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研究の成果

研究上の成果

前節で述べた方針と拡張言語の上で、VRPの導入とそれに伴うSIC処理方式の再 設計を行い実装した。VRP実装上のポイントを説明するために、前年度に行っ たGDAアルゴリズムの基本動作を説明しておく。GDAアルゴリズムでは、(類似 性を表記する)ソート(概念語)の分割が構成する束を原理的な探索空間と考え、 「すべてのソートを非類似とみなす」ボトム分割から出発し、「すべてのソー トを類似とみなす」トップ分割に向かって、GDA条件、すなわち、ゴールの証 明に使われた整合節を抽象化において保存し、かつ、SICを満たすものをボト ムアップに検出する生成・検査法であった。その際、GDA方式が固有にもつ 「枝刈規則を上向き」に活用していた。すなわち、下位の分割がGDAの条件を 満たさないときはそれより上位の分割もしかりである。

一方、VRPは「より上位の分割がVRPを満たさないときは、それより下位の分割 もVRPを満たさない」という重要な性質を持ち、GDAの枝刈規則とは全く相対な 「下向きの枝刈規則」が成立する。

こうしたVRPの性質を前面に打ち出して、生成・検査法の生成部をトップダウ ン方式に変更することも可能ではあるが、既に開発したソフトウエア資産の有 効利用の観点から、分割生成は前年度と同じくボトムアップ法だが、

VRPを満たさない分割から、VRPを満たす分割まで一気にジャンプする生 成法を設計した。

ここで分割のジャンプは分割のボトムアップな生成順序を乱すことから、分割 の生成手続きを簡素化する必要性が生じ、最初からSICを満たす分割のみを生 成する方式に変更した。

(1) ソート階層における極小ソート( リーフと呼ぶ)のみの集合の分割に よる探索を行ない、代替可能性を満たした分割についてのみ、各同値類に非極 小ソート( 非リーフと呼ぶ)を付加して、分割生成を行なう。上記の 非リーフの付加に際しては、その同値類の中にすべての下位のリーフを含むも ののみを付加する。

(2) 上記の非リーフの付加に際しては、その同値類の中にすべての下位のリーフを 含むもののみを付加する。

(3) VRPは分割の束を探索する際、極小のVRPを満たすすべての極小の分割まで探索 をスキップするものである。しかしがら、SIC処理では、まず、リーフのみの 集合の分割の束を探索しているため、VRPの制約に非リーフが現れている場合 に対処できない。そこで、VRP処理部では、VRPの制約内の非リーフ部分のすべ ての下位リーフを含む同値類を持つ極小分割までスキップするように変更した。 一方、SIC処理部では、スキップした先の分割に非リーフを加える際、まず、 VRPの制約に出現していた非リーフを付加し、この分割が代替可能性を満たし た場合のみ、通常のSIC処理、すなわち、非リーフの付加を行なう。

なお、外部発表論文リストを以下に示しておく。

ソフトウエアとしての成果

平成7年度版では、リリースはKLIC版とし、推論エンジンを自前で備えないG DA計算部分の単体をリリースした。このため、推論エンジンが計算する必要の あるすべての問い合わせに対しあらかじめ全解探索しておいて、その結果を GDAシステムに入力する必要があった。実験用の小規模な例題でなく、比較的 大きな問題になったとき、このような方式は必ずしも現実的ではないと思われ る。そのためインタラクティブに推論モジュールを呼び出すことを可能にする 変更を行った。本研究において、以下の2点による現実的な理由から、すべて のリリースされるモジュールをPrologで記述することとした。

(1)実験のために自前で準備している推論システムはPrologで記述されている。

(2)一般的にもKLICに比べて、容易に実験用推論モジュールを記述可能であると予 想される。

このProlog化によって、実験用ではあるが、推論モジュールも添付されるため、 フリーソフトウエアとして入手したエンドユーザがトータルシステムとして直 ちに利用可能となる。すなわち、順序ソート論理の処理系も提供されるため、 エンドユーザに対して大きな便宜が図られることとなった。

なお、ソフトウエアのプログラムサイズとドキュメントの種類は以下の通り。

プログラムサイズ:2200 ステップ(Prolog)

ドキュメントの種類:使用手引書
          機能概要/構成仕様書

残された課題と自己評価

本年度の研究目標は,(A)高度知識表現言語に向けたGDAアルゴリズムの再設計 と実装,および(B)領域知識の批判的吟味アルゴリズムの設計と実装,の2点に あった.(A)に関しては,本「成果概要」に述べたとうりであるが、旧仕様の ソフトのメンテナンスをしながら、同時に、古い仕様と相容れない新たな機能 追加と設計変更を余儀なくされ、研究的な側面を濃厚に持つソフトウエア開発 の「ちぐはぐさ」を感じている。

一方課題(B)において、GDAアルゴリズムが不自然な類似性をユーザに提示した 場合、逆に領域知識の不完全さを検出し知識それ自体を詳細化する手法を試み た。残念なことに現時点では少なくとも十分なレベルまで深まっていない。課 題を実現するための原理的な手法は既に提示し、これを課題(A)の枠組みに適 用するための見通しも既に得ているのにかかわらずである。これは、GDAアル ゴリズムにおいて行ったような原理的手法に意味的整合性と効率面の向上をも たらすような新たな仕掛けに関する良いアイデアをいまだ得ていないことに原 因がある。

さらに残された重要な課題を述べれば、GDAと論争システムに関する課題があ る。これは、論争相手が提示した先例参照とその根拠となる類似性に対し、類 似性のカウンターケースをGDAにより検索し、相手にぶつけ反論する手法であ る。これに関しては、萌芽的論文を投稿中でもあり、別の機会に述べることに する。実装と方式の改良もこれからである。

最後に、実験結果について記しておく。

環境 SparcStation 20 (SICStus-Prolog 3)
試験データの規模
節 : 18
ソート : 20 (うち 極小ソート11)
分割総数 : 約
SICあり探索空間 : 約
ロール制約数 : 7

 
表 --1: 実験結果



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