4. シンガポール
Infocomm 21(Information and Communication Technology 21)は、IT2000を引き継ぐニューエコノミー時代に対応した情報通信の5年戦略計画である。Infocomm
21は柔軟性のないマスタープランではなく、技術、ビジネス環境と社会の変化につれて、更新されていく産業戦略のフレームワークと指針である。Infocomm
21の成功には、産業のリーダーシップによる計画策定と実行が必要であり、政府は触媒という位置づけである。政府は初期には新領域(産業)のマーケットの確立やマーケットとビジネスの発展に障壁になる規制の除去を促進するが、マーケットの発展に伴って、役割は少なくなるとしている。
このビジョンは国民に、新しいトレンド、ニュービジネスの概念を意識させること、人々の見識の共有とアイデアを討論できること、ビジネスにやさしい環境を作ること、国レベルと産業レベルの国際戦略提携を促進すること等に資するものである。
以下は、Infocomm 21の概要である。
Infocomm 21は、IT2000の「知的なアイランド」というビジョンに基づくものである。このビジョンはほぼ実現できた。その結果として、シンガポールは次のような評価をえている。
シンガポールの過去の戦略はもはやニューエコノミーパラダイムに適切ではない。競争のグローバル化につれ、シンガポールがITと電気通信業界をリードし続けるためにはグローバルな視野で考え、地域に密着して行動し、インターネット時代のスピードで行動し、製品・サービスの市場導入リードタイムを短縮しなければならない。
Infocomm 21は以上のような課題に対応する戦略であり、シンガポールを活気のある、ダイナミックな世界的情報通信拠点に発展させることをビジョンとしている。
情報通信拠点として、アジア太平洋において、シンガポールは情報通信産業とビジネス、研究開発、ベンチャーキャピタル、人的資本人材キャピタルそして教育とリーダーシップの中心となることを目指す。世界水準の革新的情報通信アプリケーションとサービスを集積するとともに、テストベッドを提供する。
シンガポールは、アジア太平洋で首位を争うグローバル情報通信ハブとしてのシンガポールを目指しており、情報通信技術センターや開発センターそして世界中のマーケットプレイスの強力な接続拠点となる。あるいは、情報通信企業活動や地域本部、情報通信の才能を引き寄せる場、オンライン・コンテンツと新しいメディアのハブ、情報通信の研究開発や知的財産の創造のためのセンター、ベンチャー企業がひしめくような場、そして革新的な情報通信システムや製品・サービスの開発環境とテストベッド拠点となる。具体的には、2005年までに期待される結果は以下のとおりである。
戦略1:グローバル競争力のある通信産業クラスターの展開
ニューエコノミー時代に競争力をつけるために、シンガポールは、地域と世界へ優れた接続性を持つ強力な国内情報インフラ整備を行わなければならない。そのためには、通信コストは世界的競争力がなくてはならない。鍵となる戦略は、グローバル・プレイヤーはシンガポールに根ざし、ドメスティック・プレイヤーはグローバル化することなのである。
(通信部門の自由化)
通信サービスが自由でオープン市場となる必要があり、シンガポールは通信の完全自由化を2年前倒しの2000年4月1日からとすることを2000年1月に発表した。通信インフラのプロバイダーにかけられていた外国資本の制限を撤廃した。
自由化して数ヶ月のうちに、数多くの事業者にIDA(Infocomm Development Authority)より免許が付与された。このことは莫大な投資と雇用をもたらした。
(最新の通信技術の駆使)
シンガポールは最新技術を取り込むにあたっては迅速であることを指向している。第3世代移動体通信やLMDSのような新しい無線技術の承認体制を整備する。
戦略2: 広帯域用双方向マルチメディア(IBBMM)産業クラスターの形成
島全域にブロードバンドインフラを構築すること−シンガポール・ワン計画(全ての人にネットワークを)−により、約99%の家庭がアクセス方法としてADSLまたはケーブルのどちらかを選ぶことができるようになった。
(ブロードバンド需給の奨励)
シンガポールは、関連コンテンツとアプリケーション開発がブロードバンド成長の鍵であると認識している。1億5,000万シンガポールドルの資金によって、広帯域用双方向マルチメディア(IBBMM;
