本研究の中心的課題となるのは並列プログラムとその挙動をプログラマに対 して視覚的に提示する部分の基本設計である。並列処理に適合する帰納的記 号処理の意味論の研究はバックグラウンドの基盤研究として行なう。特に前 者に関しては以下の点に注目して設計を行う。
限られた面積のディスプレイ上に、大規模なプログラムの構造を詳細かつ一 度に表示することは不可能である。したがって、おおまかな構造を狭い面積 に表示する手法が重要となる。
ビジュアルプログラミング環境であろうと、古典的なテクストベースのプ ログラミング環境であろうと、プログラムが静的な図形やテクストにより 表現されることに変わりはない。一方、プログラムの実行は、本質的に動 的である。動的な挙動を静的な表現に押し込めざるを得ないところに、プ ログラミングの難しさがある。
近年、さまざまオブジェクト指向設計法が提案されており、それにともない プログラムの設計段階で描くべき図についても、ある程度標準的なものが定 まりつつある。たとえば、オブジェクト間の関連の図、データフロー図、オ ブジェクト内の状態遷移の図、イベントのトレース図などが提唱されている。 このようなプログラム設計段階の図表現に関する研究の成果を重視すべきで ある。
本研究では、これらの点を踏まえた上で、最近オブジェクト指向設計法など
の分野で注目を集めているデザインパターンの概念を取り入れる。通常のデ
ザインパターンは、単なるドキュメントの集まりに過ぎないが、本研究では、
プログラミング環境の GUI を用いて直接的に定義および操作できる対象と
してパターンを考え直す。 そのために必要な言語およびユーザインタフェー
スの設計と試作を行う。
一方バックグラウンドとして行なわれる帰納的記号処理の意味論の開発につ いては、確率論とホーンプログラムの最小モデル意味論の融合させた分布意 味論が基本となる。分布意味論とは確率論とホーンプログラムの最小モデル 意味論を融合させたものであり、最小モデルを成分が0または1の無限次元 の確率ベクトルの実現値としてとらえる。分布意味論を持つプログラムは統 計的データにより「訓練可能」である。「訓練」は大量の数値計算と大量の 記号処理が混在する従来にない計算過程であり並列処理による効率化が期待 される部分である。