以上の工夫により、初期の実働化では扱えなかった複雑なモデルが扱 えるようになった。例えば、Karier族に於ける血液型の遺伝メカニズ ムと婚姻制度の相互作用を記述したプログラムの実行と学習が可能に なった。以下若干の説明を加える。
Kariera は20世紀の初頭西オーストラリアの海岸沿いに住んでいた 部族の名前であり、双系の交差いとこ婚 (bilateral cross-cousin marrige)と呼ばれる婚姻システムを持っていた。このシステムでは、 夫婦はいとこ同士でなければならず、また夫の父親と妻の母親が兄弟 (siblings)であり、且つ夫の母親と妻の父親も兄弟でなければならな い。
婚姻の制約他にもある。 この部族(tribe)は Palyeri、 Karimera、 Banaka、 Burung の4つの氏(clan)に分かれているが、 婚姻は Palyeri と Karimera、もしくはBanaka と Burung の間で行なわなけ ればならない。また婚姻の結果生まれた子供に帰属する氏は父親の氏 により決まる。例えば 父親が Banaka なら子は Palyeri となるなど ('An Anatomy of Kinship' by Harrison C.White, Prentice-Hall INC., 1963.)。
我々は以上のような関係を組み込んだ Kariera族のABO 型の分布を表 す PRISMプログラムを書き下し、 学習実験を行なった。但し、 プログラムではPalyeri、 Karimera、Banaka、 Burungの人口比は2: 2:1:1とし、ABO遺伝子の分布は各氏共通とした。
まず教師データとしてランダムに100個 4:2:3:1の割合でA、
B、 O、 AB の血液型を生成し、 blood_type(a)
:34、
blood_type(B)
:27、 blood_type(O)
:33、
blood_type(AB)
:6 という結果を得た。次にこの教師デー
タを先ほどの PRISMプログラムに学習をさせた結果、121回
の繰り返しでEM学習ルーチンが収束し、得られた確率パラメータから、
各氏の A、B、Oの遺伝子の分布が以下のように計算された。
プログラムの妥当性を確認するため、このプログラムが作る血液型分布が教師
データに当てはまるか統計的検定( テスト(自由度14))
により確認した。