティングにおけるNFSの研究
NSFの1999会計年度のHPCCに関する研究は、並列処理モデル、科学コンピューティング用並列処理アルゴリズムとソフトウェア、動的コンパイルと並列コンパイルの最適化、分散処理用オペレーティングシステム、スーパースカラーアーキテクチャ、高性能メモリシステム、信号処理と通信システムの研究があり、特に無線情報処理技術とネットワークについて研究されている。2000会計年度の研究計画には無線センター、ハードウェアとソフトウェアの共同設計、高性能科学用や商用アプリケーションが入っている。
(4)データマイニング(Data mining)
NCSAの最高のデータマイニングツールの中には、マシン学習アルゴリズムがある。このアルゴリズムは、プログラムが例から学習する反復処理に依存している。マシン学習アルゴリズムは戦術的戦略的意思決定に利用することができる。
また、天文学のデジタル天体観測や高エネルギー物理学などでは莫大な数の属性によって表現されているデータの中から関係するサブセットを特定する機能の研究が必要とされており、データをクラスタリングするためのスケーラブルな統計学的アルゴリズムがカリフォルニア大学デービス校のNPACIの中で開発されている。
3.2 DOE
(1)Whisker Weaving(WW)
DOEのサンディア国立研究所(SNL)の数学的コンピュータ計算科学における研究は現在WWという構造化されていない3-D六面体のメッシュを生成するためのアルゴリズムとメッシュの最適化に焦点を当てている。メッシュに要する時間が、DOEのASCI(Accelerated Strategic Computing Initiative)計画の自動設計機能やその他の大きなプログラムを開発する上において現時点での最も大きな障害であるから、WWとメッシュ最適化の2つの潜在的インパクトは重要である。
(2)大規模科学的工学的設計の最適化
SNLは非線形な最適化のためのオブジェクト指向ライブラリOPT++を開発してきた。このライブラリには非束縛型と境界束縛型の両方の最適化に有効な様々な幅広い手法、計算化学問題に関する大規模な束縛型最適化のアルゴリズム、迅速強固な並列処理最適化に関する新しい手法が入っている。
4 ソフトウェア
4.1 DARPA, DOE, NSF
(1)Globusプロジェクト
DARPA、DOE、NSFによってサポートされているGlobusプロジェクトは、アプリケーションが数十〜数百の地理的に分散した計算に使用するリソースや情報、装置、ディスプレイをまとめるための計算グリッドと実行環境を構築するための基礎技術を開発している。南カリフォルニア大学の情報科学研究所とアルゴンヌ国立研究所(ANL)から参加しているGlobusチームは、広範囲なアプリケーションのデモでSC98の高性能コンピューティング(HPC)努力賞を勝ち取った。このチームはGlobusユビキタススーパーコンピューティングテストベッド機構(GUSTO)のテストベッドを示した。(http://www-fp.globus.org/)
4.2 NSF, NIH
(1)コンピュータシミュレーションによる酵素の呼吸動作の検証
NSFやNIHがサポートしている研究者たちは、人体中の最も速くて最も効率的な酵素の一つにまつわる神秘について、強力なスーパーコンピュータを使って解き明かそうとしている。アセチルコリンエステラーゼ(AChE)は、神経伝達物資であるアセチルコリン(ACh)を分解するような化学反応を促進させることによって1つの神経細胞から次の神経細胞または筋肉細胞への伝達を直ちに停止するように働く。NSFがサポートしているNPACIで走っている大規模コンピュータシミュレーションを使って、研究者たちはAChEが「呼吸する」ことによってそのことを起こしているということを示した。
4.3 NSF
(1)次世代ソフトウェア(NGS)プログラム
NSFのNGSプログラムは、設計、管理、コンピューティングシステムの制御のための性能工学技術を開発するために、計算グリッドや将来のペタフロッププラットフォームのような複合的なコンピューティングプラットフォーム上で実行する複合的なアプリケーションに対し実行時サポートを提供するための新しいシステムソフトウェアアーキテクチャを作成するために、研究を助成している。
(2)オペレーティングシステムとコンパイラ
