平成9年度 委託研究ソフトウェアの提案 |
(a) ルール間優先順位に基づく推論機構:法的推論における論証では、いわゆる法 律の条文を形式化した規則と、個々の事例における事実が一階述語論理の範囲 で記述されるほか、規則間に優先順位が設けられ、これに基づいて複数の論証 の間での優劣が問題にされることがある。たとえば、
r1
(X): t(X) → u(X).
r2
(X): t(X) → ¬u(X).
f1: true → t(a)
というMG節集合は充足不能であるが、
p1 (X) : t(X) → r1 (X)>r2(X).
という優先規則(r1 (X)>r2(X) は、ルールr1(X) が r2 (X) に優先されることを表す)が追加されていれば、 A:{t(a),u(a)}なるモデルがあって充足可能となる。 p1(X) の代わりに
p2(X): t(X) → r1(X)<r 2(X).
なら、B:{t(a),¬u(a)}
なるモデルがある。見方を変えると、優先規則がない場合、
A,Bの対立する帰結集合が矛盾して全体として一定の結論が得られないのだが、
優先規則が加わると、A,Bの間に優劣が定まり、全体としては優位な方の帰結
を選ぶことができる、ということである。
法的推論においては、対立するA,Bの論証がそれぞれある規則と事実の集合に
基づいてなされるとき、AとBとで使われた規則の優先順位によって勝負を判定
する、という具合に用いられる。
ここでは一つの実装方式として、MGTP上でNAFを実現する際に用いられた技法
の適用が考えられる。たとえば、規則
r1(X),r2(X)
に優先順位が与えられる可能性がある場合、
p(X) → Kr1 (X);Kr2(X)
のように、予め r1(X) を適用可能とする場合と r2(X) を適用可能とする場合に場合分けを行うような規則を導入する。 Kr1(X) の場合の論証課程で、 rn(X)>r1(X) のような優先順位が実際に加えられると、この論証は成立しない(勝てない)ことが わかる。これは、
KR(X),R'(X)>R(X) → false.
のようなスキーマによりモデル候補を棄却することで実現される。このような、 MGTP実行時における論証検査機構の実装のほか、静的に定まる規則間優先順位 を予め適切なMGTP入力節で表現しておく(コンパイルする)ための記述変換ツ ールの実装についても検討を行う。
(b) 探索制御機能の拡張:組み合わせ最適化問題や、一般の探索問題などを扱う 際、解の候補を動的に選別/棄却する等の機能が不可欠である。このため、MGTP に対して、(イ)個別に探索される複数の解候補(モデル候補)を比較するため、 枝分かれの際に各分枝に評価値を付与する機構、(ロ)モデル候補間の通信機 構、(ハ)評価関数に基づくモデル候補棄却規則の導入、などの拡張を行う。 これらの機能の組み合わせにより、α-β法などのアルゴリズミックな探索技 法の記述を行うことができるようになる。
(c) ヒューリスティック探索の機構:上記、探索制御のほか、遺伝的アルゴリズム
(GA)の手法の導入を検討する。我々は、GAの計算機構が、MGTPと同様に閉包計
算を基本とするという点にまず着目した。
ただし、我々は、一般の定理証明システムにおいて従来アドホックに行われて
いた証明探索技法(項に対する重みづけと、それに基づく削除/整列化戦略な
ど)を、より系統的に扱うことを目的としており、その枠組としてMGTPの推論
機構自体との相性が良さそうなGAを導入するのである。
具体的には、たとえば、MGTPのモデル候補中の帰結アトムを個体とみなし、こ
れに対する、(1)染色体、遺伝子のデザイン、(2)交配、突然変異の定義、(3)
適応度関数の定義、をユーザが与えるものとする。これらは、所与の問題の意
味を良く理解しているユーザが、MGTPの試行を通じて得ることのできる「解へ
の近さ」に関する直観をコーディングし、これに基づいて探索を絞り込むため
の機構を(あくまでヒューリスティックではあるが)形式化したものにほかな
らない。
我々は、定理証明のベンチマークであるTPTP問題集から、condensed detachment
と呼ばれるクラスの問題を選び、すでにいくつかの予備実験を行っている。そ
の結果、極めて簡単な遺伝子設計と適応度関数を与えた場合でも、半数あまり
