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社会的影響

第五世代コンピュータプロジェクトが開始された頃には、日本のコンピュータ 産業が発展し、創造的な技術開発や国際貢献が期待された。さらに、 その波及効果として世界に通用する研究者の育成や、それによる日本の基礎研究 能力の向上なども期待された。

11年間の研究開発成果と、それを産み出す過程における国際的研 究活動の展開、およびそれらについての国際的な評価を振り返るとき、本プロ ジェクトは、このような期待の多くのものに応えることができたといえる。

「知識情報処理に適した新しいコンピュータ技術体系の確立」という未踏の技術 目標は、世界の若い研究者の知的興味とロマンを かきたてることに成功した。 また、その技術目標は、リスクの大きな創造的技術開発を基礎研究段階から 行うものであったことから、国のプロジェクトとして実施するにふさわしいもので あった。

その目標を達成するためには、多くの理論研究を必要とすると共に、 そのプロトタイプ実現の過程では、工学的な技術蓄積を必要とした。 本プロジェクトでは、理論研究と工学的技術開発とのバランスのとれた 運営に成功したといえる。

技術目標の魅力の高さと簡明さは、国際協力と貢献を行なう上での重要な条件で あり、これを満たしていたことから、国際協力も順調に進展した。 国際交流は、前期(昭和57~59年度)の研究者の個人 レベルの相互訪問から始まり、中期(昭和60~63年度)の定期的な2国間ワーク ショップの開催へと続いた。 このレベルで培った、草の根的な研究者間の協力関係を もとに、後期(平成元~4年度)に入ってからは研究用のツールを共用した 共同研究へと発展し、この段階で、政府機関を含む組織的な協力関係が確立した。

当初から研究内容を内外無差別に公表してきたことも、国際交流の活発化の 重要な要因であった。海外研究者の受け入れによる交流、ソフトウェアの無償 公開等、研究内容を目に見える形で公表してきていることは、今後の国が行 う研究開発のモデルとなるものと言える。

このような世界に開かれた研究環境のもとで、本プロジェクトに参加した 多くの研究者は、新しいコンピュータの理論やソフトウェア、ハードウェア技術を 発展させてきた。海外研究者との共同作業は、日常の研究活動の一部となり、 文化の違いや研究者の社会的環境の違いを乗り越え、世界に通用する研究者を 輩出するに至っている。

このような状況を把えて、フランスの国立研究所INRIAのジル・カーン博士は 「第五世代コンピュータ以前は、日本の技術は見えても研究者の顔は見えなかった。 しかし、第五世代コンピュータ以後は、ヨーロッパの研究者も、日本の研究者と の個人的な親交を持つことで、顔が見える状況となった。」と評している。

以上のように、本プロジェクトは、創造的な技術開発、国際貢献、および、 日本の基礎研究能力の向上など、その当初の期待に十分応え、 日本のナショナルプロジェクトのモデルを示し得たと考えられる。