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第1章 まえがき

第1章 まえがき

1.1 調査の活動方針

 本報告書は、先端情報技術研究所(AITEC)内に設置された「ハイエンドコンピューティング技術調査(HECC)ワーキンググループ」での調査や議論に基づき、各委員の報告を中心にまとめたものである。このワーキンググループは、平成8年に設定された「ペタフロップスマシン技術調査ワーキンググループ」を3年間続けた後に、先端的なコンピュータ技術の調査をより広範囲な視点で行うことを目的として設置されたものである。その委員は大学、メーカ等で活躍中の研究者でアーキテクチャ、ソフトウェア、アプリケーションの各分野において実際に研究や開発に携わっている方々から構成されている。このワーキンググループでは、ハイエンドアーキテクチャ、ハイエンドハードウエアコンポーネンツ、アルゴリズム研究を含む基礎研究、ソフトウェアおよびハイエンドアプリケーションなどを対象として、調査や議論を行ってきた。

本年度は、HECCワーキンググループとしては4年目の調査であり、本報告書が当ワーキンググループととしての最後の報告書である。

今年度も、昨年度の調査と同様に、HECC領域の開発動向を重要な中心課題と認識しつつも、これのみにとらわれず対象を拡大し、コンテンツやユーザインタフェースの実現基盤としてのプラットフォーム技術全般を視野に入れて、調査・検討を行った。調査は、各委員の専門およびその周辺分野において、今後、研究的に急速に発展したり、あるいは市場にインパクトを与えそうな分野やテーマの抽出と、それらの技術に関する、先端研究の調査・評価を行うことを主眼に、今後重要になると思われる領域にはどのようなものがあるかを抽出するという点に力点が置かれている。

また、昨年と同様に、一般的にBlue Bookと呼ばれている「IT研究開発(NITRD)に関する大統領予算教書補足資料」の2003年度版 を中心に、米国におけるハイエンドコンピューティング研究開発動向について調査をおこなった。これについては、本報告書の第2章にまとめられている。

HECCでの4年間の報告書は、各委員の主体的な調査によるところが大きいため、調査の焦点が絞りきれていないという批判はあるかも知れないが、それとは逆に、情報処理技術やハイエンドコンピュータの分野において、今後重要になると思われる領域にはどのようなものがあるかを抽出して紹介するという点においては、一定の役割を果たすことができたのではないかと考えている。たとえば、最近注目されているグリッドと呼ばれるグローバルコンピューティング技術などについては、近未来の基盤技術としてインパクトを与える可能性がある技術として数年前から取り上げてきたことなどがその良い例である。

本年度は、最終年度ということもあり、ワーキンググループとしては3回の会合を持ったのみであったが、限られた会合の中で、2人の外部講師を招いて話を伺うことができた。1人は、東京大学の中村宏氏であり、省エネルギーを指向した高性能プロセッサに関して講演をしていただいた。もう1人は、日本電気の藤田悟氏であり、「Webサービスの技術動向」と題して、21世紀にインターネットを介して広く展開されると考えられているWebサービスに関して、その技術的な課題と標準化活動の状況などに関して講演をしていただいた。これらの講演を基に、中村氏と藤田氏には講演の概要を、本報告書の中にまとめていただいた。ここで、あらためて感謝したい。

本ワーキンググループの各委員は、情報処理の分野において最先端の研究や開発に従事している方々であり、情報処理分野における重要と思われる分野について各委員の独自の判断で調査を行い、本報告書に記述していただいていることを申し添えておきたい。

本報告書が、わが国のハイエンドコンピューティングをはじめとする先端的な情報処理分野においてその技術開発や技術政策の一助になれば幸いである。

(山口 喜教 主査)

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