平成7年度 委託研究ソフトウェアの提案 |
本研究で開発する日本語解析ツールは,日本語の形態素解析と構文解析を行な うシステムであるとする.これは,両者に対する既存の優れた解析アルゴリズ ムがあるからである.これまでの形態素解析と構文解析とは別個のフェーズで 行なわれていた.まず日本語の形態素解析を行ない辞書引き可能な形態素を抽 出してから構文解析を行なうものであった.形態素解析では形態素の接続可能 性を調べるための接続表を使い構文解析では文脈自由文法をベースにした解析 アルゴリズムを使うので,接続表に含まれる制約と,文脈文脈自由文法で表さ れる制約とを同時に用いることが不可能であった.
これら二つの制約を同時に利用可能であれば,無駄な解析結果を早期に避け効 率の良い解析を行なうことができる.我々はそのための新しいアルゴリズムを 開発している.それによれば,これら二つの制約を同時に用いて形態素解析と 構文解析とを同時に行なうことができる.二つの解析過程を完全に融合するこ とが可能になるのである.本研究の第二の目的は,この新しいアルゴリズムを 組み込むことにより,そのの有効性を大規模な日本語辞書(EDR辞書)を用いて 実証することである.
第三の目的は日本語文法の設計を容易にするユーザインタフェースを日本語解 析システムに開発することである.
本研究で開発する日本語解析ツールでは並列処理に適した解析アルゴリズムを 開発する.このアルゴリズムのKLICでの記述可能性を検討することも本研究の 第四の目的である.
ところが我々は最近,LR表に形態素間の接続表に関する制約を組み込む新しい 方法を開発している.この方法によれば,LR表には文脈自由文法の制約と接続 表の制約とが同時に含まれていることになる.このLR表を用いて,一般化LR法 に基づく解析を行なえば,形態素解析と構文解析とを完全に融合することがで きる.この新しい方法によれば一般化LR法という一つの解析アルゴリズムを用 いて形態素解析と構文解析とを同時に進めることができるので効率的な解析を 行なうことができる.本研究ではこれらを組み込んだ効率の良い日本語解析用 ツールを,EDR辞書をベースに構築する.
このときの一つの問題は,一般化LR法で用いるLR表生成アルゴリズムの生成速 度が,文脈自由文法規則の数が増えるにつれて極端に遅くなることである.ち なみにATRで開発したLR表生成システムでは,三千弱の文脈自由文法規則のLR 表生成を行なうのに,20MIPS程度のワークステーション上で数日動作させても LR表の生成ができなかった.本日本語解析システムをツールとするためには, それに組み込むLR表生成プログラムが十分高速でなければならない.われわれ は,ATRのLR表生成プログラムが低速である理由を検討しており,中間段階で できるデータ構造を変えることで,十分高速なLR表生成が可能であるとの見通 しを得ている.本研究で開発する日本解析システムには,このLR表生成アルゴ リズムを組み込む.そして,LR表に形態素間の接続表の制約を組み込むアルゴ リズムを開発する.
最近LR表に接続表の制約を組み込むことで,LR表中のある指令をつぎつぎに削 除し,LR表から無用な指令を消し,LR表をコンパクトにするとともに,このLR 表を用いた解析の効率を向上させる方法を開発した.これは制約伝播法と我々 はよんでいる.制約伝播法の,LR表への組み込みアルゴリズムの,LR表生成プ ログラムへの組み込みを行なう.
一般化LR法は横型探索法をベースにしている.そのために並列計算が可能であ り,その有効性は昨年までのICOTの委託研究により明らかにされている.本研 究で開発する日本語解析システムをKLICを用いて記述することも検討する.検 討結果により,2年度に実装を行なうためにICOT委託研究への応募する.
最後に,日本語解析システムのツールとしての使用を容易にするためのユーザ インタフェースを開発する.
(2)そのソフトウェアの機能/役割/特徴
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