3. 欧州
フィンランドは、IT産業育成と情報社会の構築の面で、近年最も成功した国のひとつといえる。IDCとWorld Timesが発表している2001年情報社会指数(ISI)では、スウェーデン、ノルウェーについで3位にランクされている。IT産業を核にした国際競争力の評価も高く、世界経済フォーラムとハーバード大学(国際開発センター&戦略競争力研究所)による2001年の成長競争力指数(Global
Current Competitiveness Index 2001[2])では1位となっている。
フィンランドは、金融市場の自由化を実施したが、その結果としてバブル経済を誘発し、90年初頭にそれが崩壊した。また、最大の輸出先であるソビエト連邦の崩壊で輸出額の大幅なダウンを招いたことも加わり、深刻な経済不況に陥った。フィンランドはこれを機に、ハイテク産業立国への転換を図り、さまざまな政策を展開した。特に、ITの研究開発と高等教育への積極的投資、事業化のための産学連携体制の整備によって90年代半ばには経済成長率が改善された。94〜99年の成長率はEU圏内で第2位となった。特に、ハイテク輸出は増加の一途であり、2000年では、115億ユーロ、全輸出の23%に達した。その結果、国際貿易収支もプラスに転じている。
図表3-4 フィンランドのハイテク貿易収支
(資料:TEKES)
図表3-5 OECD諸国のハイテク輸出額比率
(資料:TEKES)
フィンランドは、木材・パルプに関連する一次産業、二次産業が産業の中心であった。上述のような経済的環境変化の中で、ITを中心としたハイテク産業を将来の国の基幹産業に育てようとしてきた。その結果、ITハイテク分野における研究開発の積極的投資が推進されてきた。R&D投資額GDP比は、年々増加し、OECD諸国の中でもスウェーデンの次に高い水準になっている。投資額の中でも、エレクトロニクス、電気通信等のIT関連が特に増加している。
図表3-6 OECD諸国のR&D投資額GDP比
(資料:TEKES)
図表3-7 フィンランドにおける産業分野別R&D投資額
(資料:TEKES)
IT関連の研究開発推進の中で、産学連携の中核的役割を担っているのが、通商産業省傘下のフィンランド科技庁(TEKES)である。90年代以降、政府は大学への研究開発投資を削減する一方、TEKESを通した産学協同プロジェクトの予算を増額させていった。
TEKESのミッションは、
である。これらを推進するために、首都ヘルシンキの本部に加え、国内14箇所に地方技術局、海外にも、ブリュッセル、ボストン、サンホセ、東京に支局を設置している。職員には企業からの転職者も多く、研究経験・技術的知識を有したプログラムマネジャーの役割を担っているともいえる。
図表3-8 フィンランドにおけるR&D投資額の主体別内訳
(資料:"TEKES
Annual Review 2000", TEKES, 2000)
TEKESは、研究への資金供給や、企業の研究開発・技術開発への融資を行っている。約4億ユーロの年間予算の中で、研究開発資金の供給に約3億ユーロ弱を投下し、2297プロジェクトを支援している。
テーマ別内訳は、バイオ・化学技術(27%)、情報通信技術(27%)、エネルギー・環境・建設技術(20%)、生産・材料技術(19%)となっている。
現在進められているものとして下記がある。
目標: | アプリケーション・サービス・製品の開発ノウハウの蓄積、国際競争分野の開拓、国際的な主導的研究開発の推進 |
テーマ: | アクティブな環境、電子サービス、ナビゲーション、自然言語等 |
計画: | 準備1年+3年計画、研究機関向け計画35件 |
予算: | 7,000万ユーロ(うちTEKES資金2,500万ユーロ) |
目標: | 年率30%の収入拡大、2010年時点で140億ドルの売上 |
技術開発: | 移動通信アプリ、インターネットサービスインフラ向けアプリ、企業経営管理ソフト、コンピュータセキュリティ、娯楽ソフト等 |
計画: | 2000から2003年 |
予算: | 7,500万ユーロ(うちTEKES資金3,300万ユーロ) |
図表3-9 情報通信の研究開発計画
(資料:“フィンランドにおけるIT研究開発政策とハイテク企業育成”, 鷲巣栄一『通信工業』No.8, 2001等による)
[2] 一人当たりGDP、IT等の科学技術水準、マクロ経済状況等から見た将来の経済成長力を評価したもので、2位アメリカ、3位カナダ、4位シンガポール、日本は21位(Global Competitiveness Report 2001-2002, World Economic Forum and Harvard University, 2001.)