Up: 「演繹オブジェクト指
向データベース言語 Quixte の実用化のための拡張機能の研究」に関
する成果概要 Previous: 研究の内容
本研究計画は以下のスケジュールで2年計画として実施している。
- 平成7年度Quixoteの新しい言語仕様の作成および応用で
の記述実験
- 平成8年度Quixoteの新しい処理系の試作および応用での
実験
したがって本年度は、研究の内容
で述べた内容の内、(a) と (c) を中心に行なった。
(1)研究上の成果
Quixoteは遺伝子情報処理、法的推論、自然言語処理など FGCS の種々
の応用の要件を考慮して設計された。実装中にいくつかの妥協はあったものの
(big-)Quixoteは当初想定していた主要機能のほとんどは実装している。
しかし IFS としてのQuixoteの普及は多くない。その原因の分析と実
験を兼ねて、新たに遠隔教育システムと概念スキーマの検索との2つの応用の
記述を行ない、問題点を抽出・分析して、それらを新しい付加機能の使用とし
てまとめた。
(1-1)応用での記述実験
Quixoteの記述実験の新しい応用として遠隔教育システムをと概念スキー
マの検索機能を取り上げた。前者については
- 踊堂憲道, ``演繹オブジェクト指向データベースのための質問・回答作
成支援機能'', 京都大学工学部情報工学科・特別研究報告書, 1996年2月15日。
に関連の記述がある。後者は
- M.P.Papazoglou ``Unraveling the Semantics of Conceptual
Schemas", Communications of ACM, September, 1995.
の例をすべて記述することを目指した。
(1-2)遠隔教育システムでの記述例
単なるビデオを介した遠隔教育ではなく、時間的・空間的な分散環境での遠隔
教育システムの実現のために、データベースシステムを基にしたシステムを研
究している。今回の記述実験では、
の2つの機能をサポートするためにQuixoteでデータベースを作成した。
生徒の質問作成機能とは、教科書データベースの内容に熟知していない生徒に
対し、必要な回答が探し出せるように、シソーラスを使い代替質問を生成する
機能である。教師の回答作成支援機能は、複数の生徒から出された質問中から
同じあるいは類似の質問をまとめることを支援する機能である。
本システムのデータベースは以下の5種類から構成されている。
- 教科書データベース (生徒と教師が共有)
- 共通シソーラスデータベース (生徒と教師が共有)
- 質問データベース (生徒と教師が共有)
- 個人検索ルールデータベース (各生徒が使用)
- 質問検索ルールデータベース (教師が使用)
生徒と教師は教科書DBと共通シソーラスを共有する。個人検索ルールは教科
書DBに対する生徒のビューである。生徒が的確な回答を教科書DBから得ら
れなかった場合には、質問は質問DBに格納され、教師はあるタイミングで質
問DB中の質問にまとめて答えようとする。これをサポートするのが教師用の
質問検索ルールである。生徒は質問DBから回答を得ることができる。
このシステムでの一番のポイントは、質問そのものを操作の対象にするという
メタ機能、および質問変換を行なったり回答に付加情報を付加する際の制御機
能である。法的推論システムではユーザプログラムでルールの抽象化や特殊化
を行なったが、そのためにはQuixoteの内部構造にまで立ち入らなけれ
ばならないため、 で一定の機能をサポートすべきであろう。本システムの詳
細と記述例は別の報告書で詳述する。
(1-3)概念スキーマの意味的問合わせ
これは、クイーンズランド工科大学の Mike Papazoglu 教授との共同研究の一
環として行なっているもので、意味ネットワークで表現されている概念スキー
マに対する柔軟な質問機能を論ずるものである。これをQuixoteで記述
実験した。たとえば取り上げた質問としては以下のものがある (ここでイタリッ
ク文字は属性名あるいは概念である)。
- What is Student-tutor?
- What is known about Department?
- What is the association between Head and Lecture-room?
- In which Lecture-room do all Courses run by
Department headed by Head-X take place?
- In which Lecture-room does Head-X teach?
- Any others like Dean?
- What is the difference between Head and Lecturer?
- What is the role of e2 with respect to Employee?
- Does e2 have any role with respect to Employee?
- How are the roles of cluster-X related to those of
cluster-X?
- What is the association among Lecturer-cluster and
University-cluster?
