2.わが国の技術開発動向と産業振興策の分析
および直面する諸問題
[要旨]
先端情報技術への国の支援策は、1980年代初頭までは、大手企業の協力体制
を基盤に米欧の先進技術を追いかける「護送船団方式によるキャッチアップ
型」の技術開発戦略を取ってきました。しかし、米国が知的財産権の利用管
理を強化し、ソフトウェア著作権の侵害などを厳しく取り締まるようになっ
たことや、二番手戦術が効かないソフトウェア技術が主力となったことで、
これまでの技術開発戦略は機能しなくなりました。そこで現在では、製品の
シーズとなる技術を自ら産み出す「フロントランナー型の技術開発」への移
行が余儀なくされています。
しかし、そのためには、「1. 米国の技術開発の仕組みや制度の調査・分析
」の b)で述べた大学等におけるオープンかつコンペティティブな評価システ
ムや、c)で述べた行政側にプログラムマネージャのような技術開発全般を運
営、評価出来る人材を配置するなどの体制が必要であり、さらに、e)で述べた
ように大学の研究者にインセンティブを与える法的制度の整備が不可欠です。
これらを実現するためには多くの省庁にまたがる調整が必要で、従来の省庁間
の縦割り行政が大きな弊害となっています。
一方、インターネットなど新しい情報インフラの普及により、産業のボーダ
レス化が進み、世界のトップクラスの技術と市場規模を有する製品以外は通
用しないという厳しい競争社会に突入しています。しかし、日本は情報技術
の活用や人員の配置などの面で米欧企業に大きく遅れをとっており、多くの
産業で国際競争力の低下にあえいでいます。大手メーカは、分社化などの組
織改編を実施したり、他の企業との合併・吸収を積極的に進めるなど、転換
を図っています。この結果、従来の家族主義的経営方式や終身雇用制度から
利益を最優先する弱肉強食型経営への移行を余儀なくされています。
政府も産業界が転換期にあることを認識し、総理大臣がリーダシップを取る
産業競争力会議を開催したり、新産業の育成・振興のため、補正予算を投入
するなどの策を講じています。しかし、それに先行する国としてのビジョン
の欠如や新産業の創造や育成への重点的な投資が行われていないことが指摘
されています。この背景には、行政側に情報関連の専門家が不足しているこ
とや、情報技術が産業の基幹技術であることを政策立案担当者が十分理解し
ていないという実態があるようです。
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