に増加され、通商産業省が本気であることを企 業が認識し始めたこと、人工知能(AI: artificial intelligence)ブームが訪れ、企業 の中に第五世代コンピュータ・プロジェクトは AIの研究開発と補完性があるという考えが出 始めたこと、等を背景に、企業各社も本プロ ジェクトの価値を再認識するようになった。 (2)目的 前述の調査研究委員会での3年間の議論を経 て、プロジェクトの実施主体である(財)新世 代コンピュータ技術開発機構(Institute for New Generation Computer Technology (ICOT))(注9)が発足する頃には、本プロ ジェクトに関する技術的な特徴が明らかになっ た。その結果、プロジェクト全体の枠組、目的 は以下のとおりとなった。 @第五世代コンピュータの枠組 並列処理と知識ベースを用いた推論処理を基 本メカニズムとする。このためハードウェアと ソフトウェアのインターフェースは論理型言語 とする。 A第五世代コンピュータ・プロジェクトの目 的 第五世代コンピュータ・プロジェクトは、知 識情報処理を指向し、現存の方式でのコン ピュータの技術的限界に対処しうる革新的コン ピュータの技術体系を確立することを目的とす る。 超LSIプロジェクトと第五世代コンピュー タ・プロジェクトとを比較し、前者は製品化さ れ大成功を収めたが、後者は製品化の目途が たっておらずプロジェクト自体が失敗したので はないかと批判する声もある。しかしながら、 第五世代コンピュータ・プロジェクトは、そも そも基礎研究を指向しており、製品化を目標に 置いていない。また当時の日本の基礎研究ただ 乗り論の批判に応えるために国際貢献の一環と して打ち出した側面もある。一方、超LSI技 術研究組合はIBMの脅威に対する日本の半導 体メーカー、日本政府の官民共同の対策であ り、そもそも国内半導体産業の競争力強化を目 指したものであった。したがって、すぐさま製 品化された超LSI技術研究組合によるプロ ジェクトが成功で、製品化される見込みがない 第五世代コンピュータ・プロジェクトが失敗と は一概にいえない。研究開発プロジェクトを要 素技術の革新性の高低、応用のタイミングの遠 近に分けて考えると、成功プロジェクトと言わ れるものは、一般的に革新性が低く応用タイミ ングが近いところに分布しており、逆にそこか ら離れるに従って、結果は不満足なものと指摘 を受ける傾向があるが、このように時間が相当 程度かかり、リスクの大きい研究開発こそ政府 が積極的に行うべきものであろう。 (3)プロジェクトの変遷及び予算の推移(注 10) プロジェクトの期間は、事前検討に3年間、 プロジェクト本体に11年間(注11)、普及等に 2年間の計16年間となっている。 @ Pre FGCS Project (プレ第五世代コン ピュータ・プロジェクト) 第2節第1項の契機で触れたが、1979年度〜 1981年度の3年間は、日本情報処理開発協会に 大学、国公立研究機関、通商産業省、民間企業 等からなる第五世代コンピュータ調査研究委員 会を設け、全体プロジェクトの概要がまとめら れた。その結果が1981年10月第1回第五世代コ ンピュータ国際会議で発表され、内外から大き な反響があったことはすでに述べた。この時期 - 113 - には、政府の予算は計上されておらず、通商産 業省の外郭団体の日本情報処理開発協会が主催 する第五世代コンピュータ調査委員会に通商産 業省電子政策課や電子総合研究所のメンバーが 参加する形をとっていた。 1981年に調査費が計上されたため、通商産業 省は電子計算機技術開発調査委員会(委員長 元岡達 東京大学教授(当時))を設置し、機 械情報産業局長の諮問に応じて「第五世代コン ピュータ研究開発」に関する調査を行った。委 員会は計4回開催され、最終回の1982年2月24 日に第五世代コンピュータ・プロジェクトに関 する調査開発計画、調査開発内容及び波及効果 等を含んだ調査報告書を取りまとめた。この委 員会は、かなりの人間が前述の日本情報処理開 発協会が主催する第五世代コン ピュータ調査研究委員会と重なって おり、そこでの検討結果が、電子計 算機技術開発調査委員会にも反映さ れ、通商産業省の第五世代コン ピュータ・プロジェクトの調査研究 計画はオーソライズされた。 A FGCS Project (第五世代コン ピュータ・プロジェクト) 表1のとおり1982年度から初めて プロジェクト実施のための国家予算 が計上された。1985年度までは一般 会計のみであったが、1986年度から は、一般会計と特別会計の2本立て となった。1982年度から1992年度の 11年間は3期間に分けられ、それぞ れ、前期83億円、中期216億円、後 期242億円、合計541億円の国費が投 入された。 i) 基本技術開発(1982年度〜1984 年度:3年間) 第五世代コンピュータを構築するために必要 な基本的な要素技術の研究を行った。具体的に は、PROLOG をベースとした逐次型論理プロ グラム言語(ESP (Extended Self-Contained Prolog))、推論機構をハードウェア化した世 界初の逐次推理型コンピュータ(PSI (Personal Sequential Inference Machine)) とPSIの上に乗せられるESPで記述された世 界初の論理型言語によるオペレーション・シス テム(SIMPOS (Sequential Inference Ma- chine Programming and Operating System))、並列推論を実行する新たな並列論 理型言語(GHC (Guarded Horn Clauses)) 等を開発した。その成果は1984年11月の第2回 第五世代コンピュータ国際会議で発表された。 