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第4章 あとがき

第4章 あとがき

 本報告書は、AITECにおけるHECCワーキンググループとして最後の報告書となる。HECCワーキンググループは1999年(平成11年)から活動をはじめ、本年度で4年目となるが、その前身である「ペタフロップスマシン技術調査ワーキンググループ」が、1996年(平成8年)から既に3年間の調査を行っており、合計すると7年に渡り、ハイエンドコンピュータやその周辺技術について技術調査や議論を行ってきたことになる。そもそも、「ペタフロップスマシン技術調査ワーキンググループ(以下ペタフロップスWGと略)」を始めるきっかけは、米国におけるHPCC計画によるハイエンドコンピュータや高速通信網計画、およびそれに続いて1996年から開始されたASCI(戦略的コンピューティング加速構想)などによって、米国におけるハイエンドコンピュータの開発が戦略的に行われ始めたという事情がある。このような状況の中、米国ではペタフロップスという、テラ(tera)の1000倍の性能を有する計算機システムの研究開発に対する検討も行われはじめていた。すなわち1991年にPurdue大学で開催されたHPCCのグランドチャレンジにおいて、初めてペタフロップスコンピュータについて議論が行われ、その後、関連のワークショップが毎年開催されるようになった。特に、1994年2月にカリフォルニア州パサディナ(Pasadena)で開かれたワークショップ「The Workshop on Enabling Technologies for Peta(FL)OPS Computing」で、ペタフロップス級の超高性能計算機を開発するための技術的な検討が行われ、ペタフロップスレベルのシステム、アプリケーション開発を進展させる議論が行われた。このような背景の下、AITEC内に、本WGの前身である、ペタフロップスWGが設置されたわけである。

 ここで、本ワーキンググループの7年間の調査検討の軌跡を、少し振り返ってみたいと思う。最初の年のペタフロップスWGにおいては、当初のもくろみはいかにしてペタフロップスマシンを開発するか、あるいはそのようなプロジェクトを立ち上げる必要があるかというものであったが、我々の議論は少し違う方向に向かってしまった。すなわち、議論の中心は、日米の技術格差が特に基幹ソフトウェアや産業基盤ソフトウェアにおいて顕著であるという認識が得られ、その打開のために何をなすべきかという点が強調されたことである。この認識は、現時点では、昨年発表された「地球シミュレータ」の開発能力などを見ると、ハードウェア開発などにおいては、米国に引けをとらないということが証明されたが、ITにおける他の分野や総合力をみると、やはり遅れをとっている感は否めない。この点に関して、1997年(平成9年)の報告書のあとがきに書いた次の指摘は、現状でもやはり当てはまるのではないだろうか。「日本の技術開発で欠けているものが自ずと明らかになってくる。それは、共通した仕様や共通のインタフェースの抽出とそれをいかに効率よくインプリメントするかといった戦略である。これは、いわば構成力(一般的には構想力と呼ばれるかも知れない)の差であると言い換えられる。したがって、これから我が国における情報処理技術を活性化し、米国に対抗するためには、情報処理技術における構成力を高める必要があるのではないだろうか。」

 ペタフロップスWGの3年目(1998年)の調査においては、調査の対象をペタフロップスに限定することなく、近未来の情報処理産業を見据えて、どのような技術開発を行うべきかについてヒアリングや議論を行った。これが、1999年から始まるHECC-WGのさきがけとなるものであった。そして、1999年から4年間、HECC-WGとして、高性能コンピューティングに関連する情報処理技術のあるべき姿や方向性に関して、調査や検討を行ってきた。

 HECCにおける4年間の調査などを振り返ってみると、ハイエンドコンピューティングからグリッド(グローバルコンピューティング)、そしてP2PやWebサービスなどへと調査の対象が拡大してきたわけであるが、それは計算機システムとネットワークとの関係がより密接になり、離れがたいものになってきていることの証明でもあった。この傾向はますます強いものとなり、これからの情報処理技術の流れの中で、ますますネットワークを介した情報の通信とプロセッサによる情報の処理が一体化されたシステムが構成される方向に向かうであろう。その1つの表れとして、たとえばユビキタスコンピューティングという考え方が広く言われるようになってきていることが挙げられる。このようなユビキタスコンピューティングが情報システムの主流になるとすると、昨年の報告書のあとがきでも指摘したように、「脱PC」という状況が出現すると考えられる。そのような状況においては、PC時代をWinTelという2大企業が制覇したような状況にはなっていかないと思われる。これは、我が国にとっては挽回のチャンスであり、その時に備えて、半導体技術や組み込みシステムさらにはネットワーク技術やソフトウェア、そして最も重要なアプリケーションにいたるまで、技術のポテンシャルを高めておく必要があると考えられる。

 最後に、7年間の長きにわたり、本ワーキンググループの活動について様々な局面から支えていただいた内田所長をはじめとするAITECの関係者の皆様に感謝の言葉を述べ、本ワーキンググループとしての報告書のあとがきを結ぶこととする。

(山口 喜教 主査)

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