IT 技術者育成と理科系離れ防止対策アメリカ版
       〜Techies Day(テッキーズ・デー)〜

先端情報技術研究所(AITEC)
技術調査部 主任研究員
石井 英志


                      
今やIT技術者不足は世界的問題で、アメリカでも事情は深刻。日本同様、若者の理科系離れもおきている様子。これを解決しようと民間主導で"Techies Day" というイベントが実施されています。
  1. テッキーズ・デーの解説
  2. テッキーズ・デーの概要
                         
1.テッキーズ・デーの解説

以前の米国社会での成功者は医者であり弁護士であった。今や米国ではイン ターネットをドライビング・フォースとするIT社会の進展により、ITなどの 先端技術をもとに実業家として成功した者が社会の成功者と見なされるよう になった。アメリカン・ドリームを実現するには、まず先端技術のテッキー (技術の専門家)になるのが一番だということである。

最近の調査で、米国民が選んだテッキーの第1位はビル・ゲイツとなった。 彼は今世紀の最高のテッキーというわけである(2位はヘンリー・フォード、 3位はライト兄弟)。1位のビル・ゲイツも2位のヘンリー・フォードも、日 本流で言えば、技術者と言うより実業家として扱われている。

この事からもわかるように、「テッキー」は日本でいうところの「技術者」 というより、「発明家、起業家、そして実業家」としての才能を含む言葉で ある。今の米国では、このような「テッキー」をいかに生み育てるかに多く の人が腐心している。

たしかに「テッキー」に最も近い日本語は「技術者」であろう。しかし、 「技術者」という言葉には、「新技術を創造し、起業し、実業家となって富 を築く」というサクセス・ストーリは希薄である。むしろ、若者受けしない、 一生コツコツと物作りに励む無名の職人像が浮かぶ。

井深 大氏、盛田昭夫氏、本田宗一郎氏、稲盛和夫氏などはまさしく日本の テッキーである。ただし、日本人のこれらの人々に対する一般認識は、「偉 大な経営者」であって、技術者という認識はあまりない。中には「技術者」 と呼ぶのは失礼だと思っている人も少なからずいるであろう。

日本では学生の理科系離れが問題にされているが、こうした技術者に対する 古いイメージが、かなり影響しているように思える。 IT革命の時代に向け て技術者の役割の重要性を訴え、イメージアップを図る運動が日本にこそ必 要なのではないだろうか。

◇ ◇ ◇ ◇                               
 
米国は1999年からTechies Day(テッキーズ・デー)という日を設け、毎年 10月の第一火曜日を、技術者を称えて子供達にテクノロジーのすばらしさを 伝えようという日に決めた。

米国における技術者(特にIT関係技術者)に対する需要はますます増加して いる。商務省の調査によると、2000年から2006年の間に米国内で新たに必要 となるIT技術者は140万人となっており、これは過去50年間で達成された数 字に匹敵するという。

Techies Dayはこの技術者不足に対する対応策と位置付けられている。国民 に技術者不足問題の重要性を認識させ、子供達に対して科学技術の啓蒙を行 い、科学技術に目を向けさせることにより、将来に向けて優秀な技術者を確 保することを目的としている。この運動、日本で言えば毎年10月に行われる 情報化月間に相当するが、建前は別として、とにかくバーベキュー大会でも 何でもやって楽しもうというのを主催者側から提案しているのが如何にも米 国らしい。Techies Dayの具体的内容については後述の「テッキーズ・デーの 概要」をご覧頂きたい。

Techies Day運動の特徴を一言で言うと「企業による草の根運動」となるだ ろう。この運動はある企業が提案して、実行のための非営利組織を設立し、 他の企業がスポンサーとなり、趣旨に賛同した各地の企業がボランティア的 に参加してイベントを行うという形態で全国に広まっている。米国政府から の支援は後追い的にあるが、あくまでも民間主体の運動である。学校側も、 特に政府からの指導があるわけではないが、この運動に協力している。

一方、日本ではお上(国)の主導なくしてこのような(私企業が提案、企画 した)社会的な運動が全国レベルで広まって行った例を見たことが無い。米 国のようなボランティア文化のなかった日本では、たとえ企業や学校が運動 の趣旨に賛同したとしても、全国規模での運動に発展することはあまり期待 できそうもない。

しかし、やがては草の根的、ボランティア的理念が推進力となって発展して きたインターネットの文化が定着し、日本も変わることができるだろうか。

                         
2. テッキーズ・デーの概要

[創設]
1年目 1999年10月5日
以後毎年10月の第一火曜日をNational Techies Dayと定める。
(今年は10月3日の予定)

注:米国では10月を"Computer Learning Month"と定め、コンピュータ教育
強化月間と位置付けている。(http://computerlearning.org/


[実行組織]
CNET.com(情報通信分野の技術情報サイト)とtechies.com(技術者向け雇
用情報サイト)が共同出資する"TechiesDay"という非営利組織が実行。
(http://www.techiesday.org/)

[スポンサー]
Atomic Tangerine、Gartner Group、Microsoft、Compaq、America Online、
GirlGeeks、Saba、Best Buy、Scientific Learning

[目的]
Techies Dayに実施するイベントを通じて、
  1. 技術者不足問題に対する国民の意識を喚起し、政府、業界、教育界のリーダー間での本問題解決のための会話を促進する。
  2. コミュニティー内の学校と技術者および企業間の関係をさらに緊密にして技術に接する機会を増やし、技術の学習を奨励する。
  3. 子供達に技術が達成してきた目覚しい偉業を認識させ、また技術者に対しては技術教育への貢献意識を高める。
[イベント]
A 主催者(TechiesDay)が行うイベント
  1. TechiesDay Webcast
    産業界、教育界、政府のリーダによるキーノートスピーチとパネルディスカッションのWebcast
  2. Workforce Development Summit
    IT労働力確保についての議論と解決ステップの決定を行うための政府、産業界、教育界のリーダによるサミット開催
  3. Tech Corpsとの連携(Grassroots volunteer matching program)
    技術者のボランティアによる教育現場での啓蒙活動の斡旋(Webを使用したボランティア活動希望者とボランティア受入希望者とのマッチング)
  4. Science and Technology museum events
    全米250以上の科学技術博物館における技術教育啓蒙のためのイベント
B 主催者(TechiesDay)が行うコンペティション
  1. TechieTeam 2000
    科学技術教育に取り組んだチームからの応募にもとづいて、優秀なチームを選考し、発表する
  2. Techies of Tomorrow
    9−12グレードの学生(高校生)によるコンペティション。TechiesDayにキックオフ。応募により技術習得の成果を競う。優秀者は2001年5月に表彰される
C 主催者(TechiesDay)からの呼びかけで学校、組織、企業、コミュニティー等が草の根的に行うイベントの例
  1. 地域の技術者が学校で講演等のボランティア活動を実施
  2. 子供達が会社を訪問してどんな技術が使われているのかを見学
  3. 企業内で技術者を称えるイベント(Bar-B-Q大会等)を実施
  4. 地域内で技術サミットを開き、技術者不足問題に関して議論
  5. 地域内での科学/技術フェアの開催