4. シンガポール
IT2000の実現を加速するための具体策が1996年に発表されたシンガポール・ワン(Singapore One)計画である。シンガポール全土に広帯域の通信インフラを整備し、対話型マルチメディアのアプリケーションとサービスを家庭、学校、オフィスに提供しようというものである。
ATMバックボーン
シンガポール・ワンの広帯域通信ネットワークの基盤は、ATMスイッチング技術に基づくバックボーンネットワークである。1-Net Singaporeと呼ばれるコンソーシアムによって構築・運営されている。モOne
Network for Everyoneモ、すべての人に提供される統一的なネットワークという意味である。
ローカルアクセスネットワーク
アクセス回線は、ATM(155Mbps)、ADSL(5Mbps; シンガポールテレコムが提供)、CATV(30Mbps; シンガポールケーブルビジョンが提供)の3種類が用意されている。
シンガポール・ワンは、以上のネットワーク基盤に基づき、新たなアプリケーションの開発を行っている。アプリケーションのタイプとしては、ニュース・オン・ディマンド、データベース検索サービス、オンラインショッピング、遠隔教育、行政サービス等がある。
行政サービスとしては政府ショップフロントがある。政府が扱う商品・行政サービスをネットワークで提供している。現在では、寄付受付、自動車試験の予約受付、健康・医療・観光等に関する書籍・ビデオの販売、各種統計情報提供が行われている。将来的には全省庁のサービスが出揃う予定である。決済はC-ONE(CashCard
for Open Electronic Commerce)と呼ばれるキャッシュカードで行える。
1998年、国家コンピュータ庁(NCB)は、シンガポール・ワンでサービスされている123のアプリケーションを評価し、5つのサイトに優秀アプリケーション賞を与えた。
1-on-ONE(by Television Corporation of Singapore)
テレビ番組を選択するための情報を提供している。配信先は1,000以上にのぼり増加中である。
Property Interactive Networks(by Prop I-Nets International)
土地・建物などの資産に関する18,000件のデータベースにより、資産の写真・ビデオ、フロアプランの情報を提供している。写真・動画の処理には特許出願中の技術が用いられている。同社は米国でのサービス開始も予定している。
SingTel Magix(by Singapore Telecommunications)
映画、ビジネスや娯楽に関するニュース、教育用ビデオ、ゲームを提供している。
SISTIC(by Singapore Indoor Stadium & SISTIC)
シンガポール室内競技場やその他の会場で開催される芸術・娯楽等の各種催しのチケット販売を行っている。利用者は催しの日程や空き席の状況も確認できる。全チケット販売の15-20%がオンライン販売になっている。
Speak Mandarin Campaign Homepage(by Ministry of Information & the Arts)
英語教育を受けた世代に対して、マンダリン(北京語)を学ぶためのサービスを行っている。会話の基本、語彙リスト、学校のディレクトリなどの情報を提供している。
シンガポール・ワンに関しては問題も指摘されている。前述のようにシンガポール・ワンはバックボーンにATMを用いたマルチメディアサービスネットワークであるが、今日ではブロードバンド化したインターネットに対して優位性がなくなってきた。むしろ、コンテンツが少ない、インターネット接続が遅い等が指摘されている。その意味から、今後は、政策としてのインフラ整備と民間によるサービス事業開発の連携がより重要となる。