膜タンパク質の立体構造解析は機能の重要性から世界中で精力的に行われているが、 膜タンパク質の場合、水溶性タンパク質とは異なり、生体膜という極めて疎水的な環 境に存在するためタンパク質そのものを安定に抽出することが難しくX線やNMRによる 構造解析が困難な状況にある。一方、立体構造解析とは対照的にアミノ酸配列の情報 は、ヒトゲノム計画と相まって年々急増している。よって膜タンパク質の立体構造を アミノ酸配列より予測することが可能になれば、機能の予測や新薬の開発、人工タン パク質の設計などに新たな知見を与えるものと考えられる。
膜タンパク質の立体構造を経験的に予測を行うにはいくつかの理由で困難がある。第 一に構造に関する経験的なテンプレートが少ない。第二に水溶性タンパク質で作られ たパラメータがほとんど役に立たない。第三に構造が似ていると考えられていた7本 ヘリックスのバクテリオロドプシン(bR)とロドプシン(Rhodopsin)の構造もかな り大きな違いがあり、テンプレートの適応範囲が小さいことがわかった。
これに対して膜タンパク質は物理化学的な予測には有利な性質を備えている。すなわ ち、まず膜内へのアミノ酸残基の侵入には疎水性相互作用が、次に膜内でのヘリック ス構造形成には極性相互作用がかなり決定的な役割を果たすことが実験的にわかって いる。また構造的にも比較的単純でほぼ同じ長さのヘリックスが平行に束になってい る。これらの利点は膜タンパク質の立体構造形成に関する理論的研究の不利な条件を 十分補うものと考えられる。
本研究のようなテーマは基本方針として3つのやり方が考えられる。アミノ酸配列を 純粋に文字配列と考えて、情報科学的アルゴリズムによって予測を行うもの、アミノ 酸配列にある程度の物理化学的な情報を割り当てて経験的に予測を行うもの、最後に 物理化学的過程を学んで予測アルゴリズムを確立するというものである。経験的なテ ンプレートが少なく物理化学的には単純な膜タンパク質の立体構造予測には、3番目 の方針で予測することが適切であると考えられる。
本研究では計算機上で物理化学的相互作用の計算を基にして、膜タンパク質の立体構造 予測法を確立することを目的としている。但し、アミノ酸配列から最終的な立体構造を まで予測することは開発時間がかかるので、ここでは、前半部分である疎水性相互作 用による膜タンパク質の判別と二次構造決定をできるだけ高精度に行うソフトウェアシ ステム「SOSUI」を開発し、インターネット(WWW)上で公開する。予測システムを インターネット(WWW)対応にすることにより、従来のCD-ROMやディスクなどの媒体に よるインストールは不要になり、インターネットにつながった全ての生物学者が利用 可能になる。