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第2章 米国のハイエンドコンピューティング研究開発動向

2.2.3 ハイエンドコンピューティング研究開発の内容

 以下に、NITRD計画における主要なハイエンドコンピューティングおよび高速ネットワーキング関係の研究開発の内容を、FY2003 Blue Bookにもとづいて記載する。これらの内容はNITRD計画の7つの領域(Program Component Area:PCA)のうち、HEC I&A、HEC R&DおよびLSNに相当している。

(1)ハイエンドコンピューティング
−複雑さのフロンティアを探求する新技術−

主要な研究課題

2003年度における各機関の代表的活動

政府機関

活動の内容

NSF

テラスケール基盤;異機種分散型ハイエンドシステムのためのシステム・ソフトウェア、ミドルウェア、ソフトウェア環境、ライブラリ、可視化、データ管理、及びアルゴリズム;グリッド資源管理;量子及びバイオコンピュータの概念

DARPA

多様なアーキテクチャ;ハイエンドかつ生産的で、堅牢なインテリジェントコンピューティング・システム;プロセッサ-イン-メモリアレイを含むチップ内及びチップ間通信のための光学材料の超高密度集積技術

DARPA/NSF

テラスケール・コンピューティングとストレージに用いる生物分子構造

NASA

ハイエンドソフトウェア及びシステムのチューニングと管理技術;インフォメーション・パワー・グリッドの技術とツール;情報物理学(センシング、処理及び記憶システムの特性);量子及びナノスケール技術

NIH

ハイエンド生物医学コンピューティング;立体分子構造を決定するためのツール;測定データのイメージを表示及び分析するための方法

DOE/SC

テラスケールのモデル化とシミュレーション・アプリケーションのためのスケーラブルな数学的アルゴリズムとソフトウェア基盤(オペレーティングシステム、コンポーネント技術、最適な数学的ソルバ);テラスケール科学のためのパートナーシップ

DOE/NNSA

米国の核貯蔵量管理のためのスーパーコンピュータ用モデル化とシミュレーションを可能にする高速計算、テラバイトデータ記憶と検索、及び可視化における科学及び工学上の革新

NSA

ハイエンドシステム製造企業との共同研究;オペレーティングシステムとプログラミング言語の改良;特殊目的のデバイスのための基盤技術(電力制御、冷却、相互接続、スイッチ、および設計ツール);コンピュータメモリ性能;量子情報システムの基礎物理

NOAA

強化されたモジュラー・オーシャン・モデル(MOM)、フレキシブル・モデリング・システム(FMS)、スケーラブル・モデリング・システム(SMS)による改良された気候及び気象モデル

NIST

量子コンピューティング、安全な量子通信、最適化と計算幾何学、フォトニクス、ナノテクノロジー、オプトエレクトロニクス、及び新しいチップの設計と製造方法に関する研究

ODDR&E

量子通信とメモリに関する大学を中心とした研究

EPA

空気、水、及び土壌の相互作用のような複雑な環境現象をモデル化するためのパラダイム、技法及びツール

(2)ハイエンドコンピューティング能力
  −発見のためのテラスケール・インフラストラクチャー−

1)NSFの分散型テラスケール施設(Distributed Terascale Facility:DTF)
 NSFから$53Mの資金提供を受けて4ヶ所の研究所(NCSA、SDSC、ANL、Caltech)にあるLinuxクラスタを40ギガビットの高速ネットワークで接続してグリッド環境(TeraGrid)を構築する。2003年から運用を開始する予定。
(注:Blue Bookには書かれていないが、2002年10月に$35Mの追加資金援助と、上記の4サイトに加えてPittsburgh Supercomputing Center(PSC)の参加が決定された。これで合計5サイトとなり、ピーク性能の合計は20TFlops、ストレージ容量の合計は1ペタバイト近くになるという。)

2)DOEの先進的コンピューティングによる科学的発見(SciDAC)
 
2001年度から始まったScientific Discovery through Advanced Computing (SciDAC)プログラムは、DOEのミッションに関連する科学分野(気象、核エネルギー、化学等)の基礎研究を、テラスケール・コンピュータを利用して推進するための、ソフトウェアおよびハードウェア基盤を開発することを目的としている。DOEによる$57Mの資金提供により、合計51のプロジェクト(3〜5年計画)がDOEの13ヶ所の研究所と50以上の大学で進行中である。

3)革新的なアーキテクチャにおける長期的研究
 現在のハイエンド・プラットフォームは性能のスケーラビリティ、製造コスト、運用コスト等において限界に達しようとしている。DARPAの高生産性コンピューティング・システム(High Productivity Computing Systems:HPCS)プログラムは、民間企業や大学と協力して2010年までに性能、コスト、ソフトウェアの生産性/移植性、堅牢性、信頼性等を飛躍的に向上させる新しいアーキテクチャやコンポーネント技術を開発することを目標としたものである(2.3.4節(1)参照)。

