増大した計算機パワーをより有効に使うターゲットとして並列帰納情報処理 が有望であると考えられる。これは生データを解析して背後の規則性をシン ボリックにルールとして抽出する過程を帰納的情報処理と名付け、それを並 列処理により高速に実行しようとするものである。
既に帰納的な記号処理のパラダイムとして HMMやボルツマンマシンによるパ ターン認識、ID3 のような機械学習、ILPによる帰納的プログラミング、GA/ GP によるシステム同定あるいはデータベースマイニングなど多くのものが 開発されている。しかしそれらは無関係に発展して来たものであり統合化や 並列インプリメンテーションへの関心も低いままに留まっている。本研究は 上に挙げた各分野を包括する共通の理論基盤を開発しつつ、並列記号処理 のためのプログラミング環境を整えることにより知能の帰納的側面を工学的 に実現することを目指している。
しかしながら共通の理論基盤の開発は未知の部分が多いため十分な理論展開 までにはかなりな時間が予想される。 一方並列処理に関しては ICOTで開発 された FGHC、KL1/KLIC などの処理系の存在を始め手がかりが整いつつあ る。従って本提案では提案の短期的性格を考慮し並列プログラミングの具体 化をターゲットとする。
振り返ってみると並列プログラミングの支援環境は着実に進歩しているが、 多くのプログラマにとって、未だ敷居の高い存在であることに変わりはな い。ハードウェア技術の進歩により、並列コンピュータは誰でも入手できる ようになったが、それに比べソフトウェア技術の進歩は遅々としている。プ ログラマなら誰でも並列プログラミングに取り組めるというレベルには達し ていない。現在および近未来の並列コンピュータシステムの普及状況を考え ると、スクリプト言語程度の手軽さで容易に並列プログラミングに取り組め る支援ツールの開発が切に望まれる。
従って本研究においては、バックグラウンドとして並列プログラミングを視野 にいれた新しい帰納的記号処理パラダイムの研究も行なうものの主たる狙いを 大部分のプログラマが並列プログラミングの初心者である点をふまえ、
より具体的には、KL1 をターゲットとしたビジュアルプログラミング環境を 構築する。 ただし、KL1 のプログラム --- すなわち、ガード付きホーン節 の集合 --- を、単に視覚的にプログラマに提示することが本研究の目的で はない。本研究では、近年発達したオブジェクト指向設計法やパターンなど の考え方、 ビジュアル言語や GUI の研究から得られた知見などを参考に、 並列プログラミングのあり方を根本に戻って考え直す。 並列論理型言語、 ビジュアルプログラミング, オブジェクト指向設計法の技術を有効に活用し たプログラミング環境に関する研究は今までにほとんど行われておらず、実 用性および新規性の両面から、大きな意義を持つものである。