の例題で、これまで有効とされていたアドホックな探索技法より短い証明が得
られた。
本研究では、より複雑な遺伝子コーディング設計のための支援(たとえば、ア
トムではなくモデル候補を個体とみなす、など)、を検討し、MGTPへの付加モ
ジュールおよび支援ツールの開発を行う。
氏 名 | 所 属 | |
研究代表者 | 長谷川隆三 | 九州大学大学院システム情報科学研究科 |
研究協力者 | 藤田博 | 九州大学大学院システム情報科学研究科 |
研究協力者 | 越村三幸 | 九州大学大学院システム情報科学研究科 |
研究協力者 | 井上勝二 | 九州大学大学院システム情報科学研究科 |
研究協力者 | 高井真志 | 九州大学大学院システム情報科学研究科 |
研究協力者 | 中田健浩 | 九州大学大学院システム情報科学研究科 |
研究協力者 | 中山英俊 | 九州大学大学院システム情報科学研究科 |
研究協力者 | 永重務 | 九州大学大学院システム情報科学研究科 |
研究協力者 | 新田克己 | 東京工業大学 |
研究協力者 | 井上克已 | 神戸大学工学部 |
(1)並列分散化機能:深さ優先探索を行う逐次アルゴリズムを使用PE台数分走行 させることにより通信量を大幅に削減し、汎用並列マシン上でのMGTPの高速実行 を行う機能。知的バックトラックやフォールディングアップといった逐次実行で 探索空間削減の効果のある機構に対しても、その効果を保持しつつ並列化を可能 とする。
(2)ルール間優先順位に基づく推論機能:ルール間に導入された優先度に基づい て推論を行う機能。ルールAがBより優先度が高い場合、一つの論証でAとBの両方 が用いられることはなく、Aが用いられる論証ではBは用いられない。これにより 論証間の優劣を判定することができ、法的推論などで必要とされる論駁が可能と なる。
(3)探索制御機能:解の候補を動的に選別/棄却するためのモデル候補間通信や 解の評価関数の記述に基づく探索制御を行う機能。これによって、α-β法や mini-max法などのアルゴリズミックな探索制御が可能となる。
(4)ヒューリスティック探索機能:MGTPのモデル探索過程にGA的ヒューリスティ ック探索制御を導入し、準最適解(モデル候補)を求める機能。解空間の生成は MGTP入力節で与え、準最適解の探索制御はGAに基づく。ユーザはGAの枠組(遺伝 子のデザインや交配などの定義)を用いて、探索ヒューリスティクスを指示する。
(5)GUI機能:前提やルールを対話的に追加・削除したり、推論を一時中断/再開 する機能。これによって対話的推論が可能となる。また、論理的帰結に至った推 論過程を説明する機能や帰結に関連しない(冗長な)推論を削除する機能も有す る。
推論部は、図の右側の箱で示されるように幾つかのモジュールから構成される。 下の破線の箱の部分が基本となる部分で、これは、既に作成済みのツール群から なる。これと上の実線の箱の部分の新規作成モジュールとの組合せによって各種 機能を実現する。
(a)既作成ソフトウェア
MGTP基本推論部が推論部の核となる部分である。この
部分は、新規作成モジュールと結合することにより、新しい機能を付加できるよ
うに変更する。既作成ソフトウェアで変更が必要なのはこの部分だけである。前
処理部(節変換部、NHM変換部)は、一つのコマンドとして提供され、項メモリ部
と補題生成部は、推論高速化のために基本推論部で使われており、適宜新規作成
モジュールからも利用される。
(b)新規作成モジュール
並列分散化モジュール、ルール間優先推論モジュー
ル、探索制御モジュール、ヒューリスティック探索モジュール、からなる。並列
分散化モジュールの使用によって、共有メモリ・分散メモリのアーキテクチャの
違いは吸収され、推論部はこれに関知しなくてすむ。このモジュールだけMGTPか
ら切り離しての利用が可能で、他のソフトウェアからも並列分散化ユーティリティ
として利用できる。
(4)参考とされたICOTフリーソフトウェアとの関連
(5)使用予定言語および動作環境/必要とされるソフトウェア・パッケージ/ポータビリティなど
(6)ソフトウェアの予想サイズ(新規作成分の行数)
(7)ソフトウェアの利用形態
(8) 今年度末の仕上がり状況
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