研究上の成果
Helios、データベース、そして CSCW
京都大学(上林研)で研究開発中の VIEW システムは、単に空間的な分散環境 だけでなく、時間的にも分散した環境での複数の利用者間の協調をサポートす るためにデータベース機能を中心に置いている。そのデータモデルは分散ハイ パーメディアである。複数のメディアを同期させるものをマルチメディア、マ ルチメディア間をリンクで結んだものをハイパーメディアというが、それを分 散環境で考えるのが分散ハイパーメディアである。VIEWでは、これ (VIEW Media) を基にして遠隔教育 (VIEW Classroom)、遠隔会議(VIEW Conference)、 遠隔オフィス (VIEW Office) などの応用を研究開発している。単なる分散ハ イパーメディアと異なるのは、それをデータモデルとして捉えているため、デー タベースのビューに対応した個別化機能を強化してることである。分散と共有 化の間には、伝統的なデータベースと違って解決すなければならない問題が多 く存在している。
一方 Helios を分散環境におけるデータベースとして考え直そうという研究も 下記のように行ってきた。
異種分散としての個別化機能
本研究では、分散ハイパーメディアを、データベース分野に適用した Helios として考え、しかもビュー機能を拡張するために、主として複数の異種の データベースを協調させる枠組を考えている。たとえば遠隔教育における教 材データベースは教師と生徒間で共有されるが、それに対する「書き込み」や 「ノート」、「利用法」は個別的であった方がいい。さらにそれらは比較的少 数のグループによって共有化される可能性がある。これを Helios の環境に対 応させる。
このように個別化された「書き込み」や「ノート」はそれぞれが部分情報であ り、互いに矛盾している可能性を持っているので、それらに対する検索を Helios における協調的な検索として考えている。さらに問合せ機能としては、 勉強中の教材は生徒にとっては部分情報データベースとして考えられるので、 そのようなデータベースに対する思考実験環境 (仮説推論、仮説生成) をもっ ている の利用を考えているが、ここでは不十分な機能を他エージェントに要 求する機構を検討している。
CSCW 固有の問題のための Helios の要件
CSCW は人と人と協調作業を支援するので、その固有の問題として、
Helios での環境情報の管理は一種のデータベースとして実現できるので制御 を必要と状態を認識する必要がある。これは能動データベースにおける ECA (event-control-action) ルールとして実現することが考えられる。このデー タベースを で実現するためには、 自体への ECA アーキテクチャの導入とい う新しい機能の付加が必要である。これはさらに一般化し、作業の告知やワー クフローによる作業の監視などを考えることもできる。
環境が協調情報を管理することは新たな利用環境の提供を可能にする。すなわ ち、協調の履歴を保存することができるので、協調の再現や、履歴を抽象化す ることによる協調テンプレートの作成・再利用である。テンプレートの意味は、 これを個人の作業環境に適用することにより、個人の作業を生成することが可 能になるようにすることである。これもビューの一種の拡張であり、他と区別 するため動作ビューという。
このようなデータベースを基盤とした CSCW という応用を考えれば、上記で考 察したように Helios (あるいはその拡張) の応用としてふさわしいものが多 い。
CSCW システム開発からくる要件
さらに上記のような CSCW の応用では、稼働環境のみならず、開発環境も単一
の環境 (マシン、言語、データベース、) であることは考えにくく、Helios によるサポートを検討し
たが、システム自身が未完成というだけでなく、そのようなシステム定義機能
もまだ充分に検討されておらず、一般利用者向けのカプセル定義言語や環境定
義言語の見直しも必要となる。Helios が上記のような大規模な応用に対して
有効かどうか、その基本機能から全体構成、さらにその実装モデルまでも再検
討し、問題点と改善点を洗いだす。
ソフトウェアとしての成果
IFS として公開されている Helios は、異種言語で書かれ異種マシン上で動く ソフトウェア (データベースシステム、知識ベースシステム、制約解消系、応 用プログラムなど) を互いに協調させることによって、より大規模で複雑な問 題を解決することを目指している。本研究の VIEW for Helios は、ネットワー クでつながれた Sun Sparc や PC 上で動作する CSCW システムである。中核 システムは上記 Helios の改善版で、応用部分は京都大学(上林研)で研究開 発している VIEW システムのいくつかのサブシステムを予定している。
本研究は以下のような2年計画である。
次年度想定されるソフトウエア (VIEW for Helios) の成果は以下の通りである。
本研究で研究開発する VIEW for Helios は CSCW という応用を主体としてい るので、Helios を理解しなくても VIEW for Helios を CSCW の簡易システム として使用することができ、それを通して Helios のシステム構成、機能など を理解することができる。VIEW for Helios のソースコードはすべて公開する 予定なので、Helios 上に利用者独自のシステムを構築しようとする人にとっ て参考になるだろう。
また Helios を今後拡張し整備しようという人にとっては、CSCW という応用 の研究開発を通しての問題点と改善点をまとめるので、今後のさらなる Helios の研究開発の参考となるだろう。
残された課題
次年度は、今年度得られた分散ハイパーメディアと VIEW システムに関する知 見を基に、早急に Helios の改善案をまとめ、本格的にソフトウエアの設計と 開発に入る予定である。
上記2つの成果についての自己評価
今年度の本研究の成果については反省すべき点が多々ある。まず京都大学(上 林研)で研究開発中の VIEW システムは巨大なもので、それを理解し、Helios との接点を見つけるのに予想以上の時間を要した。さらに共同研究者への Helios の教育、利用者の早急なニーズの分析、研究チームの整備等も、本研 究の立ち上がりが遅かったことと併せ遅れの大きな要因となった。