フランスの新ソフトウェア政策について

フランス政府は1999年12月7日、議会に対して、政府調達のインターネット利用 及び政府や公共機関で使用するソフトウェアを、ソースコード公開、改変自由の フリーソフトウェアに限定するという画期的な法律(Laffitte法案 no.117)を提出した。

これは、政府や公的機関で使用するソフトウェアについて、当初、それら機関より 受託してソフトウェアを開発した企業が、そのソースを秘匿したり、著作権を盾に そのソフトウェアを改変する権利を他社に与えないことで、その後の改良・拡張など その後のサービス業務を随意契約により独占するという従来の産業構造を改革する 効果を有する。

この法律により、当初のソフトウェア開発会社と、その後のサービス提供会社は 切り離すことができ、サービスについても新規参入が可能となり、競争が導入され る。これにより、当初のソフトウェア開発の1円入札のようなことはおこらなくなる。

フランスにおいても、主要なソフトウェアパッケージは米国製であり、また、ソフト ウェア開発も米国資本の企業が受託ソフトウェア開発、およびサービス業務の市場に おいて、大きなシェアを独占している。最近、フランス資本のソフトウェア・サービス 業務を行う企業が成長してきており、このような新興企業の振興政策とも見ることが できる。

この法案は、別途の調査によると、EUのルールと一部不整合のところがあり、その ままでは、可決されないとの見方もあり、フランス政府のソフトウェア政策に関する 姿勢を宣伝することを実質的目的としているという見方もある。しかし、不整合 部分を修正した第2弾も準備されているようであり、フランスの対米ソフトウェア 企業への対抗政策としての側面が見て取れる。

しかし、このようなフランスの対米戦略と見るよりも、公共部門のサービス用のソフ トウェアは、多くは税金で調達されるものであるから、そのソースを含めてオープン で改変自由な公共財であるべきとの主張も納税者からみると自然であり、現在、多く の既得権が米国資本のソフトウェア企業によって握られていることの方が不自然との 見方もある。

特に、最近は共通プラットフォームとなるソフトウェアは標準化し無償とすべしとの オープンソースソフトウェアの考え方も多くの人の支持を得ており、そのような流れ に沿ったものとも見ることができる。わが国においても、検討に値する政策である。

内田@先端情報技術研究所(AITEC)



3名の法案立案者による前文と
法案495(当初法案)、法案117(討論後の法案) の和訳

(原文は仏語)
公共機関内でのインターネットおよびフリーソフトウェアの使用を一般化することを目的とした法案に関する討論会 _ 1999年12月16日閉会

1999年12月7日、我々は、討論会および討論会後の議論にもとづき、我々の法案に改正を加え、同法案は第495号から第117号となった。きわめて複雑でありかつその経済的、文化的影響が明らかな条文について、我々がこのような評議形式に強い関心を寄せていることにお気づきのことと思われる。この新法案の討論会は終了したが、さまざまな会議、円卓会議その他の討論において、議論が継続されるであろうことは明らかである。

Pierre Laffitte, Rene Tregouet, Guy Cabanel

法案第495号 (当初法案)


  • 第1条 国の機関と公共団体間の通信、ならびに各地方自治体間の通信は、電子手段によって行われることとする。現行手続き(通達、郵便、召集通知等)から電子メールの一般化への移行の条件は、将来の決議により明確にする。

  • 第2条 幅広い透明性と、企業による情報への速やかなアクセスの確保に向けて、公共の入札書類とその付属書類を電子通信の対象とする。 同様に応札書類も電子手段により提出する。 経過期間中は、電子通信をペーパーによる通信と重複させることができる。決議により、経過期間および要求により行われるペーパーによる通信の費用を明確にする。

  • 第3条 国の省庁、地方自治体および行政機関は、第4条に規定する場合を除いて、法律上当然に自由に使用することができ、かつそのソース・コードが入手可能なソフトウェアのみしか使用することができない。 決議で現行条件の移行の態様を定める。

  • 第4条 第3条に掲げる省庁、機関は、監督機関の交付する許可を受けた後に、特定の専用ソフトウェアを使用し、および取得することができる。決議により、当該各機関の地理的分布、および前記許可の取得の条件を明確にする。


  • 第5条 本法律の速やかな施行を容易化することを目的として、対公共機関および地方公共団体向けの電子情報機関、および対関係企業向けの参事会を各県庁に設置する。
  • 法案第117号(討論会後の法案)


  • 第1条 公共機関間の情報およびデータ交換のペーパーレス化について 国の諸機関、地方自治体および公施設法人は、2002年1月1日から、そのデータおよび情報の交換を電子媒体およびネットワーク上で行うこととする。 現行のペーパーでの交換方法から電子媒体およびネットワーク上での交換方法への移行の条件は、決議により明確にする。


  • 第2条 公契約手続きのペーパーレス化について
    幅広い透明性と、企業による情報への速やかなアクセスの確保に向けて、2002年1月1日から、公共の入札書類とその付属書類を電子媒体およびネットワーク上で公示する。同様に、公共の入札には電子媒体およびネットワークで応札する。 決議は、電子手続きへの移行の態様を定める。




  • 第3条 開かれた技術について
    国の諸機関、地方自治体および公施設法人は、2002年1月1日から、第4条に規定する場合を除いて、自由に使用しおよび改造することができ、かつそのソース・コードが入手可能なソフトウェアのみしか使用することができない。 決議により、現行条件の移行の態様を定める。




  • 第4条 フリーソフトウェア機関について
    フリーソフトウェア機関を設置する。この機関は、本法律の適用条件について国の諸機関、地方自治体および公施設法人に情報を提供する責任を負う。前記機関は、本法律の枠内に入れられるソフトウェアの使用許可について定める。 前項の機関は、公共機関内部におけるフリーソフトウェアの相互運用性に留意する。 前項の機関は、活動部門別に、自由に使用しおよび改造することができ、かつそのソースコードが入手可能なソフトウェアの不足について徹底調査を行い、この調査にもとづいて、本法律の適用除外を公共機関に許可する。 フリーソフトウェア機関は、インターネット・ワーカーに開かれるものとし、特にその決定に先立ってインターネット上で意見徴求を行わなければならない。 ・ フリーソフトウェア機関担当者1名を、各県庁内部において指名する。 決議によって、フリーソフトウェア機関の運営の態様を定める。

  • 第5条 本法律の枠内で使用されるソフトウェアの改変、再配布について
    フリーソフトウェア機関は、著作権を尊重しつつ、本法律に従って使用されるソフトウェアの改変、再配布に留意する。

  • 第6条 本法律により発生する国の支出は、当該金額までを限度として、租税通則法典第575条および第575A条に定める消費税の引上げによって財源を確保する。