(18) 移動ロボットの並列協調制御ソフトウエアの研究開発
研究代表者:溝口 文雄 教授
東京理科大学理工学部経営工学科
[目次]
- 研究の背景
- 研究の目的
- 研究内容
- 研究体制/研究方法
- 想定されるソフトウェア成果
本研究は移動ロボットの協調制御に焦点を当てる.これはロボティクスの分野
では必ずしも新しいものではなく,1980年代にも様々なアプローチが試みられ
た.特に,ロボットの協調作業のプログラムを汎用化するためには並列型のロ
ボット言語が重要であるとの認識から,セマフォを基本にした並行プログラミ
ングが行なわれてきた.
一方,ICOTで開発されたKL1言語は従来のセマフォによる言語に比べると,は
るかに記述力が向上している.また,Klic処理系の出現で,パソコンでのロボッ
ト制御プログラムが手軽に構築できるようになった.しかし,ロボットコミュ
ニティにおいてはKL1,Klicの認知度は低く,また,並列論理プログラミング
の研究者からのロボットへのアプローチもほとんどない.
研究代表者の溝口は,昨年から文部省科学研究費重点領域「知能ロボット」の
研究分担者になっており,ロボット研究者との交流が頻繁にできる状況にある.
この機会を活用して,ロボットコミュニティと並列論理プログラミングコミュ
ニティとの接点となり,KL1,Klicの普及に努めることが本研究の背景となっ
ている.
本研究は,KL1をベースにした移動ロボットの並列協調プログラミング方式を
提案し,KL1ないしはKL1を利用したロボット言語の有効性を明らかにする.並
列協調プログラミング方式とプログラム集を国内外のロボット系学会で発表,
デモし,KL1を広く普及させることに貢献する.また,開発したソフトウエア
を公開することで,ロボット研究者のためのツールとして利用できるようにす
る.このような研究発表活動を通じて,情報系のみならず,工学系研究開発者
にも並列論理プログラミングの応用可能性を広く認知してもらうことが本研究
の目的である.
移動ロボットのための並列・協調プログラミング言語/システムを開発するこ
とが研究内容である.言語処理系にKlicを使用し,ロボットの並列動作がKlic
上で直接記述できることを示す.さらに,並列動作の記述形式を一般化した上
で,ロボット用言語をKlicを親言語として設計・開発する.
従来ロボットの研究はハードウエアの設計が中心であったが,最近は研究用に
共通して使えるプラットフォームが存在している.特に,Nomad200(米国
Nomadic社)やPioneer(米国Real World Interface社)はAAAIのロボットコン
テストとして利用されており,汎用なものとなっている.本研究で開発する言
語/システムはこのようなロボットを対象にする.研究の具体的内容は次の通
りである.
-
- (1)
複数台のロボットの動作制御を統一的な形式で表現できるようにモデル化し,
それをKlic上で実現する.すでに研究代表者らは腕型ロボットの並列・協調プ
ログラミングシステムを開発した.これを移動ロボット用にチューニングする.
合わせて,ロボットとのインターフェース部分も開発する.
- (2)
ロボット間交渉モデルを設計し,実際の協調作業を通じて,モデルの有効性を
明らかにする.ロボットだけでなく環境に埋め込まれたセンサー系をエージェ
ントとして扱い,多様な交渉モデルに精密化する.交渉モデルはマルチエージェ
ントの研究ですでに提案されているが,いずれも抽象的で,本研究のように実
ロボットに適用した研究はほとんどない.
- (3)
Klic上の帰納学習システムによって,ロボット間の交渉をできるだけ最小限に
して,効率良い動作制御系を構築する.帰納学習に関して,研究代表者らは最
近Klic上の帰納学習システムGKS/Klicの開発に成功した.これは帰納論理プ
ログラミングの代表的システムProgol[Muggleton,1995]と同等の機能を有し
ているが,探索の並列化によって,効率化が図られている.また,腕型ロボッ
トでの帰納学習の効果もすでに検証済みで,この研究を移動ロボットにも展開
する.
- (4)
ロボット作業の高度化のために,インテリジェントオフィスを構築して,人間
−ロボットの協調系を試作して,本ソフトウエアの長所と限界を明らかにする.
移動カメラや視覚システムの連動で,道案内ロボットをコントロールするモジュー
ルをKlic上で実現する.
