1. 米国の技術開発の仕組みや制度の調査・分析
[要旨]
この調査では、情報技術分野で世界をリードしている米国を中心に
1) 連邦政府が支援する情報技術分野の研究開発の仕組、制度、
運営方法
2) その成果の商品化や市場参入の支援の仕組み
などを調査し、日本の現状と比較することでその弱点を調査・分析しました。
具体的には、研究開発から成果の市場投入までを、次の4つの段階に分けて、
官、産、学のそれぞれが果たしている役割を比較しました。
◆上流段階: 多くのアイデアが誕生し、予算を得て研究開発が始まる。
◆中流段階: 研究の発展とともに、競争による淘汰が進む。
より多くの資金や人的資源を投入。
◆下流段階: 多くのアイデアや研究開発の中間成果を結集し、総合的、
もしくは部分的なシステム試作を行う。この試作は、商
品化を展望した客観的評価を可能とする。
◆企業化段階:会社を起こし、試作システムをもとに、商品となるシス
テムを開発し、市場に投入。新市場の創造を目指す。
この結果、米国においては、「上流段階」のものを「企業家段階」へと誘導す
るような、研究者や企業家を支援する仕組みが整えられていることがわかりま
した。
また、この仕組みが効率良く機能し、技術開発力や産業競争力の強化に大きく
貢献している背景には、次のような理念や制度があることもわかりました。
a)政府の持つ情報が迅速かつ詳細に公開されている。また、情報公開の
ための法律を制定し、時代に即した改正も行われている。
b)大学や研究機関では、公開競争(オープン・アンド・コンペティティ
ブ)の原則に基づき、研究テーマの採択や評価が公平に行われている。
c)行政側は、プログラムマネージャと呼ばれる各分野の専門家を雇用し、
有望な研究テーマの発掘、採択やプロジェクトの実施、運営、評価を
まかせており、実質本意の予算執行や、臨機応変な計画変更や中止が
できる体制をとっている。
d)「税金を用いた研究開発は、その成果が市場に投入されて初めて納税
者に利益が還元される」という理念に基づき、開発成果の商品化が誘
導され、国がそのためのサービスを提供している。
e)研究成果が売れた場合、発明者や大学にそのローヤリティの一部を与
えたり、企業化する場合の優先実施権を与えるなど、企業化を後押し
する制度を実施している。
f)国が率先して技術開発の将来ビジョンを策定し、重点投資分野を示す
ことで、学や産の人的資源や民間資金の集中を誘導している。また、
産業競争力強化のための施策を提言し、実施する省庁横断的組織を設
けている。
[解説]
米国で技術開発の仕組み、制度やそれらを支援する法律や人的組織が整備
され始めたのは1980年代前半からです。その背景には、当時の米国の
先端的企業が日本など外国企業との市場獲得競争に苦戦を強いられ、危機
感を抱いたことがあります。
そこで、強い米国の復活を目指し、プロパテント政策など国を挙げての産
業強化策が実施されました。それが1990年代に入り、クリントン・ゴ
ア政権の時代になるといっせいに開花し、National Information Infra-
structure (NII)の建設計画に始まる新しい情報技術の開発(HPCC)計画や次
世代インターネット(NGI)計画、それを応用する電子商取引(EC) や電子図
書館プロジェクトが次々に打ち出されました。
国としての明確な将来ビジョンが提示されたことにより、民間資本の情報
化投資と官、産、学における先端情報関連技術の研究開発が活発になり、
インターネットのように大きな社会的インパクトを持つシステムが普及し、
ついには経済活動や社会構造をも変える勢いを持つに至りました。
このように、高度な情報技術を基盤とした新しい産業構造やビジネスによ
って成り立つ経済を「ディジタル・エコノミー」と呼んでいます。
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