オペレーティングシステムと分散システムに関するNSFの研究には次のものがある。ローカルエリアネットワーク(LAN)とワイドエリアネットワーク(WAN)のリソースの一様なアクセスと管理に対するメカニズムやアプリケーションプログラミングインターフェイス(API)。拡張可能なサービスを構築するためのミドルウェア基盤。新しいアプリケーションに対するリソース管理とサービスの質の要件。セキュリティと電子商取引。コンパイラやランタイムシステムに関する研究には次のものがある。動的コンパイル、記憶装置の一貫性と記憶階層効率のモデル、ワールドワイドウェブ上でのプログラミング用のコンパイラのサポート。
(3)ソフトウェア工学と言語
NSFは質の高いソフトウェアをベースにしたシステムの開発を行なうための基礎研究をサポートする。これには、仕様と設計用の領域を特定した言語、ソフトウェアの設計と進化への構成的アプローチ、ソフトウェアのモジュール化と構成の問題、信頼と品質の強化、ソフトウェア開発の自動化のステージ、分散開発とソフトウェアのセキュリティを含む分散とネットワーク環境の問題、ソフトウェア工学とプログラミング言語のあらゆる面に関する公式的な基礎がある。
(4)科学計算用ポータブル拡張可能ツールキット(PETSc)
PETScは偏微分方程式による物理学現象の大規模シミュレーションのための一連の相互運用可能なソフトウェアコンポーネントである。PETScには、データ構造とC、C++、 Fortranで書かれたアプリケーションコードで使用される数値計算のカーネルの拡張セットがある。
PETSc 2.0はすべてのメッセージパッシング通信用にMPIを使用し、ワークステーションのネットワークから大規模並列処理プロセッサまで持ち運べるようにする。PETScプログラミングモデルはまた非均等メモリアクセス(NUMA)の共有メモリマシンに最も適している。
PETScソフトウェアの周りに構築されたANL-ledマルチサイト計算科学プロジェクトは、空気力学や音響学(NSFの多くの専門にまたがるチャレンジプログラム)分野でのマルチモデル、マルチドメイン計算手法に関する研究を含んでいる。それはオールドドミニヨン大学、クーラント研究所、コロラド大学ボールダー、ノートルダム大学、ボーイングコンピュータサービスにおいて共同で行われている。
(5)情報をベースにしたコンピューティング
発見や検索を自動化しているスーパーコンピュータのデータ管理技術はNPACIのデータ集約型コンピューティング環境に配置されつつある。インフラはアーカイブストレージシステム(HPSS)、データ移動システム(SDSC Storage Resource Broker)、メタデータカタログ(SRSC MCAT)、データ発見サービス用のデジタルライブラリ、データ表示のための情報仲介者(mediators)で構成されており、結果として、科学的データセットの出版、従来のテキストと科学的データ収集の統合を可能にし、画像のデジタルライブラリをサポートする。
4.4 NSA
(1)プログラミングの方法と言語
NSAは、大量に並行処理や分散処理を行なう異種のコンピューティングプラットフォームや特定用途のプロセッサ向けの計算手法や言語に関する研究をサポートする。研究にはコンパイラAC(そのターゲットはSGI/CrayのT3D やT3Eアーキテクチャ、さらにその他のアーキテクチャ)の開発も含まれている。また、研究にはメッセージパッシングプログラミングの「将来の」モデルのインプリメントも含まれる。
4.5 NIST
(1)Javaを利用した数値計算
ネットワークをベースにしたコンピューティングのためのJava言語と環境の急速で広範囲での採用は、科学用のソフトウェアの開発をサポートするための信頼性のある再利用可能な数値を扱うソフトウェアコンポーネントの需要をおこした。NISTはJava Grande Forumと一緒に作業し、高性能な数値計算においてJavaを使用できるようにする。
4.6 DOE
(1)Aztec反復ソルバー
SNLは、線形システムを解くための最新式の反復法のライブラリであるAztecの研究開発を行なっている。Aztecは、最先端を行く反復法を提供することで、また並列処理の反復法に関連した扱いにくいプログラミングタスクから開放することで、アプリケーションエンジニアの作業を楽にしてきた。DOEのASCIのアプリケーションを含む内部使用に加えて、全世界に100を超えるAztecの外部ユーザーがいる。
(2)スケーラブル非構造メッシュアルゴリズムとアプリケーション(SUMAA3d)
SUMAA3dは、超並列プロセッサ(MPP)からワークステーションのネットワークにわたる広範囲のアーキテクチャ上でのスケーラビリティを強調した分散メモリ型コンピュータによる非構造メッシュ計算用の一連のソフトウェアツールである。アプリケーションには、圧電結晶(modeling piezoelectric crystals)、高温超伝導体、ひび割れた圧力容器のモデリングがある。SUMAA3dプロジェクトはDOEのANL、ペンシルベニア州立大学、ブリティッシュコロンビア大学、バージニア工科大の研究者たちの共同プロジェクトである。
