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研究の背景と目的

仮説推論はアブダクション(発想的推論)の一種であり、宣言的表現下での求 解のメカニズムに立脚しているという基盤性、診断や解釈、設計という問題に 適用できるという実用性の両面で、今後の知識処理の重要な枠組みである。宣 言的知識表現による仮説推論は、推論の筋道をガイドする役割を果たす個別的 なヒューリスティックな知識を特に必要としないことから、現状の知識処理の 大きな課題である知識獲得の負担は大幅に軽減されることになる。しかしなが ら、他の知識と矛盾する可能性を有する不完全な知識の使用に起因する非単調 推論系が必要になるため、低い推論速度が最大の問題となっていた。この問題 を克服し仮説推論を真に実用的知識処理手法とするために、我々は1988年から 研究を推進し、これまでに

  1. 推論パスネットワークによる高速仮説推論法、

  2. 演繹データベース手法を利用した変数を含む述語論理表現に適用できる仮説推 論法、

  3. 類推の利用による高速仮説推論法、

  4. 経験に基づく学習機能を備えた仮説推論法、

  5. 知識ベース・コンパイルによる高速仮説推論法、

  6. 0-1整数計画の近似解法を用いる準最適解計算の多項式時間仮説推論法、

  7. ネットワーク化バブル伝播法による準最適解計算の仮説推論法、

を創案、開発してきた。仮説推論を含む非単調推論系の計算複雑度は1988年に NP 完全と証明され、通常の推論法の範囲に滞っていたのでは問題規模に対し て指数的に増大する推論時間の壁を克服できないが、上記34は人工知能 的アプローチにより、また567はより計算科学的アプローチにより、 この問題を克服する方途を示したものと位置づけられる。

仮説推論の枠組みは非常に有用であるにもかかわらず広く使用されるに至って いない主要な要因は、速度の問題が克服されていなかったことによるといえる。 本研究では、上記の高速仮説推論法の成果を広く使用できる形態のソフトウェ アツール化し、新しい知識処理の枠組みの利用拡大を可能にすることを目的と する。特に、可能な要素仮説に数値的な重みを付し、この重みの和(コスト) の最小な解仮説を求める重み付き(あるいはコストに基づく)仮説推論に焦点 を当て、我々が開発してきた準最適解を多項式時間で求める仮説推論法のツー ル化を図る。命題論理表現版だけでなく、より豊かな表現能力を提供する述語 論理版(領域限定の述語ホーン節)の重み付き仮説推論に対して、準最適解計 算の多項式時間推論システムを作成する。



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