の公表の一環として国際シンポジウムを開催し た(前述)。また、各種のワークショップ等を 開催して本研究に関する意見交換を行った(注 21)。さらに、(財)新世代コンピュータ技術開 発機構で刊行されたTR,TM及び『ICOT ジャーナル』(注22)という定期刊行物等のほ とんどを日本語版、英語版の両方で作成・配布 し、海外へも研究成果の普及に努めた。米国国 立科学財団部長のY.T.チェン氏は「テクニカ ルレポートや定期刊行物などほとんどのペー パーについて英語版を用意しており、国際的に 研究成果に関する情報を提供するように努め た。日本のプロジェクトではかなり珍しいので はないか」と評価している(『日経産業新聞』 1992年6月10日付け)。 C海外の研究機関との研究交流 第五世代コンピュータ・プロジェクトは海外 の機関とすべて共同で研究するという方式は取 らず、いわゆる「両岸方式」でプロジェクトを 実施した。すなわち、日本でも第五世代コン ピュータの研究をするし、同時に諸外国も同様 のプロジェクトを進める。その成果を包み隠さ ず公開し、意見交換して更に研究を進めていく という方式である。このような方針でプロジェ クトを実施すると、国際共同研究のように他国 の内政的要因によって、プロジェクト自体が崩 壊することがないというメリットがある(注 23)。もちろん、一部の研究課題については、 共同でも研究を行った。例えばスウェーデンコ ンピュータ科学研究所(SICS)とは、並列論 理型言語システム、CADシステム及び制約論 理プログラミングの共同研究を行った。それ以 外では、米国アルゴンヌ国立共同研究所(AN L)、米国国立衛生研究所(NIH)、米国ローレ ンス・バークレイ研究所(LBL)とも第五世 代コンピュータ・プロジェクトの一つの研究項 目について共同研究を行った。 また第五世代コンピュータ・プロジェクトに 触発されて、海外でも次々と同様のプロジェク トが開始された。米国ではSCSP計画 (Strategic Computing and Survivability Program)(注24)、MCCプロジェクト (Microelectronics and Computer Tech- nology Corporation)(注25)、ECではESP RIT計画(European Strategic Program for Research and Development in Infor- - 126 - mation Technologies)(注26)、イギリスで はALVEY計画(注27)等ができるに至った (注28)。 5.今後の展望 すでに述べたとおり、第五世代コンピュー タ・プロジェクトは、超LSIプロジェクトの ように自国の産業競争力強化を主眼とせず、基 礎研究に対し日本政府が資金を出し、その研究 成果を通じて広く国際的に貢献することを主眼 としている。これは、最近、米国を中心に行わ れている自国産業の競争力強化政策とは一線を 画すものである。そもそも、国家が直面する経 済問題を、世界市場を巡る競争力の問題とみな し、コカ・コーラとペプシがライバルであるの と同様に、米国と日本がライバルであるという 考え方は、先進工業国間に悪循環のゲームを展 開することとなり、保護主義を助長し、結果と して貿易による国家間の補完関係を崩す時代錯 誤的なものといわざるをえない(注29)。すな わち国家が先導して行う産業競争力強化政策は 日本が経験したような高度成長期のキャッチ・ アップの時代には有意義であったかもしれない が、キャッチ・アップが終わって次のステップ を踏もうとしている日本やその他先進諸国に とっては、もはや政策的意義がなくなっている のである。この種の産業競争力強化政策を礼賛 する最近の米国等の考え方に対しては懸念を禁 じ得ない。 そういう意味で、第五世代プロジェクトは適 切な理念で実行されたプロジェクトであるとい えよう。第五世代コンピュータ・プロジェクト について、超LSIプロジェクトのように製品 化されなかったから失敗したとの意見もある が、それは上記のプロジェクトの理念を十分に 認識していない意見であるといえよう。 次に第五世代コンピュータ・プロジェクトの 研究成果については、現在のところ即断は難し いが、現状の研究成果を評価するため論文引用 数をみると、同種の研究を行っている大学・研 究所の研究者等と比較して、(財)新世代コン ピュータ技術開発機構の研究者の論文引用数が 多くなっており、同機構の研究成果が広い範囲 に影響を及ぼしていることがうかがえる。現在 の第五世代コンピュータ・プロジェクトに対す る技術的評価について、アーキテクチャ部分に 関しては、最近のダウンサイジング等の技術革 新により将来技術に活用されるとは思われない が、並列処理の考え方、並列処理の基本となる 言語は今後のコンピュータ技術に重要な影響を 与えるものと思われる。 さらに第五世代コンピュータ・プロジェクト を組織面からみると、渕氏を中心とする研究所 幹部が主導的な役割を示した。例えば、人事面 では研究所幹部が中心となって、各企業、国立 研究所等から優秀な人材を集め、適材適所を旨 に人員配置を行った。したがって寄り合い所帯 にありがちな、コミュニケーションの断絶はな く、研究を効率的に行えるような組織であっ た。 このように、理念、成果、組織等からみて、 第五世代コンピュータ・プロジェクトは評価で きるプロジェクトといえる。 加えて第五世代コンピュータ・プロジェクト の今後について述べる。 第五世代コンピュータ・プロジェクトについ ては、1995年3月で国家が負担するすべての研 究開発が終了した。国家プロジェクトの場合、 資金が国から拠出されなくなった後のバック・ アップ体制が重要なポイントとなる。すなわち 国家予算から研究開発費が拠出されている時に - 127 - は、企業も学者も注目するが、それがなくなる と見向きもされなくなる傾向があるからであ る。幸いにも、第五世代コンピュータ・プロ ジェクトは(財)新世代コンピュータ技術開発機 構の出身者が大学等で引き続き研究を行ってお り、また海外でも同様な研究を行っている人間 が多数いる。それらの人々はインターネット等 を介し頻繁に研究成果を交換している。すなわ ち、研究所という物理的な場ではなく、通信 ネットワークを通じて似たような効果のある仮 想研究所、いわゆる「バーチャル研究所」(注 30)の中で研究を継続している。このことは第 五世代コンピュータ・プロジェクトの研究成果 をさらに熟成するのに重要であろう。政府の政 策は、ほとんど新たな政策の構築に目を奪われ がちであるが、このような研究開発プロジェク トの実施後のフォローは、地味ではあるが、非 常に重要であると思われる。 - 128 -