最近は、大規模な偏微分方程式(PDE)アプリケーション用の最新大規模統合計算環境(ALICE)との相互運用性に精力を注いできた。現在は、SUMAA3dとソルバーや可視化コンポーネントとのインターフェイスをとること、今までに得られた知識を一般のメッシュコンポーネントの設計仕様を作成するために利用することに精力を注いでいる。SUMAA3dと科学計算用ポータブル拡張ツールキット(PETSc)とBlocSolve95の間の効率的なインターフェイスがすでに完成している。
(3)適応可能な数値計算手法に対する動的負荷分散とデータマイグレーション
SNLはアプリケーションコードのMPSalsa、ALEGRA、SIERRA用の非構造グリッドの階層構造の適応可能なメッシュの詳細化に投資している。これらのプロジェクトはそれぞれ四分木(quadtree)または八分木(octree)のデータ構造を用いて、詳細化したメッシュを表現する。その関連した問題を扱うために、Zoltanという動的負荷分散ツールが幅広いアプリケーションに利用されるように開発されている。
(4)ACTS(Advanced Computational Testing and Simulation)ツールキットとGlobus
科学用の装置をリモートのスーパーコンピュータや可視化装置と結合すると、擬似リアルタイム(時間ではなくむしろ分刻み)やリモートの解析、画像処理、制御により、装置の性能を変えることができる。DOEのACTSツールキットはGlobusのツールキットを結合して、このような組合せを実現する。Brilliant Xraysは現在ANLのAPSのような設備で利用できるが、高解像度の3-D断層写真撮影装置のデータを記録することを画像当たり1秒より短い時間で実行可能なものにする。この技術は生物学や考古学のデータを画像処理したりシミュレートしたりするのに使われている。Globusソフトウェアは、探知器、2次記憶装置、スーパーコンピュータ、リモートユーザーの間でデータを効率よく移動させる。(http://www.nersc.gov/ACTS/)
(5)最新大規模統合計算環境(ALICE)
ANLのALICEプロジェクトのゴールは、高性能数値計算アプリケーションを構築するために独自に開発されたソフトウェアを使用する時の障壁を取り除くことである。そしてテラフロップ規模の計算用のリソースや結果としての新しい科学的な洞察を一般に広く活用することのできる基礎を築くことである。ALICEの開発は大規模科学的アプリケーションの設計の妥当性と実用性を保証するだろう。(http://www-unix.mcs.anl.gov/alice/)
(6)ALICEメモリ“Snooper”(AMS)
AMSは1つのAPIで、計算処理の探索、モニタリング、デバッグツールを書く時に支援してくれる。AMSはMPIを使用した並列処理アプリケーションをサポートするクライアント/サーバー用のマルチスレッドAPIの1つである。(http://www-fp.mcs.anl.gov/ams/)
(7)分散問題解決システム
ORNLのNetSolveは種類の違うコンピュータとソフトウェアライブラリを統一された簡単に使用可能な計算サービスに変えようとしている。ネットワークで緩く接続された数知れないコンピュータのハードウェアやソフトウェアのリソースを集め、なじみのあるクライアントインターフェイスを使ってそれらを結合した能力を利用することができる。そしてスーパーコンピューティングを通常のネットワークのプラットホーム上で幅広いユーザーにとって透過的に利用可能なものにする。(http://www.cs.utk.edu/netsolve/)
(8)Collaborative User Migration, User Library for Visualization and Steering(CUMULVS)
CUMULVS共同コンピュータによる探索ツールは、大規模な分散シミュレーションに対して、リモートの可視化、探索、異質のチェックポイント機能または再開機能を提供する。CUMULVSは国を跨いでNSFのNPACI、DOEやDoDのサイトで使用されている。
(http://www.epm.ornl.gov/cs/cumulvs.html)
(9)ALICE Differencing Engine(ADE)可視化ツールキット
