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9. 中国

9.2 国家政府による情報化の推進

(1) 国家政府の役割

 国家情報化は中国の国家戦略の1つとなっている。第九次五ヵ年計画及び2010年までの長期計画の中で国家情報化の推進を強調した。第十次五ヵ年計画では、国家情報化を単独計画した。国家情報化体系について、以下の6つの構成要素が明確に定義されている。

 @ 情報資源:材料資源、エネルギー資源と並んで情報資源を3大戦略資源として開発する
A 情報ネットワーク:国家の基礎インフラとして、通信ネットワーク、放送ネットワーク、コンピュータネットワークの構築を強化する
B 情報技術の応用:大型の情報化プロジェクトを実施する
C 情報技術と産業:2010年までに、情報産業を国の基幹産業となるように振興する
D 人材育成
E 政策、法律、標準の完備

 情報化実現に向けては、24文字方針として、統一計画、国家主導、統一標準、共同構築、相互接続、資源共有が謳われている(原文:統籌規_、国家主導;統一標準、聯合建設;互連互通、資源共享)。
 情報化に関わる研究開発は基本的に基金やプロジェクトの形によって行われている。例えば、国家自然科学基金、863プロジェクト等は最初から情報技術をハイテク重点領域と位置付けて、資金を大量に投入している。大学や研究所は国の定めた大枠の中で、具体的なテーマを提出し、競争して資金を獲得する。研究開発の成果を利用し起業することも可能であるが、それに対しては国は直接投資せず、仲介やサポート的役割のみを果す。大規模テーマの場合は、多数のチームが共同で提案したり、獲得した資金でさらに小さいテーマを別の所に再委託したりすることも可能である。上記プロジェクト以外に、当然、各省庁や、地方政府も多くの情報化プロジェクトを実施している。
 情報技術の応用・活用に対しては、国が大型なプロジェクトを実施している。代表的なのは“金字”シリーズのプロジェクトである。プロジェクトに対して国が全額投資し、そして、自ら実行チームを作るか外部に発注する。プロジェクトの中の商用部分に対して、国及び関連省庁は投資せず、企業は市場において、自ら投資、構築、運営などの商業活動をしなければならない。例えば、金橋プロジェクトは、国が基幹コンピュータネットワークの構築を目的として1993年から実施した。当時、全国に200以上の情報ネットワークがあったが、互いに接続できなかったので、情報共有ができなかった。プロジェクトの目標は全国をカバーするコンピュータネットワークを構築し、まず情報共有の問題とネットワークの重複構築の問題を解消する。同時に、その後の他の“金字”シリーズプロジェクトに対しても、基礎インフラを提供することを目的として描いた。金橋プロジェクトを受注したのは吉通公司である。吉通は1994年1月に、27の国有企業と研究所を合併し設立した会社である。吉通が受注した理由の1つは自分が得意とする衛星ネットワークを地上のネットワークと一体化させることを提案し、それが評価されたことである。金橋プロジェクトの成果をベースに、中国公共商用コンピュータネットワーク、すなわち中国金橋ネットワークは1996年9月に開通した。現在、吉通公司は金橋ネットワークを運営するが、国からの補助は無くなった。吉通公司のサービス開始は、従来の通信を独占していた企業にも良い刺激となった。2002年現在、中国では、金橋ネットワークを含む4つの公共的ネットワークと、5つの商用ネットワークが事業運営されており、吉通公司も市場において競争しなければならない。金橋プロジェクト以降の金字プロジェクトにおいても、必ずしも金橋ネットワークは使われていない。
 中国の情報化は「国家主導」や「中央政府先行」などが明確になっている。政府が大型プロジェクトの実施で大量の資金を投入している。これらの投資により、IT市場が派生的に拡大している。この市場は最初から政府主導しているので、規模は大きくて、重複構築もある程度防止できるというメリットがある。独占の問題に対しては、政府が商業化には介入しないことで、回避している。
 成功例としては、「金税」プロジェクトが挙げられる。開発初期、技術を提供したのは宇宙開発分野のコンピュータ制御関連の研究所で、政府機関の仲介で、税務総局との連携が可能となった。後に、中国科学院の協力も得て、現金納金システムと違う方向で、電子印紙の発行管理をベースにしたシステムを独自に開発した。これらの成果は知的財産となっている。プロジェクトを受注したのはコンピュータメーカの長城集団など4つの企業である。プロジェクトの実施に伴って、ネットワーク構築や税務関連ソフトウェアの開発はもちろん、セキュリティシステム開発、セキュリティ関連のソフトウェア開発、特定ICカードの開発などの関連分野でも多数の自主開発製品が生まれた。また、プロジェクトの実施によって、国の税金が大幅増収した。例えば、上海など9都市は金税プロジェクト実施後の最初の2年で、追徴した納税額は3年間のプロジェクト投資額よりも多かった。1994年の金税プロジェクトの実施以来、国が毎年1,000億元の税金増収を達成した。2000年は2,348億元の増収であった。

