法的推論とは法律家が問題を解くときに用いられる推論のことである. 法律の ルールは曖昧な概念を含み, また, ルール間に矛盾を含むので, 法的推論は帰納 推論や非単調推論や仮説推論や類推などの高次推論によりモデル化されてきた.
われわれは第 5世代コンピュータプロジェクトおよびその後継プロジェクトに おいて, 法的推論システムNew HELIC-IIを開発した. このシステムの中核をなす のは, Ψ項とH項からなる知識表現言語であった. New HELIC-IIは, 法的論争を模擬する数少ないシステムとして,AI & Lawの 国際会議において非常に注目された.
しかしながら New HELIC-II の知識表現言語には幾つかの問題点があった. その1つ は, 知識表現言語としての表現力の不足であり, もう1つは否定や優先関係につ いての意味論の不明確性である. 前者の表現力の不足については, ICOT時代から 懸案事項となっていた(1)状況表現ができない, (2)H項の意味論が不完全である, (3)時間情報の記述が出来ない, の3つが特に問題となっていた. また, 後者に ついては, 2種類の否定(classical negation, negation as failure)に関する 2種類のコンフリクトと, ルールの優先情報との関係が明らかでなかった. その ため, New HELIC-IIの知識表現言語をベースにしたの論争モデルの性格もあいま いであった.
そこで本委託研究では, 以下の2つを目的とした研究を行った.
(1) 法的推論システムのための知識表現言語の開発
表現力を強化した知識表現言語を開発する.具体的には,素性構造, 型階層, 仮説推論等 の拡張と状況の導入を行う. また, 項の意味として, それが一時性・一回性のイベントであるのか, あるいは恒 久的なプロパティであるのかの区別を可能にする.
(2) 法的論証構築支援ツールの開発
2種類の否定に起因するコンフリクトと,優先情報との関係を明確にした拡張論理型プログラミング言語を開発し,それに基づいた論証構築支援ツールを開発する.