第1章 国が支援する情報技術研究開発のあり方
最近、わが国企業の中国進出が大きな動きとなっている。IT産業も例外ではない。特に、ハードウェア製品の製造拠点の中国移転は、安価な労働力、関連産業の集積効果、近い将来に作り出されるであろう大市場への期待などが動機となっていると考えられる。
これまで、本調査では、IT研究開発の先頭を走る米国を中心として、研究開発投資、仕組み、法制度、技術開発動向などを調査してきた。そして、その結果を基に、日米比較の観点から、わが国の抱える情報技術研究開発の仕組み、法制度、重点投資分野などについての問題点を分析し、キャッチアップのための改革提言を行ってきた。
ところが、わが国のIT機器ベンダーや大手ソフトウェアユーザ企業が、コスト低減を主目的に、中国のソフトウェア企業への業務委託などを行うようになってきた。現状では、中国のソフトウェア技術は、平均的に見れば、未だ、わが国のソフトウェア企業に及ばないといわれている。しかし、中国のソフトウェア企業が、わが国ソフトウェア市場で一定の競争力を持つようになっており、既に、中小の日本のソフトウェア企業とは競争関係に達しているとも言われている。
この傾向が進み、中国ソフトウェア企業の技術力が向上すると、研究開発分野など高付加価値領域にも遠からず影響が及ぶ可能性がある。その結果、ソフトウェア産業においても、産業の空洞化がおこることを懸念する声もでるようになった。
このような背景から、前門の米国だけではなく、後門の中国についても、そのソフトウェア産業の技術力や市場について、状況把握することが必要になったと考えるに至った。以上の理由から、中国のITやソフトウェア産業の現状、ソフトウェア市場、日本のソフトウェア企業の中国進出とその実態、中国ソフトウェア企業と日本ソフトウェア企業の連携などについて調査を行った。調査は文献調査のほか、日本と中国のソフトウェア企業関係者へのインタビューにより行った。
この調査結果は、本報告書の第5章に概要がまとめられている。詳細は、調査資料:「わが国IT開発拠点の中国移転に関する調査」を参照されたい。