(2) 国家情報化指導グループ

 1993年12月10日、「国家経済情報化ジョイントミーティング」が開催され、「金カード」、「金橋」「金関」プロジェクが開始され、1996年1月、「国務院情報化指導グループ」が設立され、国家情報化の定義と6要素を確立、24文字の実現方針と8項目の原則が提出され、中国の情報化の発展が拡大してきた。また、1998年3月には、情報産業省が設立され、「国務院情報化指導グループ」を省内の「情報化推進司」(国家情報化オフィス)として組織化した。このような変遷を経て、1999年12月23日には「国家情報化指導グループ」が設立された(責任者:呉邦国(副総理)、副責任者:呉基伝(情報産業省大臣))。その結果、情報産業省内の「国家情報化オフィス」は廃止され、「国家情報化推進オフィス」が「国家情報化指導グループ」の窓口として設立された。
 2001年8月には、「国家情報化指導グループ」が再編され(責任者:朱鎔基(総理)、副責任者:胡錦涛(国家副主席)、李嵐清(副総理)、丁関根(共産党宣伝部部長)、呉邦国(副総理)、曽培炎(国家発展計画省大臣))、国家リーダー指導のもと、国家情報化を推進する体制が構築された。

グループの第1回会議
 2001年12月26日、北京で国家情報化指導グループの第一回会議が開催され、以下の内容が議論された。

 @

第十次五ヶ年計画における国家情報化に対する考えと2002年の重点項目(曽培炎)

  • 情報技術を経済の全ての領域に応用し、顕著な成果を収める。情報技術を利用してマクロ経済に対するコントロールを強化し、経済運営の質と効果を大幅に改善する
  • 大、中企業の情報化に明らかな成果をあげる。B2Bの電子商取引を普及する
  • B2Cの電子商取引に明らかな成果をあげる
  • 情報産業を経済の柱産業と基幹産業として振興する
  • 未来指向である、合理な構造、高速ブロードバンド、高度なセキュリティを有する国家情報ネットワークの基礎を完成する
  • 小中学校での計算機教育を普及する
  • 経済の発展、経済と社会サービスの情報化を支えることができる情報化体系の雛型を構築する
A

情報産業における主な問題

  • ハードウェアの製造に偏り過ぎ、ソフトウェアの開発と情報サービスは明らかに遅れている
  • コア技術の開発能力が弱い、重要なハードウェアとソフトウェアは輸入品に依存している
  • 情報資源の開発はとても不十分にも関わらず、低レベルのネットワークとデータベースの構築には大量の重複が発生しており、互いの接続や共有も難い
  • 情報セキュリティに潜在的な危険がある
B

国家情報化の方針

  • 市場をターゲットにし、ニーズで開発を主導することを堅持する:情報化のための情報化ではなく、経済と社会発展のニーズに従って情報化を推進する。市場原理に従って情報化を実現する。効果の無い情報化や紙芝居はやらない。
  • 政府が先行し、情報化の発展をリードする:政府の情報化を政府の機能転換とあわせて実現する。情報化によって、政府の効率と管理レベルを向上し、公開度、清廉度をも促す。特に国民が最も関心を持っている問題に対して、情報技術の利用で透明度と公正性を強化する。政府の情報化は中央政府から実現する。“金関”、“金税”、“金カード”、“金盾”等のプロジェクトの実現を加速し、完備する。
  • 情報化を産業の構造調整とあわせて実現する。情報技術を利用し、伝統産業の改造と進化を実現する。情報化の実現で工業化と現代化の実現をリードする。企業の情報化の実現を加速する。企業の情報化によって、企業の収益率と競争力を大幅に改善する。同時に、企業の情報化によって、情報産業に巨大な市場を提供し、電子商取引の基盤を作る。
  • 競争体制を作りながら、計画の協調性を強化し、情報化の実現に良好な環境を作る:互いに接続できる、情報を共有できるように開発を進める。重複構築や無謀な開発を防止する。
  • 市場開放と国際協力を重視しながら、自主開発を強化する:世界に市場を開放し、国際協力を実行する中で、わが国の情報産業の国際的な競争力を強化する。同時に、やることもあれば、やらないこともあるという原則に従って、国家安全と産業発展に重大な影響をもつコア技術に資源を集中する。研究開発の強化によって産業を発展する。
C

実施時の注意点

  • 良い計画、統一基準、法律と安全保障体系の建設
  • 人材育成と知識普及の強化
D

「国家情報化専門家諮問委員会」の設立

  • 2002年2月、「国家情報化専門家諮問委員会」を設立
  • 経済、技術、法律等の専門家38名が委員となった
E

広東省南海市の情報化状況の報告

  • 伝統産業の情報化と社会管理の情報化の取り組み及び経験が報告され、光ファイバーによるリアルタイムのデモも行った。

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