表1 第五世代コンピュータ・プロジェクトの予算の推移 FY 一般会計 特別会計 計 期別 1982 426,000 0 426,000 前期 1983 2,722,702 0 2,722,702 (1982〜1984) 1984 5,123,654 0 5,123,654 8,272,356 1985 4,779,480 0 4,779,480 中期 1986 4,500,950 990,121 5,491,071 (1985〜1988) 1987 4,051,129 1,580,000 5,631,129 21,630,636 1988 3,800,498 1,928,458 5,728,956 1989 3,722,365 2,760,606 6,482,971 後期 1990 3,464,800 3,478,197 6,942,997 (1989〜1992) 1991 3,083,433 4,080,399 7,163,832 24,181,826 1992 1,000,052 2,591,974 3,592,026 1993 0 1,388,072 1,388,072 1994 0 1,408,072 1,408,072 計 36,675,063 20,205,899 56,880,962 54,084,818 単位:千円 (出所)通商産業省の資料による - 114 - ii)サブシステム開発(1985年度〜1988年 度:4年間) 第五世代コンピュータの基盤となるサブシス テムの実現に用いるアルゴリズム、基本的な アークテクチャの設定を行い、これに沿って 小・中規模のサブシステムを開発を行った。具 体的には、並列推論用論理型言語(KL1 (Kernel Language Version 1))、KL1で記 述された並列マシン用オペレーティング・シス テム(PIMOS(Parallel Inference Machine Operating System))、複雑でかつ大規模な知 識を扱う知識ベース管理システム(Kappa (Knowledge Application Oriented Ad- vanced Database and Knowledge Base Management System))、64台の要素プロ セッサを接続ハードウェアで2次元格子状に結 合した並列推論実験機(マルチPSI)等を開 発した。その成果は1988年11月の第3回第五世 代コンピュータ国際会議で発表された。 iii)トータルシステムの開発(1989年度〜 1992年度:4年間) 前期、中期に研究してきた要素技術を基に、 第五世代コンピュータのプロトタイプ・システ ムを作ることを目標としている。具体的には、 1000台規模の要素プロセッサを結合した並列推 論マシン(PIM (Parallel Inference Ma- chine))、PIMOSの機能強化、並列データ管 理システム(Kappa-p)の開発等を行った。 また知識プログラミング・システムにおいて は、対話インターフェース技術の開発、問題解 決プログラミング技術の開発、知識ベース構築 利用技術の開発を行った。さらに、プロトタイ プ・システムの機能実証のため、並列プログラ ミング技術の集積と並列応用についての研究も 行った。並列推論マシン(PIM)上で稼働す るいくつかのアプリケーションソフトを開発し た。その成果は、1992年6月の第4回第五世代 コンピュータ国際会議で発表された。 B FGCS Follow-on Project (第五世代コ ンピュータ研究基盤化プロジェクト)(注 12) 1993年度〜1994年度(2年間)で、前掲の表 1のとおり28億円の国家予算が投入された。 当該プロジェクトは研究開発と第五世代コン ピュータ技術の広報・普及活動の二つに分けら れている。研究開発活動は、KLICと呼ばれ るUNIXベースの逐次および並列マシン上の KL1プログラミングの新しい環境を開発する 等である。広報・普及は、過去の研究開発で作 られたソフトウェアを『ICOT 無償公開ソフト ウェア(IFS)』として配布すること、イン ターネット上で研究開発活動に関する技術情報 を公開すること、等がある。これらは、1994年 12月に開催された第5回第五世代コンピュータ 国際会議で発表された。 3.第五世代コンピュータ・プロジェクト の組織と運営方法 全体のプロジェクト推進体制は図2のとおり である。研究開発に関わる費用は全額通商産業 省からの委託費でまかなわれている。 研究開発は、(財)新世代コンピュータ技術開 発機構内に設けられた研究所(1982年6月に開 設)が主体となって行われた。研究所長(兼財 団常務理事)となった渕一博氏(現所長内田 俊一氏)以外は企業等からの出向者で構成され ており、出向者は原則として3〜4年のロー テーションで入れ替えを行った。研究所では中 核的な研究開発を行い、ハードウェアの製造や ソフトウェアの製造等についてはコンピュータ メーカー等に再委託した。(財)新世代コン - 115 - 図2 第五世代コンピュータ・プロジェクト研究開発推進体制 (出所) 新世代コンピュータ技術開発機構の資料による ピュータ技術開発機構の組織は、図3のとおり 前期、中期、後期で異なっている。前期(1982 年度〜1984年度)は、研究員約30名3研究室で あったが、研究規模の増大により中期(1985年 度〜1989年度)は研究員約70名5研究室、後期 (1989年度〜1992年度)は研究員約100名7研 究室となった。 研究所各研究室の構成をみると(表2)、前 期・中期は、研究室長クラスに、通商産業省電 子総合研究所や日本電信電話公社(後に日本電 信電話株式会社)からの中立的な立場の出向者 をあてた。後期は、企業の出向者も室長を努め たが、その場合は前期・中期から(財)新世代コ ンピュータ技術開発機構に属し、能力の上で他 社の出向者からも一目置かれるような人材をあ てた。各室の主任研究員、研究員は、超LSI技 術研究組合のように室長の出身会社との関係を 特に考えず(注13)、所長の権限で適材適所を 旨として配置した。また、当プロジェクトは超 LSI技術研究組合のように短期的に各企業へ の成果の還元を迫られるものではなく、全員の 協力で一から作り上げられる雰囲気であった。 このようにして作られた組織は、特に融和を努 めるような対策を講じなくても、自然に研究員 同士の交流が盛んになり、情報伝達が円滑に行 われた。さらに、(財)新世代コンピュータ技術 開発機構は、超LSI技術研究組合でみられた メリットも理解し、大部屋制をとっていた。 以下では、(財)新世代コンピュータ技術開発 機構の研究体制についての利点を論ずる(注 14)。 @就業規則の柔軟さ 企業によっては、就業時間、特に残業時間に ついて強い枠がはめられているところがある。 - 116 -