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研究の成果

研究上の成果

法律文では法律文特有の表現が多く用いられ、それぞれが一つの法的概念を表 している。そのような表現は一般に複数の語から構成されるが、それらを法律 文における「相当語」として 1 語として扱うべく、調査・分析を行った。現 時点において、約 800 の相当語について、品詞や他の形態素との接続関係と いった形態素情報を設定した。また、317 の述語について、法令用語としての 用法における格パターンを定めた。設定した格関係名の種類は 29 である。さ らに、4 階層からなる簡単な法令用語シソーラスも作成した。

法的規定を行うという機能上、法律文の要件や効果は非常に重要な構成単位で ある。本研究では、要件部や効果部からなる法律文の文構造を要件効果構造と して調査・分析し、法律文制限言語モデルの文法規則として組み入れた。現時 点における文法規則数は約 70 である。

以上のように構築した法律文の形態素、文法に基づき、JUMAN 、SAX をベース とした法律文解析システムを作成した。要件効果構造に基づく文法としたこと により、法律文が規定しようとする内容、すなわちその法律文の意味に密接に 関係した構文構造を抽出することができた。

本研究に関する外部発表論文を次に示す。

  1. 平松寛司,永井秀利,中村貞吾,野村浩郷: 要件効果構造に基づく法律文制限言語モデルと法律文解析, 1996.9,情報処理学会研究報告 96-NL-115,pp.21--27
  2. 一柳剛,永井秀利,中村貞吾,野村浩郷: 法的事象の論理構造表現からの法律文生成処理 1996.10,第49回電気関係学会九州支部連合大会,pp.703
  3. 平松寛司,永井秀利,中村貞吾,野村浩郷: 要件効果構造に基づく法律文統語構造解析, 1996.3,情報処理学会研究報告 96-NL-118

ソフトウェアとしての成果

本研究では、制限言語開発支援環境を作成した。これは、本研究で作成した、 制限言語開発を助けるツールや解析システムを実行したり結果の確認をしたり する作業を支援するための GUI による統合環境である。GUI 部分は Tcl/Tk を用いて作成されている。現時点において完成している支援環境は、まだプロ トタイプ的要素を残しており、公開に向けて、さらなる改良を進めている。

 
図 --1: LIPS-Tools の実行画面イメージ

法律文制限言語モデルに基づく法律文解析システムは、制限言語開発によって 作成できるシステムのサンプルであると同時に、法律研究者や学習者が活用で きる応用システムでもある。同様に、法律研究者や学習者の要に供することが できる応用事例として、WWW のブラウザを利用した法律文ブラウジングシステ ムや、英語版と日本語版とが存在する国際法において、両言語間の対応付けを 行うためのタギング支援システムを作成した。

ソフトウェア公開時点の見込みでは、プログラムおよびデータサイズは 13000 行程度、ドキュメントはユーザーズマニュアル、ソフトウェア仕様書、法律文 制限言語解説となる予定である。

残された課題

まず第一に法律文制限言語モデルの改良をさらに進める必要がある。法律文は、 入り組んだ並列構造を持つような非常に長い文が多く存在し、これが解析失敗 の大きな原因になっている。法律文の並列構造の特徴分析は行ってはいるが、 まだ文法に十分に組み入れてはいないため、早急にこれを組み入れる必要があ る。また、法的事象を記述した論理表現から法律条文の生成を行う実験システ ムの試作も行ったが、能力的にまだ不十分であり、研究をさらに進める必要が ある。

制限言語開発支援環境についてもまだ最初のバージョンであり、ツールの追加、 操作性の向上など、改良の余地を多く残している。利用者の声を採り入れなが ら今後も改良を続け、改良がある程度まとまるごとにバージョンアップさせて いく予定である。

(自己)評価

法律文の要件効果構造の分析結果に基づく文法の構築と、それに基づく解析シ ステムの実現により、法律文の法的論理構造に密接した構造を得ることができ るようになった。これは高度な法律文言語処理システム開発に非常に有用なも のであると考える。その開発過程で得たノウハウは他の制限言語開発において も応用できるものである。このノウハウを組み入れた制限言語開発支援環境の 作成により、制限言語開発の作業の流れをスムーズにすることができる。これ は高度言語処理システムの実現促進への助けとなると言える。



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