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まえがき

仮説推論はアブダクション(発想的推論)の一種であり、宣言的表現下での求 解のメカニズムに立脚しているという基盤性、診断や解釈、設計という問題に 適用できるという実用性の両面で、今後の知識処理の重要な枠組みである。宣 言的知識表現による仮説推論は、推論の筋道をガイドする役割を果たす個別的 なヒューリスティックな知識を特に必要としないことから、現状の知識処理の 大きな課題である知識獲得の負担は大幅に軽減されることになる。しかしなが ら、他の知識と矛盾する可能性を有する不完全な知識の使用に起因する非単調 推論系が必要になるため、低い推論速度が最大の問題となっていた [石塚 96,石塚 94]。

本研究では、我々が行なってきた高速仮説推論法の成果を広く使用できる形態 のソフトウェアツール化し、新しい知識処理の枠組みの利用拡大を可能にする ことを目的とした。特に、可能な要素仮説に数値的な重みを付し、この重みの 和(コスト)の最小な解仮説を求める重み付き(あるいはコストに基づく)仮 説推論に焦点を当て、準最適解を多項式時間で求めるネットワーク化バブル伝 播法(NBP法) [大澤 95a]による仮説推論法のツー ル化を図った。これは 0-1整数計画の効率的な近似解法である掃出補数法 [Balas 80] と同等な動作を、知識ネット ワーク上での動作に置き換え、かつ知識構造を利用しての効率化を図った推論 法である。平成7年度には命題論理表現版のソフトウェアNBP1を開発し、ICOT フリーソフトウェアとしたが、これを利用し平成8年度はより豊かな表現能力 を提供する述語論理版(領域限定の述語ホーン節)の重み付き仮説推論に対し て、準最適解計算の多項式時間推論システムの作成を行った。

ネットワーク化バブル伝播法(NBP法)の述語論理版(正確には関数なし領域限 定ホーン節を対象)は既に試作システムを開発し、論文等での発表を行なって いる [大澤 95b]。しかし、この試作版は述語引 数の項の部分をネットワークのノードとして巧妙な方法でネットワーク化バブ ル伝播法の適用を可能としたもので、手法的には興味深い点があるが、必ずし も理解しやすくはない。理解の容易さは、ユーザが安心して使用できる、予期 せぬ結果が生じた時の対応、今後の改良等の点で重要である。そこで、この試 作版の開発の後、仮説推論の使用する知識の範囲の段階的深化による拡大、 演繹データベースの効率的手法であるQSQR法 [西尾 88] の援用により、限られた範囲の述語論理知識を命題論理表現に変換し、 命題論理版ネットワーク化バブル伝播法(具体的にはNBP1)を反復して適用す る推論手法を考案した。理解の容易性、内部構造の点でこの推論手法の方が有 望であることから、この推論手法による多項式時間述語論理版仮説推論システ ムの開発を行った。

この方法は述語論理表現処理部を命題論理処理部と分離して構成できることか ら、局所探索による最適化手法等によりネットワーク化バブル伝播法とは別種 の命題論理処理部も、プラグイン的に結合可能という利点も有することになる。



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