Interactive Broadband Multimedia)コンテンツを整備し、サービスの供給を促進する。新規市場における初期リスクを政府が共有するので、革新的なIBBMMコンテンツやビジネスモデルの開発・実験、地域全体への拡張等を支援する。国際専用線の費用も完全競争が競争価格を生めるようになるまで予算がつく。ブロードバンドへのアクセスは、設備費用の削減を通じてより速く取り込んだ者により多くの利益がもたらされるようになる。
(ブロードバンド開発施設とテストベッド)
IDA(情報通信開発庁)は、統合型ブロードバンド製品・サービスの実験のためのテストベッドの整備に取り組んでいる。新しい構想には、家庭や学校、娯楽といった生活の場にブローバンドを取り込めるような環境システムを構築するために産業間連携を促進するイニシアティブが含まれている。不動産ディベロッパーやビル・オーナーは、ブロードバンドが利用できる商業ビルと工業団地によりサイバーオフィスを作ることに関心を寄せている。ホテルは、情報通信に強い旅行者にブロードバンドのサービス・施設を提供することを試みている。
戦略3: 無線産業クラスター開発の先頭に立つこと
無線産業クラスター開発の目的は、企業と市民がオンライン・コンテンツやサービスを送受信する上で、無線の利用を不可欠にしていくことである。アジアはモバイル・サービスの成長で最も可能性のある地域と期待されている。2000年9月、シンガポールの携帯電話契約件数は216万件となり初めて固定電話の契約者件数192万件を超えた。
(IDAの4つの戦略)
@無線インフラの開発
IDAは固定無線(LMSD)と第3世代ブロードバンド無線の免許を2001年早々にも付与する。そのため事業者は新たな革新的サービスを開発できるようになる。
A無線に関する技術力の強化
無線に関する研究機関と研究開発施設を拡張し、無線通信の技術力を一気に高めなければならない時期である。一つの具体的なイニシアティブは、シンガポール・ワイヤレス・テクノパークの設置である。ワイヤレス・テクノパークは、無線技術の研究開発と革新的無線アプリケーション実験のための施設・インフラを提供する。最先端企業が製品やサービスを共同開発するための‘出合いの場’となる。そして、無線分野のベンチャー企業の創業を支援する。コンピテンシーセンター(特定技術・ノウハウを開発・蓄積するセンター)は、情報機器と無線ネットワークとの相互運用性など重要領域の技術を開発する。
B無線コンテンツ・アプリケーションの増殖
無線の導入普及は、無線が必要となる魅力あるコンテンツやアプリケーションの有無に依存する。GPRS、EDGEなどを使用する2.5世代アプリケーションは2000年末までに提供される。コンテンツ開発やアプリケーション開発をサポートするために、政府は現存する奨励制度を無線分野にも拡大した。IDAの人材開発と助成の制度は、新たな技術分野における教育を支援しうる。さらに、電子決済、セキュリティ、認証に伴うモバイルコマース・ソリューションを促進する。
C無線コンテンツとアプリケーションの市場開発
IDAは、産業界と連携・共同し、ワイヤレス・ネットワーキングとワイヤレス・ライフスタイルのモデルを提案していく。政府の行政サービスは、WAP(Wireless
Application Protocol)対応の携帯電話など無線端末を通して利用できるようにしていく。
戦略4: IPRハブとしてのシンガポール
技術および革新的開発をサポートするためには、技術の創造と特許、そして知的資本をもたらすような環境が必要である。知的財産権(IPR)管理の中心となるために、知的財産権のフレームワークを強化することは重要である。
IDAは、主要な産業リーダーや学術界、研究所との共同研究により、産業界の手引きとなる「情報通信技術ロードマップ」シリーズを開発している。これらのロードマップは、事業計画をどうたて新しい技術をどうつくるかのシナリオ、トレンド、そしてヒントを研究所および産業界に提供している。
IDAは、国家科学技術庁(NSTB)との連携により、技術ロードマップで識別された技術領域に関して、学術界、研究機関、産業界の総力を集め、コンピテンシーセンターを設立し、最先端技術開発のための共同プロジェクトを立ち上げる。
IDAは情報通信規格協議会の事務局を通じ国家標準の開発を支援する。IDAは、国家ケーブル標準協議会も率いており、ケーブルの標準化の監督と、新しいケーブル技術の推奨を行っている。
戦略5: 競争優位な能力の形成と地域企業の育成
(地域企業の能力を高める)
シンガポールの情報通信産業が国際的レベルになるには、地域企業が単に技術的に有能で、新技術を活用できるだけでなく、グローバルなマーケティング、オペレーション、ビジネス展開をする能力がなくてはならない。