- (5)
以上の研究成果を国内外のロボット系学会に発表し,デモする.また,プログ
ラミング集やプログラミング方式のドキュメントを作成すると同時に,並列・
協調制御の研究のためにツール化して公表する.
(1) 研究体制
-
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氏名 |
所属 |
研究代表者 | 溝口 文雄 | 東京理科大学理工学部経営工学科教授 |
研究協力者 | 大和田 勇人 | 同講師 |
研究協力者 | 西山 裕之 | 同博士1年 |
研究協力者 | 平石 広典 | 同博士1年 |
研究協力者 | 高山 学 | 同修士2年 |
研究協力者 | 本多 啓一 | 同修士2年 |
研究協力者 | 前野 守宏 | 同修士2年 |
(2) 研究の方法
-
研究のステップと分担者の担当部分を示す.研究代表者は各ステップを管理し,
最終成果を統括する.
-
(1)前年度の委託研究成果である腕型ロボットの協調プログラミングを発展させて,
移動ロボット用に改良する.記述形式はほとんど同様で,移動ロボット間の制
御プログラムを開発する(担当者:大和田,西山).
-
(2)研究代表者らの移動ロボットのこれまで作成したプログラムをモジュール化し,
Klicで動作するように移植する.現在までに障害物回避と強化学習のプログラ
ムがあり,これをKlicで実現する(担当者:平石,高山,前野).
-
(3)Klic上の帰納学習システムGKS/Klicを移動ロボットの制御に適用し,効率的
な協調作業方式を実現する(担当者:大和田,本多).
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(4)``人間−ロボット系''に応用し,展示会などで実際にデモを行ない,システム
の性能を評価して,まとめる(担当者:大和田,西山).
(1)作成されるソフトウェア名称
移動ロボットの並列協調ソフトウエア
(2)そのソフトウェアの機能/役割/特徴
ソフトウエアの機能は次の通りである.
- (1)移動ロボットの動作記述からKlicプログラムへの変換.
- (2)ソナーセンサーやカメラ画像から得られる外部情報を利用した動的な障害物回
避.
- (3)強化学習による効率的な動作系列の生成.
- (4)ロボットの交渉過程を帰納学習して,一般な交渉規則を自動生成.
-
これらの機能のうち,(1),(2)は並列論理プログラミングの有効性を示したも
ので,従来のセマフォを中心としたプログラム記述を大幅に改善する例となる.
これはロボット研究者にとって,大きなインパクトを与えるものとなる.(3),
(4)は移動ロボットの知能ソフトウエアとしての役割を持つ.移動ロボットの
知能化は最新の研究課題であるが,知能化のためのモデリングや実験のツール
として利用できる.
以上から,本ソフトウエアは協調型の移動ロボット研究のインフラとなる言語/
ツールという特徴を持つ.
(3)ソフトウェアの構成/構造
Klic上で動作し,次の3つのサブシステムで構成される.
- (1) 動作記述言語処理系
- (2) 障害物回避,強化学習モジュール
- (3) 帰納学習システム
このうち(1)と(2)は新規に開発するものである.(3)は最近開発に成功したば
かりで,ツールとしての機能はほとんどサポートされていない.これを充実さ
せたものを成果ソフトウエアとして提供する.
(4)参考とされたICOTフリーソフトウェアとの関連
Klic
(5)使用予定言語および動作環境/必要とされるソフトウェア・パッケージ/ポータビリティなど
-
使用言語:Klic,Java
動作環境:ソフトウエアはWindow95,SunOS,Solarisで,
ロボットはNomad200(米国 Nomadic社),
Pioneer(米国 RealWorld Interface社)上で動作.
(6)ソフトウェアの予想サイズ(新規作成分の行数)
-
ロボット言語処理系 : 8,000行
移動ロボット制御モジュール: 6,000行
帰納学習システム : 3,000行
Javaインターフェース : 5,000行
(7)ソフトウェアの利用形態
-
NomadやPioneerなどの移動ロボットのシミュレータとして利用できる.これら
のロボットにはシミュレータが附属しているが,基本的には単一ロボットでの
利用を想定している.一方,本システムは複数台ロボットのシミュレータとなっ
ている.また,ロボット言語に基づく動作記述によって,プログラマブルな環
境になっている.さらに,Javaによるグラフィカルユーザインターフェースに
よって,メニュードリブンで,しかもリモートによる制御が可能で,利用者に
とっては様々な実験ができる環境となっている.
(8)添付予定資料
www-admin@icot.or.jp