ANLの研究者たちはADE可視化ツールキットを開発している。科学者やエンジニアが、没入型、対話型バーチャルリアリティ環境の中でベクトルデータやスカラーデータを含む最大10個のデータセットの中の対のものに関する差異を可視化することができる。
このツールキットは、DOEとAir Products and Chemicals, Inc.の共同プロジェクトで新しいアルミニウムの炉を設計するのに使われてきた。炉の効率性に対するそれぞれの燃料の種類の影響を調べるために、空気燃料、空気または酸素の混合、純酸素燃料のデータセットが表示され解析された。
4.7 NOAA
(1)海洋モデル用分散メモリソフトウェア
NOAAの新しいModular Ocean Modelバージョン3(MOM3)はモデル物理学を改良し、初めて分散メモリ型スーパーコンピュータで走らせることができる。メッセージパッシングを使ったテストはNOAAのGeophysical Fluid Dynamics Laboratory(GFDL)のSGI/Cray T3E-900とT90スーパーコンピュータで行われた。継続している研究の領域は順圧方程式のよりよいスケーリング、およびモデルの実行中にデータを効率よく出力するための並列処理技術を開発することを含んでいる。後者は、NERSCと共同で扱われているが、これはまた南洋の高解像モデルに発展していく。(http://www.gfdl.gov/MOM/MOM.html)
(2)気象モデリングのスケーラブルなツール
NOAAの予報システム研究所(FSL)は、並列コンピューティングアーキテクチャで地球物理学の流体力学モデルを開発し移植するためのツールの拡張可能なモデリングシステム(SMS)の最新コンポーネントを公表してきた。SMSは実験用のパブリックドメインソフトウェアとして使用することができる。(http://www-ad.fsl.noaa.gov/ac/sms.html)
(3)海洋および気象データの並列入出力(I/O)
NOAAのGFDLの科学者たちは、ローレンスバークレー国立研究所(LBNL)のDOEの科学者たちと共同して、海洋の画像処理や気象学の研究者コミュニティで広く使用される共通データフォーマットであるnetCDFの並列I/Oのインプリメントを開発している。
4.8 DARPA
(1)新しいfill-reducingオーダリングアルゴリズム
DARPAが基金を提供しているORNLの研究者たちは、ゼロックスパロアルト研究センターとテネシー大学と共同でdirect sparseソルバーを固有の反復並列処理および拡張性とに組み合わせることによって前提条件付け反復法に基づいたmodular parallel sparse matrixソルバーのファミリーを開発している。この事が防衛および産業のエンジニアに並列マシンを使って大規模な問題を効率よく解くことができるようにする。
4.9 EPA
(1)APOALA
EPAがサポートしているAPOALAプロジェクトは、複雑で大規模な環境でのプロセスを解析するために、時間的地理学的な情報/可視化環境を統合する機能を開発している。プロトタイプは、時空4次元のデータ、仮想の時空4次元の問い合わせ構築言語、データの効率的な検索と操作の並行化、従来型探索型の3-Dデータの時系列的解析を楽にする可視化、地球のデータに対する時空4次元の可視化手法と緊密に組みあわされたデータの探索と知識の発見機能、これらに対する新しいデータベースモデルをまとめることになるだろう。
(http://www.geovista.psu.edu/apoala/index.htm)
(2)ParAgent
EPAのサポートを受けているアイオワ州立大学で開発されたParAgentは、知識ベースのアプローチに従った特定種類のプログラムを自動並列化処理する対話型ツールである。ParAgentはウェブベースの性能モニタリング、性能解析、可視化のツールを含んでいる。現在のバージョンは有限差分法(FDM)をベースとするプログラム用に設計されており、NASAのアメス研究所にある200Mhz Pentium IIを搭載したワークステーションの64個のノードを持つクラスタの上の並列処理コンピューティング用にインプリメントされてきた。
(3)VisAnalysis Systems Technology/Space-Time Toolkit(VAST/STT)
EPAがサポートするアラバマ大学ハンツビル(UAH)のVASTチームは、マルチソースデータのビジュアルインテグレーションのためのJavaベースソフトウェアを開発している。このVAST/STT は本来の時空4次元領域のデータを受け入れる。特に、STT は、マイクロセカンドから世紀の単位の時間分解能で、ダイナミックな空間のデータ間の関係を調べる時に使用される。