IDAは他の政府機関と協力して、地域企業が世界に通用するようにするため、情報通信地域産業向上プログラム(I-LIUP)を推進している。このプログラムを通して、地域企業は、能力開発と向上を図りながら情報通信の多国籍企業と連携し、ベンチャー・キャピタリスト、弁理士、金融・ビジネスコンサルタントを活用することができるようになる。
IDAは、グローバルに活躍できる能力のある企業にするために個別にサポートを行う。これらの中には、立ち上がりからわずかな間で国際的に活躍するベンチャー企業も含まれている。
(新しい企業の育成)
知識基盤経済の到来に向けて、シンガポールは技術開発と産業のイノベーションを促進するための施策、テクノプレナーシップ21(Technopreneurship
21)プログラムを創設した。特に、10年以内に世界で競争できるハイテク企業セクターをシンガポールに育成することを目的としている。教育(ハイテク企業家精神を喚起するための教育現場における革新と創造の導入)、インフラ整備(ハイテク企業を誘致できるサイエンスハブの建設)、規制緩和(企業のための法制度整備・規制緩和)、資金提供(テクノプレナーシップ基金の創設、ベンチャーキャピタルの誘致)を国として支援していく。
ニューエコノミーが絶えず変化をするように、IDAも新しい企業に対して柔軟な対応をとっていく。IDAは政府のテクノプレナーシップ21のサポートを続ける。助成を通じて特定の活動への資金提供も継続するが、低金利ローンや株式投資など幅広いメニューを検討する。IDAは民間企業と補完し提携しあうよう心がける。資金提供する全てのケースは、次の戦略的目標に適合しなければならない。
戦略6: 海外との戦略的パートナーシップ・提携の促進
(グローバル化と地域化を同時追及する企業の支援)
グローバリゼーションの時代にあって、企業はグローバル化と、ローカル化を同時に行っていく必要がある。IDAは、他の政府機関とともに諸外国企業と地域企業との戦略的パートナーシップ・提携を支援する。中国やインドの企業の技術を活かしたり、シンガポール外への拡販・事業展開が可能となる。
(海外市場情報の提供)
他の政府機関と協力しながら、IDAは世界の重要市場にオフィスを設立している。これらのオフィスは、シンガポール企業に海外市場情報を提供し、パートナーシップの機会創出を支援する。
(新規投資の誘引)
グローバルな結節点となるために、シンガポールはアジアに活動拠点を探しているグローバル企業に魅力的でなければならない。IDAは、情報通信に関する新たな投資を誘引し、国内投資の主管庁である経済開発庁(EDB)を支援する。
シンガポール政府を世界で最も優れたオンライン政府の一つにし、具体的には次の成果を達成する。
戦略1: Electronic Service Deliveryを拡大する
政府は現存のサービスモデルを再検討し、そのプロセスを再設計し、e-Citizenサービスを提供する。ウェブサイトは情報伝達から複雑なタスクを全てオンラインで完成できるような電子取引センターへと中心を移す。
政府は電子決済体系を実行し、費用決済、または資金移転ができる政府オンラインサービスを促進する。
戦略2: 技術革新を利用して、新処理能力と生産能力を達成する
シンガポールの電子政府というビジョンを実現するには、市民サービスによる新技術のテストと新サービス、新プロセスを開発する必要性がある。以下はその具体的なイニシアティブである。
戦略3: 民間部門をてこにする
e-Governmentアクションプランを実現するために、政府は民間部門が保有する革新的なアイデア、技術と専門知識の利用が必要となる。それには、民間部門との提携が必要であり、行政・公共サービスの責任・権限を維持しながら、民間部門の経営推進能力を利用していくことが可能となる。
戦略4: e-Governmentにおけるリーダーシップの開発
政府が意味のある決定を下すために、情報通信技術のインパクトを良く理解する必要性がある。政府は公務員向けの情報通信技術教育プログラムを制定する。
戦略5: e-Governmentの重要性を提示し、そのサービスの利用を促進する
政府のステークホルダー(政府の関係者;市民、企業、業界、職員等)に対しe-Governmentのビジョンを知らせることと、国民のe-Governmentサービス利用を促進することは極めて重要である。公的部門のリーダーとマネジャーにe-Government教育プログラムを提供し、その後一般向け教育プログラムを提供する予定である。
公的部門でのe-Governmentの発展を促進するための手段とインセンティブを提供する(例えば、ベストe-Governmentサービス年度賞を設置すること、政府ウェブサイトのベンチマーキングなど)。