「グランド・チャレンジ」の役割について

 今回は、2004年8月に公開したNetwork and IT R&D(NITRD)計画の進捗報告にあたるBlue Bookに続き「グランド・チャレンジ」という資料の日本語版を公開します。
グランド・チャレンジは、この日本語版をお読み頂くとわかるように、次のようないくつかの役割をもっています。
  1. Blue Bookは、NITRD計画が生み出した成果を分かりやすい応用例などを示しながら説明しているが、読者としては、かなりの専門知識をもつ研究者や科学者を想定しており、そのような人々に研究成果をアピールしている。

  2. これに対してグランド・チャレンジは、一般市民や政策決定者などへアピールすることを意図しており、NITRD計画が究極的に到達すべき、市民生活と密接に関わりのある典型的目標を示し、計画の価値をアピールしている。

  3. 典型的目標は、国家の繁栄や安全、国際的地位の向上、経済、政治、環境、テクノロジー、教育などの科学や技術的なもの以外の国家や市民生活における重要事項を考慮して選択されている。よって広い範囲の市民にアピールする。

  4. また、研究開発成果の実用化、目標達成までの期間を、十年から数十年の長期間を視野に入れ、情報分野とバイオ、ナノテク、エネルギー、社会、経済などの多くの分野との学際的領域を目標に設定し、国が研究者に求めている目標を示している。

  5. 目標達成に不可欠な科学技術分野の難問を取り上げ、研究者へのさらなる挑戦を求めている。

  6. このような広範なアピールにより、毎年、2兆円近い研究開発投資を正当化している。(ちなみに、NITRD計画の2004年度要求は2,147M$)


 研究開発成果は、その終了直後に評価することは難しい。その成果が実用化され、市民生活に取り込まれるのに数十年の期間を必要とすることはまれではない。インターネットはその例である。

 これからのネットワークや情報技術、特にソフトウェア技術の研究開発は、グランド・チャレンジのような多面的説明無くしては、多くの人に、その研究内容や成果の重要性を評価することは困難となるだろう。研究者でさえ、短期的目標に促われ、その数十年先に描くべき国や市民生活に対する貢献という大きな目標を忘れてしまうかもしれない。

 グランド・チャレンジのような資料を作成し、適当な間隔をおいて更新してゆくことで、NITRD計画のような大規模研究開発の初心が忘れられずに保たれるのであろう。米国はグランド・チャレンジの作成と更新を法律により義務づけているという。
 わが国の国家プロジェクトにおいても、国民への理解を得るとともに、その成果の国民への還元を常に意識するために、このような資料の作成と保持が必要になるのではないだろうか。

内田俊一 (財)日本情報処理開発協会 参与 先端情報技術調査担当


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