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第3章 ハイエンドコンピューティング研究開発の動向

3. Webサービスと、他の技術との比較
 
Webサービスの特徴を述べるために、他の類似技術との比較を述べる。

l Webサイト
Webサイトは、主に人に対してサービスを提供し、ブラウザを通して人と対話することを特徴とする。一方、Webサービスは、主にシステムとシステムを結ぶための技術であり、人が介在しない通信を行う。

l オブジェクト指向
オブジェクト指向は、ソフトウェアの設計と開発において、オブジェクトというコンポーネント単位を用いて抽象化する技術である。Webサービスにおけるサービス指向とは、オブジェクトより上位のサービスという大きな枠組でビジネスを抽象化するものである。

4. Webサービスの技術動向
 
Webサービスはインターネットを利用した簡単で疎結合のシステム連携技術として開発が始まったものの、実際にビジネスに利用するためには、セキュリティやトランザクション、高信頼なメッセージ交換など、様々な周辺技術が必要になってきている。また、相互接続性の確保も重要であり、様々な相互接続実験が実施されている。この節では、このようなWebサービスを取り巻く技術動向について、その代表的なもののいくつかを取り上げて簡単な説明を加える。詳細な説明は、標準化団体のページを参照されたい。

4.1 WS-Security[8]
 
Webサービスのセキュリティを確保するためにOASISで標準化が進められている技術で、特に秘匿性(メッセージの盗聴防止)と完全性(メッセージの改ざん防止)のための情報を付与する文書形式について定めている。具体的には、基盤技術としてXML署名やXML暗号を用いて、これらに関する情報をSOAP Headerの中のSecurity要素に埋め込む形式を用いている。

4.2 SAML (Security Assertion Markup Language)[9]
 
SAMLは、認証/認定情報を交換するための仕様を定めており、V1.0の仕様がOASIS の標準として承認された。この技術を用いることにより、一度だけの認証で複数の企業が提供するサービスを利用できるようにするSingle Sign Onの環境が実現できるようになる。

4.3 Liberty Alliance[10]
 
ネットワーク上に分散管理された個人情報を、ネットワークアイデンティティを中心に連携させる仕様作りを行っている。特に、利用者のID管理を集中化させないで、各サービスサイトが別々のID管理を行いながらも、互いに情報交換して、サービス連携をスムーズに行う技術に着目している。SAMLをベースにして、その上に、プライバシー情報管理、サービス連携に関する仕様をまとめている。2003年1月現在、V1.1の仕様が公開されている。

4.4 WS-Transaction[11], BTP (Business Transaction Protocol)[12]
 
複数のWebサービスを一つのトランザクションとしてまとめる技術が注目を集めている。これは、通常のデータベースのトランザクションと違って、長期間に渡るトランザクションとなることが特徴である。このため、リソースをロックするような技術ではなく、一旦はデータをコミットした後で、問題があれば後でキャンセルできる Conpensation と呼ばれる仕掛けが用いられる。OASISでは、BTPと呼ばれる標準化を進めてきたが、最近、新たにIBMとMicrosoft社から、WS-Transactionという新しい技術提案があり、トランザクションの標準化動向は混沌としている。

4.5 WS-I (Web Services Interoperability Organization)[13]
 
Webサービスの相互運用性を確保するために設立された団体。SOAP, WSDL, UDDI, XML Schemaを中心に、それぞれの仕様の間で矛盾なく運用できるための詳細な規程をまとめたBasic Profileと、それに基づくテストツールとサンプルアプリケーションの開発を進めている。2003年1月現在、Basic Profile 1.0の仕様が公開されている。

4.6 ebXML[14]
 
ebXMLはWebサービスを補完する技術として参照されることが多い。SOAPをベースにした企業間取引のためのXML通信技術の体系を策定している。元々は、UN/CEFACTとOASISが共同で、ebXMLイニシアチブの活動を行い、2001年5月にV1.0の仕様を公開した。その後は、UN/CEFACTとOASISは別々に、ebXMLの個別仕様の策定作業を進めている。2003年1月現在では、部分的にV2.0 の仕様が公開されている。

 ebXMLは、以下に示すように、メッセージの規定からビジネスオブジェクトの規定まで、幅広い領域に対して標準を定めている。

 ebXML技術も相互接続性が重要なことから、様々な相互接続実験の活動が行われている。日本では、電子商取引推進協議会(ECOM)が中心に、相互接続実験を実施し、NEC、富士通、日立、NTT、インフォテリアの5社による基本メッセー陣の相互接続実験の成功が報告されている。

5. まとめ
 
以上、Webサービスの基本技術の紹介と、最近の技術動向について述べた。Webサービスは、インターネット環境における疎結合なサービス統合アーキテクチャを提供することから、特にビジネス領域で注目を集めており、各社が開発ツールの提供を開始している。Webサービスの基本となる技術には、SOAP、WSDL、UDDIなどがあり、それを紹介したが、これらはWebサービスの必須技術ではないことも注釈した。また、ビジネスに利用するためのWebサービスの強化が進められており、セキュリティ、トランザクション、高信頼メッセージなどにおいて、標準化が進められつつある。WS-Iのような、様々な相互接続実験の活動も並行して進められている。
 多くのWebサービスの技術は、標準化途上であり、今後も仕様の改版が進められていくであろう。まだ未成熟な部分も多いが、インターネットを通じてシステムとシステムが連携するという非常に魅力的な技術である。今後とも、その動向には目を離せないものがある。

参考文献

[1] Web Services Description Language (WSDL) 1.1, http://www.w3.org/TR/wsdl

[2] Simple Object Access Protocol (SOAP) 1.1, http://www.w3.org/TR/SOAP/

[3] UDDI Version 3.0, http://uddi.org/pubs/uddi-v3.00-published-20020719.pdf

[4] Specification: Web Services Inspection Language (WS-Inspection) 1.0,
http://www-106.ibm.com/developerworks/webservices/library/ws-wsilspec.html

[5] Web Services Architecture Working Group, http://www.w3.org/2002/ws/arch/

[6] XML Schema, http://www.w3.org/XML/Schema

[7] SOAP Messages with Attachments: http://www.w3.org/TR/SOAP-attachments

[8] WS-Security, http://www.oasis-open.org/committees/wss/

[9] SAML 1.0 Specification Set, http://www.oasis-open.org/committees/security/

[10] Liberty Alliance, http://www.projectliberty.org/

[11] Web Services Transaction (WS-Transaction),
http://www-106.ibm.com/developerworks/library/ws-transpec/

[12] Business Transaction Protocol (BTP),
http://www.oasis-open.org/committees/business-transactions/

[13] Web Services Interoperability Organization (WS-I), http://www.ws-i.org/

[14] ebXML, http://www.ebxml.org/

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