(3)大規模ネットワーキング
  −未来のインターネット:ダイナミックな柔軟性、広帯域幅、及びセキュリティ−

主要な研究課題

2003年度における各機関の代表的活動

政府機関

活動の内容

NSF

ネットワーク化されたアプリケーションの性能を最適化するミドルウェアを中心とした研究;大学間における高性能な接続;ネットワーク・モニタリング、問題検出と解決、アクティブ/インテリジェントネットワークを支援する先進的自動化ツール、協調的アプリケーション、及び革新的アクセス方法のような戦略的インターネット技術

NIH

スケーラブルでネットワークを意識したワイヤレスの地理情報システム(GIS)、及びネットワーク化された医療関連環境におけるセキュリティ技術のアプリケーションの実証実験

DARPA

何百ものノードから成るネットワーク上における、ミリ秒単位から時間単位までのレンジにわたる振る舞いを予測できる、拡張性のあるネットワークのモデリング及びシミュレーションツール;ハイブリッドの光/RF自己回復型ネットワークの実証実験

NASA

先進のコンピューティング、ネットワーキング及び協調技術を開発、実証するための、高速テストベッドネットワークの導入;グリッド環境のためのネットワークサービスの統合(QoS、受動的モニタリング、リソース確保);ハイブリッドな衛星/モバイル、無線/アドホック・ネットワークアプリケーションと「未来のオフィス」の労働環境の実証

DOE/SC

分散型ハイエンド科学アプリケーションに対して、テラバイト/秒のスループットでTCPによる信頼性の高い転送を可能にする高性能転送プロトコルの研究;大規模な科学的共同研究のためのエンド・ツー・エンド性能モニタリング、ネットワーク診断、及び拡張性のあるサイバー・セキュリティ・サービスの開発

NSA

バーストスイッチ技術、供給(Provisioning)、メッセージ受け渡し、低出力無線ネット、高速システムのファイヤーウオール、セキュリティと相互運用性の問題などを含む、先進的ネットワークトポロジーとプロトコル、ネットワークコンバージェンス、全光ネットワーク、及びネットワーク管理に関する研究

NIST

産業用プロトコルのモデル、新しい仕様の検証、適応制御メカニズムを含む、パーベイシブ・コンピューティング・デバイスのネットワーク通信のための標準規格;アドホック無線ネットワークの基準とプロトコル;応答性に優れたスイッチング・インフラストラクチャーの開発手法;インターネット・インフラストラクチャー・セキュリティのためのプロトコルと標準規格

NOAA

過酷な気象現象の予測と警報及び危険物への対応を支援する、拡張性のあるネットワーク能力とアプリケーションの早期導入

ODDR&E

リアルタイム耐故障ネットワーク・プロトコルに関する大学を拠点とした研究

1)グリッドのためのネットワーク向けミドルウェア”MAGIC”
 ネットワーク環境でのアプリケーションの効率的実行には、ミドルウェアが重要な役割を果たす。最近注目を集めるグリッド(Grid)技術においては、NITRD計画の下で開発されたGlobusと呼ばれるミドルウェアパッケージが標準的に利用されるなど、政府支援によるミドルウェアの研究が継続して行われている。

@NSFミドルウェアイニシアチブ(NMI)
 NMIはNSFからの資金提供により2001年9月から開始されたイニシアチブであり、ネットワーク環境での再使用可能で拡張性に富んだミドルウェアを開発、配備、およびサポートすることを目的としている。

AMAGIC(Middleware And Grid Infrastructure Coordination)
 MAGICは、NITRD組織の中の大規模ネットワーキング調整部会の内部に新たに設けられたチームである。本チームは、従来からあるJETおよびNRTを主としてグリッドという観点から結びつけるもので、以下の役割を担っている。

(4)先進のネットワーキング・アプリケーション
  −人材とIT資源を結びつけ米国の科学面でのリーダーシップを目指す−

2003年度における各機関の代表的活動

政府機関

活動の内容

NSF

地震工学シミュレーションのためのネットワーク

(Network for Earthquake Engineering Simulation:NEES)

国立バーチャル天文台(National Virtual Observatory:NVO)

グリッド物理学ネットワーク(Grid Physics Network:GriPhyN)

DARPA

ネットワークを基本とした総合監視装置

(Network-Based Total Surveillance System:NBTS)

NASA

航空安全シミュレーション

DOE

研究者を科学とコンピューティング機能に接続

NIST

製造のためのソフトウェア相互運用性テストベッド

国際iGridデモンストレーション

 

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