STTは、ナッシュビルのSouthern Oxidant Study(SOS)のために、1995年の2ヶ月のデータの相互関係付けによってテストされている。そのデータは航空機や人工衛星のセンサー、気象学的環境的モデルの出力、縦形ウィンドプロファイラ、点源測量、ドップラレーダーボリュームから取得された。(http://vast.uah.edu/)
4.10 NASA
(1)科学的可視化のための並列ボリュームレンダリングシステム(ParVox)
NASAの分散ボリュームレンダリングシステムParVoxは、遅いネットワークや下位機種のワークステーションを使っている時でも科学者のデスクトップ上で使用できる、時間とともに変化する大きなデータセットを扱う分散型可視化に関するソリューションを提供する。
NASAは現在ParVoxの機能的なパイプライン処理に関して作業している。1999会計年度の大きなマイルストーンは非構造化グリッド4-Dデータセットに対するレンダリング機能を追加することである。(http://alphabits.jpl.nasa.gov/ParVox/)
5 アプリケーション
5.1 NSF, NIH
(1)エネルギー精製を支援するモデル構築(AMBER)
NSFとNIHがサポートするAMBERのコンピュータによる化学プロジェクトは、蛋白質の折り畳みと2つの与えられたホストに対するリガンド(配位子)(または1つのリガンドに対する2つのホスト)、の相対的なバインディング自由エネルギーを研究し、蛋白質と核酸の順序に依存した安定性を調査し、様々な液体の中で異なる分子の相対的溶媒和自由エネルギーを発見するためのソフトウェアを開発した。
最近、研究者たちは、villin headpiece subdomainと呼ばれる36個の残留蛋白質で分子の最も長い分子力学シミュレーションを行なうためにAMBERを使用した。このシミュレーションはピッツバーグスーパーコンピューティングセンターでSGI/CrayのT3DとSGI/Cray ResearchのT3Eで100日を超えて行なわれた。このシミュレーションでは、完全なマイクロ秒の間分子を追跡した。(http://www.amber.ucsf.edu/amber/)
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図2 コンピュータで処理した折り畳み状態のスナップショット
5.2 NSF
(1)血流を維持するコード(NekTar)
血液とその他の複雑な流体の流れをモデル化するための新しいNekTarソフトウェアは、動脈硬化症のような動脈病の外科処置に変化をもたらすかもしれない。このコードは、かつては磁気共鳴画像診断装置(MRI)のような「静止画像」フォーマットでしか正確に捉えられなかった血流に対し、アニメーションによるシミュレーションを作成することができる。ブラウン大学の研究とNCSAのシミュレーションが、科学者がもっと正確に多くの種類の流体の流れをモデル化することができ、コンピュータによる探索ができるようにする。
(http://www.cfm.brown.edu/people/tcew/nektar.html)
(2)ニューロンモデルの作成とテスト
コンピュータ計算モデルはニューロンの動きとネットワークにおけるニューロン間の通信を記述する。モデルは、生物の組織や生きている実験材料を使って行なうことが大変難しいかまたは不可能な場合に仮想的な実験を行なうために使用することができる。コンピュータによる集中シミュレーションはより大きな数のニューロンを電気的特性と化学的特性の両方のますます複雑で現実感のある特性のモデル化へ組み入れることができる。NSFが基金を提供しているNPACIのニューロサイエンスの研究者たちは高性能コンピューティングとインフラ資源を使いこの作業を行なっている。
(3)人間の脳を理解するためのロードマップ
NSFが基金を提供しているNPACIのニューロサイエンティストたちは脳における構造と接続のロードマップを生成するツールを作成している。研究者たちは、MRIスキャンや低温断面切断脳 −脳を凍結し薄くスライスしたもの− や高倍率の顕微鏡で収集したデータを解析するソフトウェアを作成している。このソフトウェアは脳の3-Dモデルを再生成することができ、特定の脳とその他のものとを比較するためのロードマップを生成することができる。
(4)触媒作用の抗体