ある種の意味ネット上の巡航機能が必要とされる。これは法的推論システム
TRIAL での包摂関係の束の巡航をさらに一般化したものと考えることができる。
Quixoteでの記述の有効性は Papazoglou 教授と多くの質問で確認して
いるが、どこまでをQuixoteでサポートすべきか、共同研究は現在まだ
進行中である。とくに、基本的な問合せのパタンの抽出、巡航の制御、探索の
爆発などの問題を議論している。上記の詳細な記述例は別の報告書に詳述する。
(1-4) Quixoteの対応する機能
これらの応用での必要な機能として現在考えているものに以下のものが考えら
れる。
- 属性項とオブジェクト項間の変換
属性項の形の質問をオブジェクト項に変換することによって質問DBへの格納
と利用、検索を容易に行う。
- 組込みコマンドの一般化
あるオブジェクトに対して指定されているすべての属性名を知るために、現在
は組込みコマンドを用意しているが、この結果を人手/他のプログラムを介さ
ずQuixoteの質問に渡すことができない。包摂関係の束を辿るなどの他
の組込みコマンドも同様に、Quixoteの質問として閉包性を持たせる必
要がある。
- 集合の扱いの一般化
集合間の順序の一般化 (inclusion, Smyth, Egli-Milner 順序のサポート)、
集合操作 (積、和、差)、集合のグルーピング操作の独立化 (属性名/候補オブ
ジェクトの収集など)、の2つのサポート。
- Quixoteオブジェクト間の関係の推論機能
プログラム/DBはオブジェクト間の関係を記述したものとみなすことができ
る。これら関係を巡航し、関係を推論する機能が必要となる。
本研究では目標として、意味の定義化と情報の局所化の2つを大きく掲げてい
るが、これらを一般化するにはさらに多くの検討を要する。また、ラベルの変
数化、オブジェクト項の複合オブジェクト化、などについての要求があるが、
これらは処理効率の面から検討が必要である。さらに複数のQuixoteデー
タベースを用いることにより、ビューの一般化やマルチデータベースの拡張が
考えられるが、これは 2.11節の異種分散協調問題解決系 Helios
の研究課題とする。情報の局所化もこの中で研究を行う。
(2)ソフトウェアとしての成果
本研究は 研究の成果 ((1-4)) で述べた機能を持った処理系 QUIK
(Quixote in Kyoto) を開発する予定であるが、本研究は2年計画であ
り本年度はソフトウェアとしての成果はない。
次年度の想定されるソフトウェア成果は以下の通りである。
- 移植性の高さ
当初の計画では C または C++ での実装を予定していたが、多くのプログラム
のユーザインタフェースとして一般的になってきた WWW ブラウザを使用する
ことを考え、Java (可能ならば Telescript との組合せ) での実装を計画して
いる。C または C++ と違い、高水準言語であるため、ソースをユーザに公開
することによって、ユーザ自らが修正することを容易にする。
- Quixoteの特徴の継承性
以下のようなQuixoteの機能を継承する。
- 複合項によるオブジェクト識別子 (オブジェクト項)
- (集合を含む) 包摂制約としてのオブジェクトのプロパティの表現 (属性項)
- Quixoteと、その正規化のための制約解消系
- モジュールによる包摂制約の局所化機能
- 包摂制約による制約論理プログラミング言語としての機能
- と同じ、オブジェクト識別子の意味論
- 問合せにおける仮説推論と仮説生成機能
- 付加機能
研究の成果 ((1-4)) の機能を付加する。
(big-)Quixoteに比べると、言語機能としての機能の定義能力によって
応用への柔軟な適応能力をもつとともに、高い移植性をもっている。
micro-Quixoteに比べると、オブジェクト識別子の意味論を始めとして
演繹オブジェクト指向データベースの特長を保持しているため、値と識別性に
基づく2種類の表現の組合せによって高い表現能力をもっている。
残された課題
次年度は、今年度に記述実験を行うことによって得られた機能の要件を踏まえ
て、また記述実験の試行錯誤の結果を整理することによって、それらを新しい
(QUIK) の言語仕様としてまとめ、本格的な処理系の開発に入る予定である。
上記2つの成果についての自己評価
今年度の本研究の成果については反省すべき点がいくつかある。研究室内の環
境との兼ね合いでチームの立ち上げが遅かったこと、外部の共同研究者の研究
内容と環境整備の準備、マシン環境の整備、等に予想以上の時間が掛かり、当
初の予定より遅れたことである。
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