本資料は、イントロダクション、マーケット・クリエーション・プロ セス、マーケット・クリエーション・プロセスにおける米国政府の役割、ケース・ス タディ、日本のシステムへの提言、結論で構成されている。
この中から、米国の産業を活性化している小規模のベンチャー企業への政府支援と インテル社の超並列マシンの商品化について、政府支援の例について紹介する。
先端技術の商品化を目指す小規模のベンチャー企業に対する米国政府の直接的 支援として、SBIR (Small Business Innovation Research)プログラムが挙げられる。 これは、産業に振り向けられる政府の研究開発予算の一定の割合(95年時点で2.5%)を ベンチャー企業に振り向けるプログラムである。 支援額は年々増加を続け、95年には $864million (約1,000億円)に達した。
SBIRプログラムの採択率が20%程度であり、民間のベンチャーキャピタルの の支援を得られない中小企業の先端技術の商品化を支援している。 この支援は、3段階からなり、最終段階においては、 民間セクタによる支援、またはSBIR以外の政府支援をとりつけることが要求される。
また、間接的支援として、キャピタルゲイン減税が挙げられる。78年に49.5%であった 税率が81年までに20%まで引き下げられた結果、大手ベンチャーキャピタルで 78年には $0.2billion (約240億円) であった投資が、86年には $4.2billion (約5,000億円)まで達した。これらが、ベンチャーの活性化につながったことは、 言うまでもない。
民間のベンチャーキャピタルの採択率は通常、数%程度といわれている。 創業時にベンチャーキャピタルの支援を受けたもののうち、独立企業として 発展を遂げるものは3%程度といわれ、 残りの7%は、やがて大企業に買収される。残りは失敗ということになる。 大企業も、常に新規事業を起こし、新陳代謝を行おうとしており、 この7%は、一種の新規研究開発のアウトソーシングと考えられる。
そのほかの先端技術の商品化への政府支援としては調達がある。 インテル社の超並列マシンParagonの商品化は、DARPAが支援するタッチストーン・ プログラムの成果である。政府支援プロジェクトの成果として開発された マシンは、国立研究所などに設置され評価用に用いられるが、このほかに、 先端ソフトウェア研究開発などのインフラとして調達が行われる。 通常、調達に際しては、マシンの再設計がなされ、商品に近い形に改良・拡張が 行われる。
このようにして開発されたインテルParagonの商品化は、超並列マシンの市場を 拡大した。タッチストーン・プログラムで成功したインテル社は、 DOEが支援する現行のASCI (Accelerated Strategic Computing Initiative) プログラムで、超並列テラフロップスマシンを開発している。このプログラムにも 大学や国立研究所が参加し、インテル社を含む企業と連携して成果を出しつ つある。
米国においては、国民の税金による研究開発は、その成果を商品として市場に 出して初めて納税者への利益還元になるとのコンセンサスがあるため、 このような商品化への政府支援が可能となっている。 こういった政府支援の存在は、メーカが自前で 研究開発成果の商品化を行うことが習慣となっている わが国とは大きな相違である。