(11) 異種分散協調問題解決系 Helios の協調作業への応用の研究
研究代表者:横田 一正 助教授
京都大学 大学院 工学研究科 情報工学専攻
[目次]
- 研究の背景
- 研究の目的
- 研究の内容
- ソフトウェア成果
知識情報処理など応用の複雑化に伴って、応用システムもますます高度にかつ
複雑になっている。このために検討しなければならない問題点として
- 既存のソフトウェアをいかに再利用するか?
- 異種のプログラミング言語やパラダイムに基づいたプログラム/システムを
いかに協動させることが可能か?
などがある。この解決には2つの意味がある。ひとつは、コンポーネントウェ
アのようなソフトウェア工学的なアプローチは特定のドメインを前提にした同
種ソフトウェアの再利用しか考えていないことが多いのでそれを拡張すること、
ふたつ目は、応用自体のモデリングで異種の問題解決器を組み合わせる必要性
がある場合も対象にすることである。
FGCS 基盤化プロジェクト
ではこのような問題に対処するために、複数の制約解消系、データベースシス
テム、知識ベースシステム、応用プログラムなどの問題解決器を協調させるた
めに異種分散協調問題解決系 Helios を研究開発し、現在
ICOT フリーソフトウェア
- 89: 異種分散協調問題解決システム
として公開している。しかしこのシステムはまだ大きな問題点を抱えている。
Helios の目指した、分散環境で異種の問題解決器を協調させてより大
きな問題を解決させるという方向は、今後の情報処理の流れの中で大きな流れ
を示している。とくにネットワーク環境の爆発的な進展によってこの流れはさ
らに加速されるだろう。
FGCS 基盤化プロジェクト
で研究開発が始まった Helios は、よりはっきりした成果を出すため
に、さらに地道な研究努力を継続する必要がある。本研究提案はそのような研
究開発の一環である。
現在
ICOT フリーソフトウェア
として公開している Helios システムには以下のような大きな2つの
問題点がある。
- 研究開発期間が短かったためにシステムとしてのみならず仕様面においても
未熟な点が多い
- 大きな応用への適用例がなかった
ここで提案する研究では、Helios の有効性を検証しその可能性と改善
点を探るために、この後者の研究を行なうことを目指している。
Helios は高い理念を有しながらも、n-queen や会議スケジュー
ルシステムのような小さな応用でしか有効性を検証してこなかった。また研究
開発期間の短さからシステムとしてのみならず仕様面においても ICOT フリー
ソフトウェアとしては未熟な状態にある。
一方、京都大学(上林研)
では CSCW (計算機支援協調作業) + データベース (DB) の研究開発とし
て、遠隔教育、遠隔会議、遠隔オフィスなどを対象にした VIEW (Virtual
Interactive Environment for Workgroups) システムの応用開発を行なってい
る。しかしこれは分散 Smalltalk を使い、同種オブジェクトの協調を研究対
象にしている。DBシステムに基づく CSCW は必然的に異種システムとならざる
をえない。
この CSCW + DB は Helios にとって魅力的な応用であり、また VIEW
にとっても Helios は魅力的なプラットフォームでもあるので、本研
究では両者の合体を検討する。VIEW のいくつかのサブシステムを例題として
採り上げることによって Helios の大規模応用として協調作業空間を
考え、Helios の有効性を示すとともに、今後の必要機能を明確にし、
Helios の改良版への試作を行なう。本研究で実施する研究内容は閉じ
た応用ではなく、オンラインユニバーシティ (京大、阪大、早稲田大、など)
などのさらに大規模な応用とも内容的に関連した魅力的なものとなるだろう。
ICOT フリーソフトウェア
として公開されている
異種分散協調問題解決系Helios
は、知識情報処理などの高度で大規模な応用システム構築のた
めの有効な手段を提供している。以下のような機能をもっている。
- 異種の言語で記述されたさまざまな問題解決器 (制約解消系、データベース
システム、知識ベースシステム、応用プログラム、など) をエージェントと
して統一的に扱う。
- 各問題解決器はカプセル化され、それぞれの輸出入の機能はメソッドとして
抽象化する。
- 各問題解決器間の型の違いはエージェント化の際のカプセル (皮) によって
変換が定義される。これは皮定義言語として提供される。
- 複数のエージェントが共存する場を環境と呼び、エージェントが共有する型
情報やオントロジーなどの大域情報を持つ。これは環境定義言語として提供
される。
- エージェント間の情報のディスパッチのために、各エージェントの定義情報
からその環境内で大域的なディレクトリを作成する。
- 問題解決は各エージェントが未解決問題を環境経由で他エージェントに輸出
しあうことによって進む。このときのエージェント間の協調プロトコルはト
ランザクション概念に対応しており、その協調方略は各エージェントで自由
に定義することができる。
- エージェント間の同期は、環境がそれを行う場合とメッセージ自体に同期情
報が埋め込まれ対応するエージェントがそれを行う場合がある。
- 環境とそこで互いに協調するエージェント集合はひとつの問題解決器と考え
られるので、それをまたエージェントとして定義することができる。
しかし現実には、研究開発期間と設計開発労力の不足から多くの点で妥協を強
いられ、現在公開されている版は利用者が定義する皮言語や環境言語は低レベ
ルのものしか提供されてなく、またトランザクションの基づいたプロトコルも
提供されていない。
ここで提案する研究開発は、現実の大規模な CSCW という応用を分析すること
により、再度 Helios の要求仕様をまとめ直し、皮言語、環境言語、
プロトコル、方略記述などの仕様を再度定義し、そのシステムを試作すること
にある。そのために現在 京都
大学 (上林研) で大規模に研究開発している CSCW システムのサブシステ
ムを Helios 用に修正し、改善された Helios の試作システム
上に構築することを目標にしている。ここでの研究のポイントは以下の通りで
ある。
- 本来異種分散協調システムであるべき CSCW を、
Helios の構想の上でまと
め直し、問題点を整理する。上林研のシステムのみならず現在のほとんどの
CSCW システムは同種問題解決器を前提にしている。
- Helios が上記のような大規模な応用に対して有効かどうか、その基本機能
から全体構成、さらにその実装モデルまでも再検討し、問題点と改善点を洗
いだす。
- Helios と応用との両面からの検討に基づき、Helios 改善版の試作システム
の上に CSCW システムのいくつかを実装し、さらに今後の Helios の研究開
発のための問題点と改善点を整理する。
(1)作成されるソフトウェア名称:VIEW for Helios
(2)そのソフトウェアの機能/役割/特徴
ICOT フリーソフトウェアとして公開されている Helios は、異種言語
で書かれ異種マシン上で動くソフトウェア (データベースシステム、知識ベー
スシステム、制約解消系、応用プログラムなど) を互いに協調させることによっ
て、より大規模で複雑な問題を解決することを目指している。本研究の VIEW
for Helios は、ネットワークでつながれた Sun Sparc や PC 上で動
作する CSCW (計算機支援協調作業) システムである。中核システムは上記
Helios の改善版で、応用部分は 京都大学 (上林研) で研究
開発している VIEW システムのいくつかのサブシステムを予定している。
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