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6. オーストラリア

6.3 国家戦略の新アクションプラン "Backing Australia's Ability"

(1) 概要

 2001年2月、ジョン・ハワード首相はオーストラリアの発展を支える政府の新アクションプラン(Backing Australia's Ability) を発表した。情報通信技術(ICT; Information and Communication Technologies)は、情報経済、ニュービジネス創出、既存産業の変革と雇用拡大の原動力であり、オーストラリアの経済・社会にとって極めて重要な役割を果していることを周知した。
 計画には次の点が含まれている。総予算29億ドルを各拠点に1億2,950万ドルずつ分配して、世界クラスの情報通信拠点を設立する。各拠点(ICTセンター)は莫大なICT研究能力を持ち、国際的な研究と商業活動に対応する。また、公的部門と民間部門のR&Dをサポートするための重要な対策も新アクションプランに含まれ、研究結果としての新技術(ICTの技術革新と高度のICT適用)を商業化する能力とICTスキルの利用を高める。
 ICTセンターの設立は斬新な技術開発能力を強め、国有のICT部門を刺激する。新技術の他の産業への応用に関して、オーストラリアが世界の中でリードユーザとしての地位を保つ。
 新アクションプランでは、アイデアの形成から商業化するまでのICTプロセスにおける全ライフサイクルの連携を重視した対策が盛り込まれている。以下にその概要を示す。

a) アイデアの創出

b) アイデアの商業化

 これらの大量な資金イニシアティブと同時に、Backing Australia's Abilityは多くの変革を推進していく。以下はその変革の内容である。

(2) ICTセンター(Information and Communications Technology Center of Excellence)

 ICTは経済成長の原動力で、全産業領域に貢献する。実際に、この部門がオーストラリアの経済全体の中で、最も成長が速い部門である。ICTは雇用拡大、製品・サービスと輸出、他の産業への影響は著しい。オーストラリアはICTの先端ユーザと同時にいくつかの重要な分野を開発した。
 ICTセンターの成立は技術の突破を図り、国有のICT産業を刺激し、雇用と富を作り出す。ICTの革新的な技術への理解は、新技術の他産業への適用を促進し、ICTの先端ユーザの地位を保つ。センターは新技術の商業化により、経済的・社会的リターンを確保する。
 センターは優れた現地研究者の養成と海外の世界級の研究者を引き付けることに適する研究環境を持ち、世界的な重要な研究機構となる。以下のことをサポートする。

 センターのスタッフは研究開発に従事すると同時に、新ICT製品を商品化する。政府は5年間に、1億2,950万ドルを追加拠出する。通信・情報技術省は6,700万ドルを拠出する。オーストラリア研究諮問委員会(Australian Research Council)が6,250万ドルを出資する。企業の寄付は約25%に達し、5年間でセンターへの総投資は1億6,000万ドル以上となる。
 プロセスの実行は専門家パネル(企業、研究共同体、オーストラリア研究諮問委員会の代表を含む)の選出と指名が含まれている。専門家パネルの主な任務は、ガイドラインとセンターの目標成果を明確にすること、センターの設立に関する提案についてアドバイスすることである。センターの管理者は通信・情報技術大臣と文部大臣が専門家パネルのアドバイスを参考にして指名される。

(3) ITOL(Information Technology On Line)

 ITOLプログラムは企業間、特に中小企業間の電子商取引の促進を目標とし、新オンライン取引がビジネスの競争力を向上することを明らかにしていく。ITOLは競争的な助成金プログラムであり、B to Bオンライン取引の便宜を、重要産業部門に提供する。プロジェクトの事業推進組織は、通常、製造業、流通業と大学の共同体である。ITOLの第1回目の投資ラウンドにおいて、50以上のプロジェクトに融資した。これらのプロジェクトは工業部門、保健と製薬、建設、自動車産業など多様な業界に及んでいる。
 イノベーションアクセスプログラム(Innovation Access Program)の一部としてのITOLへの投資は2005年6月の会計年度まで延長し、1300万ドルを追加拠出する。助成金提供の最初の3ラウンドにおいて、約100万ドルを配分した。4ラウンドには170万ドル以内で、5ラウンドには141万ドルを拠出する予定である。
 ITOLはNOIE(National Office for the Information Economy)が運営する助成金プログラムである。プロジェクトが少なくとも三つのメンバー(企業、商業・工業連合と研究機構)の協力であることはITOLが成功する鍵である。ITOLの助成金により、産業の共通の問題を解決する。助成金の幅は3,500ドルから14.5万ドルまでの間であり、平均は8.5万ドルである。プログラムからの資金援助請求は拡大しており、各ラウンドの提供する金額を超えている。ITOLの成功事例は多く、製薬電子商取引プロジェクト(Pharmaceutical Electronic Commerce and Communication )はそのひとつである。このプロジェクトは医薬品の製造業と流通業に電子商取引の導入を促進した。

(4) Smart Moves

 Smart Movesは、国家革新啓発戦略(National Innovation Awareness Strategy)の一部として、オーストラリア地域の科学技術革新への意識を喚起する。全国民に科学、技術が将来の基礎であることと、革新が競争力の向上、雇用の拡大、社会の幸福の鍵であることを発信する。プログラムには、以下の要素が含まれている。

 4年間でSmartMovesプログラムを各州の地域中学校の生徒、地域社会まで拡大・浸透させる。居場所に関わらずウェブ上の情報資源にアクセスできる。連邦政府の新アクションプラン(Backing Australia's Ability)は、SmartMovesのために4年間で370万ドルの拠出を予定している。SmartMovesの予算総額は690万ドルであり、民間部門からも同時に320万ドルの資金を集める。

(5) IT政策の評価とプロジェクトの展開

 国家情報経済局は、これまでのIT政策の評価を行っており、その結果を踏まえ、ICTセンター、電子政府等のプロジェクトを推進している。

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