ウイルス、バクテリア、その他の有害な侵入者が血流の中に入ってきた時、免疫システムは、抗体を作成することによってそれらを撃退する。つまりは、侵入者をしっかりとつかんではなさないような形状(ちょうど鍵にぴったりあった錠)をした蛋白質が有害となる機能を固定して動けなくする。もしこの微少な侵入者の3-D的特徴にマッチした蛋白質を製造するためのこの驚くべき機能を利用することができたらどうであろう? この「触媒作用の抗体」が、合理的な薬の設計、言い換えれば他の分子と相互作用するように彫刻された3-D的特徴をもつ分子の作成、という明るい見通しを製薬産業に提供する。
(5)赤色巨星のパルスを診る
NSFが資金提供しているミネソタ大学とNCSAの天体物理学者たちは赤色巨星の3-Dシミュレーションを作成した。それは非常に詳細でそれが脈打つところを観察することができる。これは、これらの大きくて脈打っている星の中の照度の違い(その「標準的なあかり」は宇宙の距離を測るために天文学者が拠り所にしている)を説明する助けになるかもしれない。またそれが、科学者たちが、ついには赤色巨星になるはずの我々の太陽から何を予測するべきかを知る助けになるであろう。
(6)Biology WorkBench
NSFがサポートしているNCSAのBiology WorkBenchは生物学者にとって革新的なウェブベースのツールである。このWorkBenchによって生物学者は多くの一般に普及している蛋白質や核酸の一連のデータベースを検索することができる。この成果は最初に1996年にリリースされ、多くの機能強化がなされた新しいバージョンの3.0が最近リリースされた。
(http://bioweb.ncsa.uiuc.edu/educwb/)
5.3 NASA
(1)NASAグランドチャレンジ
現在、NASAのゴダード宇宙飛行センター(GSFC)のテストベッドには、NASAが行なっているプログラムの他にグランドチャレンジチームをサポートしている1,024のプロセッサがある。NASAの地球と宇宙科学(ESS)Round-2チームはSGIのアナリストと協力して、Cray T3Eの上で地球と宇宙科学モデルをインプリメントしている。
(http://sdcd.gsfc.nasa.gov/ESS/grand-challenges.html)
(2)NASAインテリジェント総合環境(ISE)デモンストレーション
ISEプログラムは、多様な専門知識や技術や関心を持った科学者や技術者、エンジニアが1つのチームとして機能することのできるようなツールやプロセスを研究し、開発する予定である。地理的に分散した、職業的に多様な人材の間でNASAのミッションを定義、設計、実行、運用することをネットワーク環境による共同作業として機能することによって、開発に使われる時間が縮小され、ライフサイクルのコストが減少することになるだろう。
5.4 NOAA
(1)国立環境予想センター(NCEP)
NOAAのNCEPは、並列処理スーパーコンピュータに気象予想モデルをインプリメントするための手法を開発するために海軍研究所(NRL)とNASAのGSFCと共同作業してきた。NCEPはそのターゲットマシンのアーキテクチャには依存しない最新の調達物に対するベンチマークを提供した。
(2)ハリケーンの予測
1998年のシーズンはいくつかの大きなハリケーンが襲ってきた。それらは合衆国の南東部の財産に大きなダメージを与え、中央アメリカには多くの死傷者がでた。GFDLのハリケーン予測システムはNOAAのNCEPによってこれらの嵐の通り道を予測するためにモデル化の一部として広範囲にわたって使用されていた。
(3)リアルタイム気象予想
緊急を要する気象予想における進歩は1月にテキサス州ダラスで行われたAmerican Meteorological Society(AMS)のミーティングで実証例示された。入力データはNOAAの新しいドップラーレーダーシステムより得られた詳細なデータストリームであった。それぞれの観測日のリアルタイムで高解像度の数値化された気象予想は、NSFが資金提供しているNCSAのほとんどノンストップで稼動している128個のプロセッサを搭載したSGI/CrayのスーパーコンピュータOrigin 2000の全能力を使ってリモートに作成された。
5.5 FAA
(1)航空機に影響する気象予想
FAAのサポートを受けて、NOAAのFSLはRapid Update Cycle(RUC-2)のモデルを改良した。これにより気象学者が、氷結条件、風、雲、晴天乱流などの航空機に影響を与える気象をより高精度に予想することができるように支援する。RUC-2は1時間毎(最初のバージョンは3時間)に走り、高精度で、より詳細なデータを取得し、より精確な情報を作成する。
5.6 DOE
(1)近似Green関数を使用した効果的電子移動のシミュレーション
