我々は論理と確率、計算と学習を融合し学習により振舞いを変えて 行く適応的なプログラミングの世界の実現を目指している。 具体的 には論理プログラムのファクト集合に確率分布を割り当て実世界の具 体例によりその確率分布を学習する事によりプログラムに所望の振舞 いをさせる事を狙う。
適応的な論理プログラムは不確実な情報も適切に扱う事の出来る高 度な知識処理システムのための知識表現言語となると共にその組み込 みの学習能力を通じてエージェントなど複雑多様なモデルの実現にも 役立つと考えている。また大量のデータを使った学習の結果得られる 学習済み確率分布からはデータに隠されている規則性をルールとして 抽出するチャンスが生まれよう。これは新しいルール発見の道であり 並列処理による効率的処理が望まれる場面でもある。
適応的な論理プログラムの意味論的な枠組としては確率論と論理プ ログラムの最小モデル意味論を融合させた「分布意味論」がある。分 布意味論では最小モデルを成分が 0 または 1 の無限次元確率ベクト ルの実現値として捉える。分布意味論は HMMやベイジアンネットワー クなどの既存の確率的システムを包含し、それらの統計的学習法を与 えるだけではなく、学習した分布からのルールの抽出を通じて帰納的 処理(学習、発見)と演繹的処理(計算)を融合させている。我々は 小規模な実験を通じて分布意味論を統計学のEM学習アルゴリズム及び ニューラルネットワークのボルツマンマシンの学習アルゴリズムと組 合せ実際に学習が可能である事を確かめている。
本プロジュクトでは計算と学習を融合した全く新しいタイプの計算機 言語 PRISMの研究・開発を行なった。 PRISMは統計モデ ルを記号レベルで記述する道具であるばかりでなく、統計学のEMアル ゴリズムを応用した学習機構を内蔵し、観測データ(命題)をよりよ く説明するように、 理論(プログラム) のパラメータを観測データ から学習する能力を備えている。 実際 PRISMプログラムは丁度 人間に動脈と静脈があるように実行系と学習系の二つを持ちそれらが 協同することによりプログラムの振舞いを環境に応じて徐々に変えて 行くことが出来る。