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第2章 米国のハイエンドコンピューティング研究開発動向

第2章 米国のハイエンドコンピューティング研究開発動向

2.1概況

 2002年は、世界経済において、当初期待されていた景気の回復は見られなかった。米国では2001年末のエンロン社に続き、6月には業界第2位の長距離通信企業であったワールドコム社における巨額の粉飾決算が発覚し、経営破綻に陥るなど、経営危機に見舞われる企業が相次いだ。NASDAQ指数は2002年1月に一時2,000ポイント台まで回復したが、その後下降を続け、2003年2月時点では1,300ポイント付近を低迷している。また、2001年9月11日の同時多発テロ発生以降の不穏な中東アジア情勢や、米国によるイラク攻撃の可能性の増大(2003年2月末現在)など、不安定な国際政治の動向が世界経済へ与える影響も懸念されている。こういった状況から、2003年以降の景気回復の見通しは、依然として不透明なものとなっている。

 このように、現在の経済の低迷は世界規模となっているためきわめて深刻なものであり、特に米国において、近年の経済成長を牽引してきたIT産業の不振がその大きな要因であることは、疑いようのない事実であろう。しかし、この逆風下にあっても、米国政府のIT研究開発投資への意欲はいささかも衰えを見せていないようである。政府のIT研究開発の最重点課題が、「テロの脅威に対抗するための研究開発」に移ったとしても、その根底にあるのは、国を挙げて情報技術分野(およびその波及分野)で世界をリードするという従来からの強固な意志であることに変わりはない。

 以下、本章ではハイエンドコンピューティングの米国における最新動向を中心に概観する。主な情報源としては2002年11月に開催されたSC2002コンファレンス、通称Blue Bookと呼ばれている「IT研究開発(NITRD)に関する大統領予算教書補足資料」の2003年度版 (FY[Fiscal Year]2003 Blue Book)、および米国政府関係機関サイトなどのWeb上で公開されている情報を元にしている。

 FY2003 Blue Bookに関しては、過去の分も含めて下記サイトに全文が掲載されている。

英語原本:http://www.itrd.gov/pubs/bb.html

日本語訳:http://www.icot.or.jp/FTS/Ronbun/Ronbun-J.html

米国のハイエンドコンピューティング開発の背景、経緯は過去6期に渡る当研究所の報告書(ペタフロップスマシン技術に関する調査研究、同U、同V、およびハイエンドコンピューティング技術に関する調査研究T、同U、同V)にまとめられているので、これらを参照いただきたい。上記の報告書はいずれも当研究所のホームページ( http://www.icot.or.jp/ )から参照が可能である。

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