ORNLの研究者たちは、「近似Green関数」の手法によって(境界積分法のアプリケーションの中に、Green関数が計算回数を減らすことができるものがあるという手法の)メリットが拡張可能であることを実証してきた。彼らはこの新しいアルゴリズムを、マイクロエレクトロニクスのワイヤーがボイド(空隙)によって変形された材料科学の電子移動問題のモデリングで使用してきた。
5.7 NIH
(1)Neuroimaging Analysis Center(NAC)
NACはNIHの国立研究資源センター(NCRR)によってサポートされており、基礎神経科学と臨床神経科学に関する画像処理と解析手法を開発する。NACは概念や手法の普及を重要視している。NACの技術はアルツハイマー病や脳の老化の研究、精神分裂症や精神分裂型の病気の形態計測、多くの硬化症の定量解析、神経外科学における対話的画像ベースの計画とガイダンスに使用されている。
(2)Laboratory of Neuro Imaging Resource(LONIR)
NIHがサポートしているLONIRは、十分に多次元の複雑さで脳の構造や機能を調査するための新戦略を開発する。LONIRは、脳のモデルを作成、解析、可視化、相互作用するための種々のツールとともに国際的な共同開発者のネットワークを提供する。この共同作業の主な焦点は4−Dの脳のモデルを開発することである。脳の構造と機能の関係の調査を4次元に拡大して、脳のモデルが発達や病気の中でダイナミックに変化する脳の構造の複雑なパターンを追跡し解析する。
(3)仮想細胞(Virtual Cell)
NIHがサポートしているNational Resource for Cell Analysis and Modeling(NRCAM)は、細胞生物学的なプロセスをモデル化するための一般的なコンピュータによるフレームワークである仮想細胞を開発している。この新しい技術は、それらの個別の反応を記述している生化学的や電気生理学的なデータと、それらの細胞内分布を記述している実験用顕微鏡の画像データを結び付ける。仮想細胞の現在のアプリケーションには、神経芽細胞と心筋細胞におけるカルシウムの力学の研究、オリゴ樹木細胞を取り扱う細胞内RNAの研究がある。(http://www.nrcam.uchc.edu/)
5.8 NIST
(1)光(学)情報処理(Optical information processing)
NISTは、640×480ピクセル以上のイメージを持つ(たとえば1,000人の顔の)大きな参照セットに備えて、入力のイメージ(ビデオレートで)をテストする光学パターン認識システムを設計している。NISTは、高速光学パターン認識のアプリケーションにおいて必要とされる2サブシステムのリアルタイムビデオシステムのテストベッドバージョンを開発してきた。NISTはそのサブシステムとコンポーネントを将来の設計作業のために評価する。
(2)マイクロマグネティック・モデリング(Micromagnetic modeling)
NISTは精確で効率的なマイクロマグネティック計算用の計算ツールを開発している。このような計算は、磁気ディスクドライブでより高密度で高速の読書き時間を達成するには必須である。初期のNISTがマイクロマグネティック計算用のソフトウェアが如何に信頼性がないかということを示す研究をしたとすれば、NISTは現在、徹底的にテストされ、実験で計測した結果と比較され、広く公で使用可能になるはずの参照コードを開発している。
(3)高速マシニングプロセスのモデリング
現在NISTでは、高速マシニングの力学を研究するために結合された実験用および解析用プログラムが進行している。その目標は精確な計測を提供することと、高速マシニングオペレーションの有限要素法ソフトウェアの予想能力を評価しながら基本的な金属切削プロセスのより良好な科学的理解を得ることである。NISTは直交マシニングの基本的なプロセスの数学モデルを導き出した。そしてそのシミュレーション用の有限要素法ソフトウェアは、NISTのスーパーコンピュータ上で開発されインプリメントされた。
5.9 EPA
(1)有害物質制御戦略の開発
ノースカロライナ州立大学の研究者たちの、意思決定支援システム(DSSs)のプロトタイプでは、最新の空気品質モデルにおいて「コマンドとコントロール」や排出権取引プログラムのような二者択一の管理戦略が設計されテストされた。プロトタイプのDSSsは、費用対効果の高いベンチマーク戦略を見極めたり、設計目標の中でのトレードオフを特徴づけたり、設計プロセスの中で不確実性を考慮にいれるために使用できる最適化コンポーネントを持っている。それらは異質で分散したコンピュータネットワーク上の高性能コンピューティングを通して実用になる。