近年,制約は,人工知能や論理型プログラミング,グラフィカルユーザーイン ターフェース(GUI)などの分野で利用され,様々な問題を扱うための強力な手 段として認識されている.そして,それぞれの分野において,対象とする問題 の性質に適した制約の理論や処理方式が盛んに研究されている.
GUI分野においては,特にThingLab II [4]で導入され た 制約階層 [1]が注目を集め ている.制約階層は,非単調な制約解消を行うための枠組で, 強さと呼 ばれる制約の優先度を用いて制約過多な制約の系の解を制御できる.直観的に, 制約階層の解は,強い制約をできるだけ多く満たし,より弱い矛盾する制約を 無視するように決定される.制約階層の最大の特徴は,局所伝播法と呼ばれる DeltaBlue [2]やSkyBlue [5]などの効率的な制約解消アルゴリズムが存在するこ とである.
このような状況を背景とし,昨年度,我々は「階層連立1次方程式のための効 率的解消系の開発」と題して,HiRise 制約解消系の設計・開発に関する研 究を行った.この研究では,我々がすでに提案していた 階層連立1次方程 式(hierarchical linear system) [3]という制約理論を 用いて,1次方程式からなる制約階層のための制約解消を実現した.この理論 とそのアルゴリズムは線形代数と線形計算を基礎としており,従来のグラフ理 論を基礎とする局所伝播法と異なり,1次方程式を適切に扱うことができると いう特徴を持つ.このため,従来の局所伝播法に基づく制約解消系を HiRise で置き換えることで,それを組み込んでいるシステムやアプリケー ションの信頼性を向上できた.また,制約解消をプランニングと実行の2段階 に分割し,さらにプランニング段階をインクリメンタルに処理することで,巨 大で複雑な制約階層に対して,局所伝播法より優れた効率を実現した.
本年度は,HiRise 制約解消系のブラッシュアップという観点から,次のよ うな改良と移植を目標とした.